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デジタル情報を扱う二つの構造



倉下忠憲デジタルノートではたくさんの情報を保存できます。

しかもそれは、一度に大量の情報を取り込むというよりは、日々新しく発生する「気になる」情報を一切の遠慮なく取り込んでいけることを意味しています。

そうした情報の状態に注目すれば、そこには「流れ」(flow)があると見立てられるでしょう。Twitterのタイムラインと同じように、新しい情報がどんどん追加され、既存の情報が下に追いやられていく流れです。

別にTwitterやデジタルノートに限った話ではありません。

たとえばよく使われているブログのレイアウトも同様のスタイルになっています。日々新しい情報が生まれ、それが目立つ位置に置かれると共に古い情報は下に追いやられて、目に入らなくなる。そしてまた新しい情報が生まれて、以前新しかった情報が下に追いやられていく。その繰り返しです。

このような状態になるのは仕方がありません。

デジタルノートでは容易に情報が保存でき、些細なものであっても気になるならすべてピックアップできるのですから(あるいは人間のそうした欲求に応えられるのですから)、大量の情報がそこに集まってきます。それら一つひとつを吟味し、峻別した上で適切な構造下に置かなければ保存できない、というのではやっていけないでしょう。よって、ただ流れるだけに任せる結果になります。

こうしたフロー=タイムライン型の構造がデジタルノートでは主流ですが、しかしこれだけが唯一の方法ではありません。

情報を扱う手つきには別の方法もあります。

位置づけを要請するツール

その代表例がアウトライナーです。

最近ではWorkFlowyやDynalistなどのクラウド型アウトライナーが人気ですが、それぞれのOSでも独自のアプリケーションが開発されています。各アプリケーションによって機能に違いはあるにせよ、それらすべてが「アウトライナー」であることは間違いありません。

「アウトライナーとは何か?」という議論はこの原稿の手にあまりますので、以下の書籍に議論は譲るとして、少なくともアウトライナーはフロー=タイムライン型の構造とは異なるという点はすぐに確認できるでしょう。



疑似的に場所を考えずにどんどん保存することは可能ですが、それは正面玄関的使い方ではなく裏口や勝手口的な使い方です。

では、正面玄関的な使い方とは何かと言えば、「項目を、自分で位置づける」ことです。アウトライナーでは配置場所を決めず「ただ保存する」ことができないので、保存するためにはどこに配置するかを決めなければなりません。言い換えれば、勝手に流れていくことがないのです。情報の並びが意識外に書き換えられることがない、変更しない限りは固定されている。そのような性質を持っています。

それをフィックス=リスト型の構造と呼ぶことにしましょう。

フローとフィックス

情報整理の分野において、「フローとストック」という経済学の概念が応用されることがありますが、ズレている場合が少なくありません。

たとえば、最近人気のClubhouseでは話したことが消えてしまうのでそれは「フロー」ではあるでしょう。一方でTwitterではどれだけ情報が流れていこうとも、一方でそれは蓄積されて残るデジタル情報でもあるのです。よって、「Twitterがフローでブログがストック」といった見立ては十全にその性質を捉えられていないと言えます。

情報整理において主体となるのは情報を利用する人間です(たいていは自分でしょう)。その人間にとって、情報がどのように扱いうるか(あるいは認識されるのか)という視点に立てば、機能的な分類は「フローとストック」ではなく「フローとフィックス(fix)」になります。「流れる」と「決める」なのです。

これは、現代風に言えばエグいくらいに重要なことです。どちらが優れた方法であるかという話ではなく、これらの二つの方法には違いがあり、それを目的によって使い分けないと私たちはデジタル情報とうまく付き合っていくことができない、という意味で重要なのです。

さいごに

前回確認したように、情報を統一的・画一的な手法のもとで管理していくのは無理があります。

必然的にフローなものとフィックスなものの両方が必要になるわけです。よって、それぞれの良さと機能を理解していくことが、情報整理の要石となるでしょう。

次回はまずフィックスな方から確認していきましょう。

デジタルノートテイキング連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲




いよいよ進行中の原稿が第五章を終えました。あと章二つ分です。がんばりましょう。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中