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「書き出し」の書き出し方

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倉下忠憲「さて、何から書き始めたものか・・・」

文章を書く際に、頭を抱えがちなのが「書き出し」部分です。

さすがに原稿用紙をクシャクシャにして何枚もゴミ箱に放り込む、なんてシーンは最近ではあまり見られないでしょうが、それでも真っ白のエディタを前にして、どんな言葉から紡いでいこうかと悩みを抱えている人も多いでしょう。

それだけ悩むのは、もちろん「書き出し」が大切だからです。文章執筆についての解説本ならば「書き出し」で読書の興味を引きつける、的なことが必ず書かれているのではないでしょうか。

重要な部分だから、しっかりと書きたい。そう考えると、ますます書けない。こうした構造が生まれがちです。

さて、「書き出し」はどうやって書き出せばよいのでしょうか。

書き出しのタブー

板坂元氏の『何を書くか、どう書くか』には、効果的な書き出しの方法とやってはいけない書き出しのタブーが紹介されています。効果的な書き出し法については、今回は横に置いておきましょう。そうしたことを先に考えてしまうと行き詰まりがちです。

紹介されている書き出し(リード部分)のタブーは3つ。

  1. リードを長く書いてはいけない。
  2. 言いわけをするな。
  3. 抽象的な一般論は避けること。

この三つの中で注目したいのが「言いわけをするな」というタブー。

「十分な時間がありませんでしたので」とか「私のような若輩が大先生方を前にして、なんですが」「生来の口下手のうえに、今日はノドを痛めておりまして」など、必要以上にへりくだると、相手が頭から疑ってくるということになりかねない。

これは口頭の例ですが、文章の場合でもこうした言い訳が文章の頭に並んでいると、イマイチ読む気が無くなるかも知れません。そもそも、その文章の内容に関係ないものが詰め込まれていると、文章全体の印象が散漫になりかねません。

が、個人的には「言いわけ」から書き始めてもいいんじゃないかと思います。

補助線としての楽屋話

文章の内容に関係ない要素といえば、「言いわけ」以外にも、その文章を書くに至った経緯などもあります。依頼された、毎日の更新だから、なんとなく書きたくなった・・・などなどです。こういったものを『ワープロ作文技術』の中で木村泉氏は「楽屋話」と表現しておられます。

確かに文章にとって一番重要なのは文章そのものであって、文章が書かれたいきさつは高々添え物、言ってみれば楽屋話である。(中略)楽屋落ちは読者の視点を話しの筋からほかへそらせる。真面目に筋に乗ろうとしてくれる読者に対して失礼である。

しかしながら、この「楽屋話」がまったく無駄かというとそうではありません。木村氏はこのような「楽屋話」は文章を書く際の補助線__触媒のような働きをするもの__になると述べられております。

文章をどう書いたらよいものか、まだ考えが十分まとまっていない段階で頭の中に一番はっきりあるものといえば、それは「文章を書こう」という意思、ないし考えである。(中略)その考えをとりあえず紙(またはファイル)に吐き出してみると、その吐き出すという行為の結果として、頭脳の地底湖に「活性化」の光が拡散し、これまで見えなかったものが見えだしてくることが多い。

『ワープロ作文技術』の中では、例として「著者はこの主題についてはまだあまり経験がないが、ぜひ何か書けとのお達しであるので、書ける範囲のことをかいてみることにする。」という文章が紹介されています。まさに「言いわけ」です。こうした文章でも、とりあえず書き出してみることで、それがきっかけになって次に書くことが出てくる、ということはよくあります。

で、文章が展開して十分な量になったら、先ほどの文章を消してしまう。これが補助線としての文章の使い方です。
※『ワープロ作文技術』では「コンプレックス補助線」というのも紹介されています。興味ある方は読んでみてください。

おわりに

まとめると二つのことが言えそうです。

  • 実際の文章の書き出しと、完成稿の書き出しは違っていてよい
  • 文章が書き出しやすいのならば、最終的に削除する要素でも一度書いてみる

最初から「理想的」な書き出しを意識しすぎると、なかなか書き始められません。頭の中で「こういうのは必要ないよな〜」と思っていることでも、それを書いてみると文章がするする進むことはよくあります。必要に応じて、それを後から削除すればよいだけです。

だから「言いわけ」であっても、「文章を書くにいたった経緯」でも、書き出せるのならば、そういう部分から着手してみるとよいでしょう。効果的かどうか、タブーに触れていないかどうかは後から判断すればOKでしょう。

法則というのではありませんが、「文章は削って完成する」「はじめの部分は最後に書かれる」というのは多くの文章に当てはまることではないでしょうか。

▼参考文献:

「知的文章の技術」というサブタイトルを持つ本。割と古い本なので、書店で見つけるのは困難かもしれません。テーマの決め方から、アイディアの見つけ方、文章の書き方など、一通りの知的生産術が紹介されています。


何度か紹介していますが、文章の作り方(構成法・書き方)について書かれた本。わかりやすく実用的です。

» ワープロ作文技術 (岩波新書)


▼今週の一冊:

本文中で原稿用紙のくだりを書いていて、思い出したのが次の一冊。以前メルマガの企画でインタビューさせてもらったときに、著者の酒井さんは、

「最初は大きいブロック付箋に書いて、KJ法的にまとめて、その後一気に原稿用紙に書いて、推敲も印刷してもらったものも送ってもらって、全部手書きで推敲しました」

とおっしゃっていました。これを聞いてちょっと感動したのを思い出しました。私も原稿用紙に万年筆でコリコリと文章を書くのは大好きですが、さすがに本一冊分だと腱鞘炎になりそうでちょっと試せませんね・・・。

ちなみに本の内容は、42個の小さな工夫を集めた本、という体裁ですが、それ以上に著者の考え方やアプローチの方法に考えさせられるものが多く含まれています。


▼編集後記:
倉下忠憲



物書きをメインジョブにして学んだことはたくさんあります。たとえば「本を一冊書くこと」と「本を何冊も書き続けること」はまったく別のものだ、ということ。もう一つは「一冊の本を書くこと」と「複数の本を並行して書き進めること」には別のアプローチが必要だ、ということ。

後者の感覚が掴めなかったので、最近苦労していました。そういう苦労もそろそろ(一冊分は)軽くなりそうです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。