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『先送り0』はゴールであると同時にスタートでもある



大橋悦夫『先送り0』を読んだ。

先送り0(ゼロ)―「今日もできなかった」から抜け出す[1日3分!]最強時間術



本書は「先送りゼロ」という目的を実現するためのしくみを解説した本である。

このしくみはタスクシュートというツールを核にしているがタスクシュートは容れ物に過ぎず、その中身は自分の実際の時間の使い方に応じて一人ひとり違ったものになっていく。

それゆえ、「タスクシュートとは何か?」という問いに対する答えは

  • 記録を通して自分にとってしっくりくる時間の使い方を見つけ出すためのツールであり、その見つけ出した時間の使い方を通して豊かさを味わう営みでもある

ということになる。

あるいは、

  • 時間を投資する活動であると同時に、そこから得られるリターンを楽しむ活動でもある

とも言える。

そのためには、理想ではなく現実に目を向ける、プランではなくログに注目する。

自分が何にどれだけの時間を使っているのかを記録を通して再確認するところから始める。

この再確認に基づいて立てた現実ベースのプランは必然的に実現可能性が高まり、やる気が生まれ、果たしてプラン通りに実行できれば自信が得られる。

この実行プロセスを記録に残すことで、やる気と自信というバトンが翌日の自分に引き継がれる。

この、現実ベースのプラン → 実行とログ → 翌日の自分へのバトン(=現実ベースのプラン)というサイクルを滞りなく回し続けることで、安定的にリターンが得られ続ける。

会社員時代の1998年8月6日に、このタスクシュートのしくみの原型を必要に迫られる形で、それこそ偶然の産物としてつくり出したとき、ここまで整理はできていなかったし、そこから四半世紀以上も使い続けることになるとは想像していなかった。

最初はひとり静かに踊り始めた

デレク・シヴァーズの以下のTED動画は折に触れて見返しているが、1998年8月6日の自分はまさに最初に踊っている「孤独なバカ」だった。

▼2分53秒と短めの動画なので、未見の方はぜひ一度見てみてください

※書き起こしはこちら

その「孤独な踊り」はそこから8年ほど続くが、2006年2月1日に不意に思い立ってこのブログにその踊り方を公開した。

この日から「フォロワー」が生まれるが、まだ「社会運動」にはほど遠い草の根運動に過ぎなかった。

ここから次の段階に進むまでにさらに6年の歳月を要した。

6年後の2012年3月、それまで無料版として提供していたExcel版のタスクシュート(TaskChute1)に、いくつか機能を追加した有料版のTaskChute2をリリース。

自分の知らないところでユーザーとして使ってくださっていた方々がブログやTwitterで反応してくださり、想像以上にフォロワーがたくさんいることに気づいた。

『先送り0』の著者の一人であるjMatsuzakiさんもそんなフォロワーの1人だった。

タスク管理ツールTaskChute2がすごい | jMatsuzaki

3年後の2015年7月、エンジニアであったjMatsuzakiさんからクラウド版の開発の打診があり、7月16日に「TaskChute Cloud」の開発がスタート。

翌年2016年8月に無事リリースを迎え、さらにフォロワーが増えた。

ただ、うまく使えずに挫折する人が少なくなかった。

どうすれば挫折せずに使ってもらえるのか、当時はその答えに辿り着けず、その後6年の試行錯誤が続く。

2022年に「答え」が手に入るのだが、それが手に入るまでのプロセスを見事に言語化している記事を昨日たまたま見つけた。

第10回 「脚色」という仕事について|出版社トゥーヴァージンズ(TWO VIRGINS)

少し長くなるが引用する。

映画『七人の侍』や『生きる』、『砂の器』などの脚本家である橋本忍氏が自著『複眼の映像』の中で「脚色」という作業についてこんなふうに言っています。映像業界ではとても有名な言葉です。

牛が一頭いるんです。柵のある牧場のようなところだから牛は逃げられない。私はこれを毎日見に行くんです。雨の日も風の日も、あちこちと場所を変えて牛を見るんです。それで急所がわかると柵の中に入って鈍器のようなもので一撃で殺してしまうんです。そして流れ出す血を持ち帰って仕事をするんです。原作の姿や形はどうでもいい。欲しいのは生き血なんです。

今の時代では生々しすぎる喩えですし、「原作の姿や形はどうでもいい」という言葉はそうは思えません。撮影現場で「現場では脚本はどうでもいい」と言われるのは耐え難いものがあります。それでもこの橋本氏の言葉には脚色という仕事のすべてが詰まっているように思えます。この発言の中の「牛」が、言うまでもなく原作のことです。

僕程度のライターでも、原作ものの仕事、つまり脚色の依頼がくれば、その原作を何度も何度も読みます。一読してとても面白かった!と思っただけでそれを脚色することなど到底できません。橋本氏が「あちこちと場所を変え」と言うように、いろんな角度から何度も読み込んでいくと、この原作はこういうことかもしれない!とその本質を発見するような瞬間があります。つまりそれが「急所」です。原作の小説や漫画を映像として見せるにはこうすればすごく面白くなるのではないかと急所を発見した瞬間、それはファーストシーンをこうしようと思ったり、新たな登場人物を加えてこんなふうに見せてはどうかと思ったりなど様々なパターンがありますが、とにかくとてもワクワクする瞬間です。トリハダが立つような興奮に包まれることもあるくらいで、これが脚色という仕事の醍醐味かもしれません。

このくだりを読んで、ここで言う「原作」とは自分にとっては1998年8月に始めた「孤独な踊り」であり、その「脚色」の1つが「TaskChute Cloud」だと気づいた(ほかにもiPhoneアプリの「たすくま」という脚色もある)。

実は、TaskChute Cloudがリリースされたとき「かなり脚色されているな」と感じていた。

ネガティブな意味ではなく、自分で自分の「踊り」を客観的に眺めることは難しいため「他人からはこういうふうに見えるのか!」という新鮮な驚きがあった。

ただ、それが新しいフォロワーからはどう見えるのかは「原作者」である自分には一生わからない。

いずれにしても、挫折する人がいるという現実がある以上、なんとしても「急所」を探し出す必要があった。

その「急所」が見つかったのは、2022年7月にjMatsuzakiさんと佐々木正悟さんが始めた「タスクシュート100日チャレンジ」の中においてであった。

その後の展開については現在進行中のことでもあるので、また改めて書きたいが、ここまで長々と書いてきたことには一つの共通点がある。

それは、

  • 最終ゴールを先に設定した上で、そこから逆算して計画を立て、その計画に沿って実行していく

のではなく

  • 今できうる現実的な行動を積み重ねながら、その過程で偶然の力を借りつつ次々と生じる問題にその都度その場で対処しながら、順算式に進んでいく

という方針。

本書『先送り0』では、そんな方針をどのようにして見つけ出したのかの経緯を紹介しつつ、読者にとってはこの方針を「しくみ」として導入するための方法が解説されている。

「先送り0」というゴールを実現するためのスタートとなる一冊。

先送り0(ゼロ)―「今日もできなかった」から抜け出す[1日3分!]最強時間術