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デジタルノートとトランスクルージョン



倉下忠憲先日、Notionに新しい機能が追加されました。

Designing Synced Blocks

あるページのブロックを別のページに同期的にコピーできる機能です。

どんな機能か?

たとえば以下のようなページがあったとします。

この中のブロックをコピーし、下のページにぺりっと貼り付けます。

すると「Paste and sync」という選択肢が出てくるのでそれを選択しましょう。

貼り付けが無事完了しました。

一見ただのコピペに見えますが、ブロックにフォーカスすると赤字で囲まれていて他のブロックとはちょっと違うぞ、という雰囲気が漂っています。

そして、syncと銘打っているように、おおもとのページでブロックを編集すればコピペしたこのブロックの中身も編集されますし、その逆にコピペしたこのブロックを編集しても、おおもとのページのブロックも編集されます。

つまり、二つのブロックの内容が同期されているわけです。

この機能は、WorkFlowyのMirrorコピーとよく似ています。

WorkFlowyのMirrorコピー – 知的生産の技術

情報的要素を一つのページや項目下に閉じこめておくのではなく、他でも自由に利用できるようにする、という点で、この機能はいかにもデジタルノート的であると言えます。少なくとも「同期されたコピペ」は、現状アナログツールでは実現できないでしょう。

用途

使い方はいろいろ考えられます。たとえば、プロジェクトのためのページを複数を作り、それらのプロジェクトの概要をページ内でまとめておいて、ダッシュボードのようなページにその概要をシンクコピペして並べれば、プロジェクト概要の一覧が作れます。当然、その一覧上で概要を修正しても、プロジェクトページに修正が反映されるので、管理がとても楽です。

あるいは、日次、週次、年次などでタスク管理を行い、それぞれのページでタスクを同期させる使い方も考えられますが、その場合はデータベース機能を利用したほうが便利そうに思えます。

むしろ、自分の着想を書き留め、それを参照しながら考えを発展させていくときに、もともとの着想も変化していくような用途に向いているかもしれません。なんにせよ、動的な変化に対応できる機能ではあります。

Obsidianの埋め込み

こうした「別ページの情報を参照して、今のページ内に表示させる」という機能は、「トランスクルージョン」と呼ばれています。trans + includeからの造語でしょう。

たとえば、Obsidian.mdには、別ページの中身を埋め込める(embed)機能があります。実際例で見ていきましょう。

まず「倉下のセルフマネジメントの観点」というページがあるとして、次に「倉下の観点いろいろ」というページを作ります。

そして、「倉下の観点いろいろ」のページに![[倉下のセルフマネジメントの観点]]という記述を追加します。この状態でプレビューを見てみると、「倉下のセルフマネジメントの観点」の中身がそのまま表示されます。埋め込みです。

ただしページのすべてが必要ではないかもしれません。そういうときはセクションの指定も可能です。

先ほどの![[倉下のセルフマネジメントの観点]]にカーソルを戻し、「観点」の後ろに「#」を入力します。すると、ページ内の見出しがリストで表示されます。望むものを選んで決定してみましょう。

![[倉下のセルフマネジメントの観点#概要]]となりました。この状態でプレビューを確認します。

「倉下のセルフマネジメントの観点」の「概要」のセクションだけが抜粋して表示されています。まさしく「トランスクルージョン」です。

この機能は、Notionの同期的コピーとは違い、参照している側からの編集はできません。プレビューは編集できませんし、本文は上のようにリンクになっているだけだから当然と言えば当然です。よって、「トランスクルージョン」を志向はしていますが、この二つは微妙に異なる機能です。

もちろん、Obsidianは複数のページをいくつもおけるのでおおもとのページも開いておけば編集もできますし、プレビューからリンクを踏めばもともとのページにも即座にアクセスできるので不便はありません。ただ、Obsidianでは「埋め込み」であるのに対して、NotionやWorkFlowyでは「同期的コピー」になっている違いがあるだけです。

どこで使えるか

さて、この機能ですが、どこまで便利なのでしょうか。

Notionにおいて、「あるページの情報を他のページでも利用する」場合、先ほども述べたようにデータベース機能を使う方が使い勝手が良いように感じられます。なのでデータベース的に保存するのは向いていない情報においてこの機能が役立つでしょう。

たとえば、本からの引用をまとめたページを作り、他のページでそこからコピーして利用すれば、引用の誤字に気がついたときにあちこちを修正して回る必要がなくなります。

他にも、企業のビジョンや年間の目標といった、ある期間を通して、さまざまなページに顔を出す情報は同期的コピーが便利そうです。

逆に言えば、そこまで「上位」の情報でなければ頻繁に顔を出す機能ではないでしょう。

一方、Obsidianの「埋め込み」機能は、何かしらのドキュメント(あるいはプレゼンテーションのスライド)を作るのには向いています。集めてきた素材を用いて、成果物を生成するような工程です。

逆に、「素材を集める」過程ではあまり活躍しません。むしろこの連載で長らく書いてきたように、それらのノートはなるべく「一つのことを書く」ように努めるべきだからです。ページの中に記述を「埋め込む」ことをしていくと、その全体が大きくなることは避けられません。

あるいは、参照しただけで何かを説明したつもりになって、自ら書くことをしなくなるのもよろしくない姿勢です。

素材集めではなるべく自分で書くことを行い、そうして書いたもので成果物をつくろうとするときは「埋め込み」を利用する。そのような使い分けが有効でしょう。

さいごに

このように、デジタルノートではアナログノートとはまた違ったやり方・考え方が求められます。

特に今回紹介したような「リンク」や「トランスクルージョン」はまるっきりデジタルベースの発想なので、そこに馴染んでいく必要はあるでしょう。

もちろん、新しい機能ならばなんでも使いこなせなければならない、というものではありません。

単に「そういう使い方も可能である」という使い方の引き出しを増やしておくことが大切だ、という話です。

デジタルノートテイキング連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲




遂に『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』の全作業が終わり、無事校了となりました。
あとは発売日を待つばかり……というわけにもいかずプロモーション活動を頑張ってまいります。

▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中