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ScrapboxとRoam Researchでは主役が異なる



倉下忠憲ScrapboxとRoam Researchは、ページの関連性を重視している点は似ているものの、それ以外はまったく異なる思想で作られているツールです。

ですので、単純に比較してどちらが優れているなどとは言えません。レッドソックスとレアル・マドリードのどちらが強いのかと聞かれても困ってしまうでしょう。やっているゲームが異なるのです。

さまざまな違いがあるのですが、一番大きいのは「主役」でしょう。

二つのツールでは、主役が異なっています。

二つの主役

Roam Researchにおける主役は、そのツールの使用者(つまり自分)です。

ページの基本構成が「デイリー」になっていることからもそれは明らかです。

その日に、使用者が、何をしたのか・考えたのか・読んだのか、がベースになって情報が記録されていくのですから、視点の中心は「使用者」と言えるでしょう。

一方で、Scrapboxにおける主役は、「情報」そのものです。

誰がページを作ったのか、誰が追記したかということは、たいした重みづけを持たされていません。人はおまけ(せいぜいメタ情報)に過ぎないのです。

まず記述すべき情報があり、その情報の回りに、さまざまな別の情報がつながっていく、という形になっているので、視点の中心は常に「情報」だと言えます。

主役による差異

こうした主役の違いがあるので、たとえばRoam Researchでは、ひとりでこつこつ研究(や活動)し、その情報をトラッキングしていくのが極めて得意です。その用途に最適化されているとも言えるでしょう。

一方、Scrapboxは、「情報」が主役なので(言い換えれば使用者が主役ではないので)、複数人でも使っていけます。ひとりで使うことと、複数人で使うことにたいした差異がないのです。この点は、Roam Researchでは難しいでしょう。

この差異は、ひとりだけで使っていると気がつきにくいですが、いくつか他の人のプロジェクトに所属したり、あるいは他者を招いてプロジェクトを開いたりすると、その差異ははっきりと感じられるはずです。

ああ、ぜんぜん違うツールなんだな、と。

情報と支配

別の言い方をすると、Roam Researchは、使用者がいて、その使用者の視点で情報を管理下に置くことを目指します。そのための機能もたっぷり付随しています。

一方で、Scrapboxは、情報を(使用者の)支配下に置こうとせず、むしろ自分が(あるいはそのプロジェクトに所属する人たちが)、情報に「仕えている」感覚になります。

せっせと情報を追記し、メンテナンスし、リンクでつないでいくのは、自分のためでもあるのですが、むしろそこにある「情報群」をきちんとしておきたい、という気持ちの方が大きい感じがするのです。
*ちょっとだけ『サピエンス全史』を思い出しますね。

この点は、Scrapboxが基本的には「Wiki」であるという点を思い出してみればよりはっきりするでしょう。

さいごに

情報を支配下に置くのがいいのか、そうでないのがいいか、という話に結論はありません。

ただ、知識・情報の協調ということを考えた場合は、「誰かひとりのためだけの構造」に置かれていると、それが厳しくなることは容易に想像がつきます。

個人的には、情報にせっつかれてScrapboxを日々メンテナンスしていく活動が好きですが、それはそれとしてログ的にRoam Researchに情報を貯めていくのも好きです。

基本的に好みの問題でしかありませんが、それでもこの二つの活動は基本的に別物だという認識は持っておいた方がよいでしょう。

▼今週の一冊:

今ちまちま読み進めております。細かく「資本論」を読解する本ではなく、現代においてもインパクトのある部分を紹介するという、いわば「資本論」に潜む思想の解説という感じです。



▼編集後記:
倉下忠憲



いい加減、こういう情報整理ツール群についての情報を整理したいですね……。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中