プレゼン本番!の巻
都内某所。一人の青年が青白い顔をして30人ばかりの人に向かって何かを説明していた。
ベック君:以上が弊社からのご提案内容となります。ご検討のほどよろしくお願いします。
発表中は頭が真っ白で、何を話したかほとんど覚えていなかった。早口すぎる出だしに、オオハシ課長が少し茶目っ気のある表情で押さえて押さえてとジェスチャーをしていた場面だけ妙に鮮明に思い出された。
手元を見ると、いざというときの為に用意しておいた、使いこんでボロボロになった2in1両面印刷のプレゼン資料があった。結局見ることはなかったが、なぜかこの資料を見ると「大丈夫」という気になれた。
まだ心臓のどきどきが鳴り止まないうちにプレゼンを聞いていたクライアントから質問が投げかけられる。
資料を作る際にそれなりの量の情報をインプットしていたこともあり、簡単な質問であればベック君でも答えることができた。しかし、技術的な話になってくると徐々に答えに窮するようになっていった。そろそろ頃合と見たオオハシ課長が「それなら実際に開発をとりまとめている者に説明をさせましょう」と、適宜話を周りに振ってくれた。結局そこから先、ベック君は一言も発することはなかった。
一通りの質疑応答が終わり、最後の挨拶をオオハシ課長が行う。
オオハシ課長:何か不明な点等ございましたら、またご連絡の程お願い致します。本日はお忙しいところご提案のお時間を頂き有り難う御座いました。
ST電機一行が帰り支度をはじめる中、クライアントの数名がオオハシ課長やメホリ先輩のところにやってきて雑談を交わしていた。それを横目にベック君は少しへこんでいた。プレゼンは練習の5割ぐらいの出来。質疑応答は殆ど他のメンバーに任せてしまっていた。他のメンバーが不眠不休で作り上げた提案内容や見積もりを、自分のせいで駄目にしてしまったのではないかと思うと胃が痛くて仕方なかった。
ベック君が扉を出ようとしたその時、さっきまでメホリ先輩と話をしていたクライアントのAさんに声を掛けられる。
クライアントA:今日は面白い話有り難う御座いました。とても勉強になりました。また色々教えて下さいね!
ベック君:あ、は、はいッ!宜しくお願いします!
ベック君は少し赤面しながらも、やっとの思いで挨拶をする。
心臓がドキドキしていた。人から認められる事が心の底から嬉しかった。
1時間後──
メホリ先輩:それではみなさん、この一週間お疲れ様でした! 皆さんの多大な努力のおかげで、良い提案ができたと思います。出来ることはやり尽くしたと思いますので、後は吉報を待ちましょう。それでは、我らがオオハシチームの勝利を祈願して、カンパーーイ!
メホリ先輩の威勢の良い声で”打ち上げ”がスタートした。みんなが思い思いに話すなか、ベック君はオオハシ課長とメホリ先輩
メホリ先輩:まぁ、ベック君もよく頑張ったよ。緊張はしてたけど、良いプレゼンだったんじゃないかな。
オオハシ課長:そうだね。昨日の今日でよく仕上げたと思う。
メホリ先輩:ホント、最初資料見たときも、発表を聞いたときも絶望的な気分になりましたからね(笑)
笑いながら話すメホリ先輩の目は笑っていなかった。ベック君は内心びびりながらも、この二人に褒められることがうれしくて仕方なかった。
ベック君:す、すみません。
メホリ先輩:まぁ、結果オーライですよ。
オオハシ課長:そういえば、二人が資料レビューの為に会議室に詰めているときの様子はすごかったね。
メホリ先輩:いやぁ・・ついつい7割ぐらい本気出しちゃいました。
ベック君:(あ、あれで7割!) あ、あの時は本当にすみませんでした。
ベック君はあのときの激詰めを思い出して胃が痛くなった。
オオハシ課長:ほんと、メホリ君がベック君をベックベクにしてたって感じだったよね。
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ)
メホリ先輩は「ハハハハ」と笑ってはいたが、やはり目が笑っていなかった。
こんな時にラシタさんがいてくれればと思うベック君なのでした。
プレゼン本番のビギナーズハック
プレゼンに限らず、多くの人の前に立ったり、初めての人と会ったりすることで、私たちは大なり小なり緊張してしまいます。緊張すること自体は人として自然な反応なのであまり気にしすぎる必要はありませんが、ある程度はテクニックで緊張を防いだり和らげることができます。
何故人は緊張するのか?
