前回は、本を読むときの心がけを紹介しました。
- はずれを覚悟する
- 肯定的なスタンスで読む
- 読む状況を意識する
の三つでしたね。
ポイントはやはり二つ目の「肯定的なスタンスで読む」で、本に面白がらせていただく、という態度ではなく、自分から本を面白がってやろう、という態度であった方が、面白く本を読める可能性は高まります。
では、今回はそうして本を読み終えた後の話にまいりましょう。そこでも「読者」の役割は大きなものがあります。
感想を書く
面白い本を読んだ、と感じたら、その本について感想を書いてみましょう。この感想については二種類あります。
- 自分だけの感想
- 他人に読ませる感想
難易度が低いのは前者でしょう。しかし、後者も見据えておきたいところです。
とりあえず、どちらの場合でも、本を読んで「面白かった」で終わらせるのではなく、どこが面白かったのか、どのように面白かったのかを考えることが必要です。
そのために役立つのが、次の三つのアクションです。
- 気になったところをマーキングしておく
- 思いついたことをメモしておく
- 読了後に再読する
気になったところをマーキングしておく
面白いな、引っかかるな、かっこいいな、などなど何かその箇所に頭をよぎる部分があれば、マーキングしておきましょう。赤ペンで傍線を引いても良いですし、ページの端をドックイヤーしておくのも良いでしょう。本に手を入れるのが嫌な場合は、付箋を貼っておくことでも構いません。
この作業には二つの意味があります。一つは、読書中にもう一度その箇所に意識をフォーカスすること。これは、散歩中に立ち止まって気になる花を眺めるようなものです。通り過ぎる風景の一部ではなく、その花としてきちんと見ること。読書中でのその意識の切り替えは、内容の理解においても重要な意義を持ちます。
もう一つは、自分が意識をフォーカスした場所を後から簡単にブラウジングできるようになることです。これは、三つ目の再読とも関わっていますので後述しましょう。
思いついたことをメモしておく
マーキングよりも少し難しいのが、思いついたことをメモすることです。単に気になる、引っかかるだけでなく、具体的に思いついたことを書き込みます。関連する事柄、ニュース、別の本など、読書経験が増えてくれば、そうした思い付きも増えてきますので、しっかり拾っておきましょう。
とは言え、これも本に直接手を入れるのが嫌な場合はなかなか難しくなります。小さいノートを常に携帯しておいてそこに書き込むか、スマートフォンなどにメモしておくのがよいでしょう。電子書籍であれば、その点は少し気が楽かもしれません。
読了後に再読する
そのように読書中に本に対してさまざまなアクションを起こしたなら、読了後、しばらく時間が経ってから、もう一度その本を手にとってみましょう。頭から一行一行読み進める必要はありません。せいぜい目次をしっかり確認し、あとは自分がマーキングした箇所、書き込んだメモについて読み返せば十分です。
自分はこの本のどこに引っかかったのか、どんなことを思いついたのか、どんな感情を持ったのか。そうしたことを振り返れば、本の印象はより深くなるでしょう。それが感想を書く手助けになります。
自分用読書メモ
自分用の感想を書くならば、別にまとまった文章にする必要はありません。内容の整理も含めて、本の中からキーワードを拾い、自分でそれを関連付けてみるだけで、内容の立体像が浮かび上がってきます。
※『学びとは何か』の読書メモ
もちろん、可能であれば文章で書いてみてもよいでしょう。少し認知的負荷は高まりますが、よりいっそう本の骨格に肉薄できるはずです。
他人用読書感想文
自分用に文章の形で感想が書けるようになれば、それを他人に読ませるレベルまではあともう一歩です。
自分はその本の概要を理解しているので、キーワードだけ拾えばそれで十分ですが、他の人に読ませる場合はそうはいきません。誰かに語りかけるように、その本の概要や、自分の感想を紹介してみましょう。
もちろん、「すべて」を語りきる必要はありませんし、そうしようと考えてしまえば、一文字も進まない可能性が高まります。別に「さわり」で大丈夫です。当たり前ですが、自分はその本の著者ではありません。単なる一読者です。だから、ざざっと面白かったところや、その面白さ具合を気楽に紹介してみましょう。
この過程を通すことで、自分がどんな感覚を持っているのかがよりはっきりしてきます。むしろこう言いましょう。自分の中だけにあるときは、その感覚はじつははっきりしないままなのです。
さいごに
このようにして、読了後に本の面白さを掘り下げる作業を続けていくと、結果的に本の面白さを見つける技術が高まっていきます。つまり、本をより面白く読めるようになるのです。
それだけではありません。そうした感想を他人に向けて発信することで、自分以外の本選びを助けることにもつなります。つまり、ここで本の情報サイクルが循環するのです。
誰かが発信した情報を利用して、自分が本を選ぶ。その本の面白さを発掘して、感想としてまとめる。世に送り出された感想は、また別の誰かの本選びの手助けになる。
このような循環が潤沢に回っていると、本全体の文化はより豊かになっていくでしょう。言い換えれば、そのような文化の構築において、読者の役割は無視できない大きさを持っています。口コミ時代であれば、なおさらでしょう。
著者は、積み重ねられた本のネットワークの上に、新しい本を築いていきます。であれば、読者も、何かしらのネットワークの上で、本の面白さを構築していくのがよさそうです。
長くなりましたが、これで「面白く本を読むための読者術」の連載を終わります。お付き合いくださり、ありがとうございます。
▼今週の一冊:
なかなか衝撃的なタイトルですが、本書の指摘には頷けるものも多くあります。
決定的なのは雇用の喪失でしょう。単にIT企業が工場よりも雇用する数がすくない、というだけに留まらず、中間層の喪失は、さまざまなビジネスモデルを棄損してしまう点は見逃せません。あるお金持ちが労働者1万人分の資産を持っていても、そのお金持ちは定食屋さんで一万人分の食事を取るわけではありません。一人の人間が使えるお金と時間には限界があり、しかもそれが非常に偏ったところで消費されて、ますます中間層の居場所が無くなっていく、という状況が考えられます。シンギュラリティ以前の実際的な問題と言えるでしょう。
他にもさまざまな問題が指摘されていますが、それでもネットが持つ力を否定しているわけではない点において共感できる本です。
» インターネットは自由を奪う 〈無料〉という落とし穴 (早川書房)[Kindle版]
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。