7月27日に新刊が発売となります。
本の内容はさておくとして(また回を改めて書きます)、この本は実験的にScrapboxで書きました、というお話を今回はしてみたいと思います。
「はたして、Scrapboxで本は書けるのか?」
Yes、というのが一応の今の答えです。
Where to the project?
まずは、プロジェクトです。
Scrapboxでは複数プロジェクトを作ることができ、私もたくさんプロジェクトを持っているのですが、はたして原稿をどこに置いていけばよいでしょうか。選択肢はいくつかあります。
- ワークスペース用ひとりプロジェクト
- ルナー・ソサエティ的共有プロジェクト
- 専用のプロジェクトを新規作成
最初は、ごく身内で共有している(ルナー・ソサエティ的)プロジェクトに原稿を置いていました。適当に読んでもらって感想などを頂けたら進捗に役立つかな、という目論見があったからです。
実際は、ワークスペース用のプロジェクトで書き、書いたものをルナー・ソサエティ的プロジェクトにコピペする、というやり方にしていました。共有すると誰でも編集できるので、万が一誤操作等で消えてしまっても対応できるようにするための施策です。
途中まではその形で進めていたのですが、共有プロジェクトにおいてその原稿ページだけが活発に動いてしまい、「更新順」や「閲覧順」のソートで、そのページ群が常に上位を占めてしまうのをみて「これは違うかな」と思い、結局専用のプロジェクトを作って、そこに原稿データを移動させました。
この切り方はいろいろあるかと思います。徹頭徹尾ひとりで管理するやり方、編集者さんや下読みしてくれる人を集めて共有プロジェクトを作るやり方、同業者を集めて互いに原稿を共有して切磋琢磨するやり方。自分の環境や進め方を見据えて設定するのがよさそうです。
How will you proceed?
続いて執筆の進め方です。
最大の問題は、Scrapboxは階層構造を作るためのツールではない、という点です。しかし、書籍はバリバリの階層構造です。このズレをどう解消するのか。
幸いなことに、二つの武器があります。
- ページ内の階層
- pin
プロジェクトの中で構造を作れなくても、ページの中ではアウトライナーのような段差を持つ箇条書きが作れます。それを本の構成案に対応させれば多少はなんとかなります。
さらに、それぞれのページは任意でソート順を固定させることができます。ですので、「はじめに」「第一章」「第二章」といったページを作り、それぞれを順番にpin打ちしていけば、配列を作ることができます。
※順番にpin打ちされたページ群
My writing style
ということを踏まえた上で、実際どう書き進めたのかを紹介します。
まず、一枚のページに「目次案」をがっつり放り込みました(ちなみに、この目次案はWorkFlowyで作成したものです)。各章のタイトルと、項目名が並んだ概要です。
次に、それぞれの項目を「切り出し」ました。
上記はサンプルですが、これを繰り返すことで、それぞれの項目のページが作成されます。で、そのページ内で項目を記述していきます。
これにより「その項目」だけにフォーカスして執筆を進めていけるのですが、残念ながら前後の流れが把握できません。よって、項目が完成したら、章用のページを作り、そこに貼りつけます。それで前後の流れを確認します。
つまり、まず大きな塊を作り、それを小さく切り出して書いていき、書き上がったら再び大きな塊に戻して流れを整える。そういう手順です。
実際はもう少し細かい話があるのですが、大筋では上記のような流れで執筆を進めました。
※最終的にはこうなりました
ただ、Scrapboxでは、(UserScriptによって)個別のページの文字数は確認できるのですが、複数のページの総文字数はわからないので、それを確認するために完成した原稿はScrivenerにいれておきました。これにはバックアップ的な意味合いもあります。
My UserScript
Scrapboxで小さな部品的記述を進めていくのは問題なかったのですが、それらを統合して、一つの「章」を形成したときに、若干使いにくさが出てきました。2万字ほどの文章の全体像を掴まえるのが難しいのです。
よって、本文から見出しだけを抽出したアウトラインをWorkFlowyに作っていたのですが、あまりにその作業が面倒なので、別途UserScriptを作成しました。
このUserScriptのおかげで、長い文章であってもあまり負荷なくScrapboxで扱えるようになりました。その他、Scrapboxのカスタマイズもいろいろ効いています。
さいごに
もともと構造志向のツールではないので、「めちゃくちゃ本作りに向いている!」とはさすがに言えませんが、それでもやってやれなくないことは確かです。足りない機能に関しては(ある程度までなら)UserScriptで補うこともできます。
また、このプロジェクトには原稿だけでなく、ちょっと気になることや、原稿上の課題(タスク)なども保存してあります。たぶん発売後には頂いた感想のクリップなども保存していくことになるでしょう。この辺りの感覚はEvernoteに近しくあります。総合的に情報が扱える、ということです。
とりあえず、一冊書き上げてみた感覚としては、
- リッチテキストは必要ないがリンクや画像は扱いたい
- 執筆進行中に気楽に共有しておきたい
あたりの用途においては抜群の効果を発揮します。WorkFlowyやEvernoteでの執筆はちょっと違うな〜、という感覚をお持ちであれば、一度Scrapboxを試されてみるとよいかもしれません。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。