人は緊張すると呼吸が浅くなる、脈拍が早くなる、筋肉がこわばる、汗をかく、のどが渇く等の症状に襲われます。これは昔、人が窮地に陥ったとき(敵に出会った、トラに出会ったなど)に自分が生存する可能性をより高めるために、より多くのエネルギーと酸素を筋肉に送り込む為の反応といわれています。
確かにトラと戦うにしても、逃げるにしても、筋肉の働きがより高まったほうがいいのですが、重要なクライアントへのプレゼントのときにこの反応が出るのは全くありがたいことではありません。
プレゼン本番での緊張に対処するための3つの方法
緊張しづらくなる最も確かな方法は「何度も経験を経て場なれすること」と「事前に準備すること」なのですが、これらの方法は中長期的に取り組むべき対策であり、いざプレゼン本番で緊張してしまったときの対処にはなりません。ここでは、プレゼン本番で緊張してしまったときの対処として以下の3点をご紹介いたします。
- 形になった努力の証を持ち込む
- 話を好意的に聞いてくれている人を中心に視線を移動させる
- 呼吸を大きくとることを意識する
形になった努力の証を持ち込む
何か事に当たるときに最も確かな自信の根拠になるのは如何に自分が準備し、努力したかという事実です。今回のストーリーの中でもベック君は「使いこんでボロボロになった2in1両面印刷のプレゼン資料」を持ち込んでいましたが、これが「形になっている努力の証」です。自分はこれだけ頑張ったんだから大丈夫と自分を納得させようとした際に、この様な「形になっている努力の証」がある方がより説得力が増します。
話を好意的に聞いてくれている人を中心に視線を移動させる
前回紹介したテクニックの一つ「聴衆にアイコンタクトを送る」の応用テクニックです。聴衆の中にはムスっとしている人、無表情な人、つまらなさそうな顔をしている人など様々な表情の人がいるのですが、その中にはニコニコ楽しそうに話を聞いていてくれる人や、うんうんと頷きながら話を聞いてくれている人も必ず一人ぐらいはいるものです。(プレゼンの規模や内容にもよりますが・・)
ただでさえ緊張しているのに難しそうな顔をしている人ばかりを見ていると「分かりづらいのかな?面白くないのかな?」とより一層不安が募ってしまいます。勿論、そんな不安を募らせたとしてもプレゼンの質が向上するわけではありませんので、できる限り自分が気持ちよくプレゼンができる、話を好意的に聞いてくれる人を中心に視線を移動させる方がよりよいプレゼンにつながるといえるでしょう。
呼吸を大きくとることを意識する
緊張したときの、脈拍が速くなったり体温が上がったりという症状を自分の力で変えることは非常に困難ですが、呼吸だけは自分の意識で変えることができます。プレゼン前であれば、浅く小刻みになっている自分の呼吸を整えるために、2度3度大きく深呼吸をするだけでもかなりの効果が実感できます。また、プレゼン中であれば、スライドの切れ目や章の切れ目などで呼吸を大きく取ることを意識することでペースを作ることができるようになります。
最後に
プレゼンシリーズを5回にわたってお送りいたしました。
このシリーズではごく基本的なプレゼン資料の作成、プレゼン発表のポイントについて取り上げて参りました。勿論、これで全てという訳ではありませんが、ここまで取り上げてきた内容をきっちり押さえることで一定以上のレベルのプレゼンが出来るようになると思います。
- プレゼン資料作成は「アウトライン」と「キーメッセージ」から/ビギナーズハック第10回
- プレゼン資料デザインで破綻しないためのポイント6点/ビギナーズハック第11回
- 「型」を身につけてプレゼン資料の引き出しを増やそう/ビギナーズ・ハック第12回
- プレゼンテーション発表における2つの「準備不足」/ビギナーズ・ハック第13回
次回は少し視点を変えて「情報収集」についてのビギナーズ・ハックを取り上げたいと思います。
▼今週の一冊
本当はもう少し早く紹介したかったのですが書籍『クラウド情報整理術』に私のインタビュー記事を12ページにも渡って掲載して頂きました。
著者の村上さん(@saisentanbou)と取材のためにお会いした時、むちゃくちゃ盛り上がってしまって2時間ほどぶっ通しで話し続けたことがまるで昨日のことのようです。
本の内容としても、ありきたりなクラウドサービスの説明書ではなく、クラウドをどう仕事に使っていけばいいかが丁寧に説明されています。クラウドやスマートフォンに興味を持ちはじめた人や、仕事に活かす方法を知りたいという人におオススメの一冊ですよ。
日本能率協会マネジメントセンター
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現時点(2010年9月)では最も進んだライフハック本かもしれない
去る9月26日(日)東京ライフハック研究会Vol2が開催されました。
大橋さん、佐々木さん、堀さん、倉下さん、そして自分とシゴタノ男性陣が勢揃いしていたので、今思えばなかなか・・・。
会は盛況の内に終わったのですが、僕はといえばシゴタノ!で記事にまで書いたプレゼンで大失敗という体たらく。8月9月は色々忙しかったとは言え、完全に準備不足でした。
次回は11月6日(土)を予定していますので、ご都合のつく方は是非お越し頂ければと思います。恐らくそこでBECK的重大発表もできるかと思いますので。
▼北真也:
仕事術をもっとカジュアルに! わかりやすさ重視の「ビギナーズ・ハック」をお届け。Blog「Hacks for Creative Life!」と勉強会「東京ライフハック研究会」主宰。