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本を読むときの3つの心がけ | 面白く本を読むための読者術



倉下忠憲前回は、いかに買う本を決定するのか、という話を紹介しました。著者という人、あるいはレビュアーという人、あるいは本が持つ文脈、そのつながりが本探りの道しるべとなってくれます。無作為に捜すよりも、ヒット率は向上するでしょう。

さて、本を買ったら、当然次は読む段階に入ります。ここでも、「読者」の役割は少なくありません。

今回は「読者」としての3つの心がけを紹介してみましょう。

心がけその1

一つ目の心がけは、「はずれを覚悟する」です。はずれ、という言い方がきつければ、「ピンとこない本もある」と言い換えても良いでしょう。

興味とつながりのネットワークによって本を選別していても、やはり、打率10割とはいきません。ふつうに楽しめる本で五割、すごく面白い本で三割程度がよいところでしょう。これを高いと見るか低いと見るかは人それぞれですが、スタージョンの法則から考えれば、相当な好成績と言えます。

よって、「ダメもと」とまではいかないものの、「本というのは100%面白くなければならないのである」という考えは捨てた方が良いでしょう。ともとも人と本とには相性があるので、逆に言えば、ミスマッチも起こりえます。偶然の不幸な出会いに怒りを覚えるよりは、別のことに意志力を傾けた方が本は楽しめます。

心がけその2

二つ目の心がけは、「肯定的なスタンスで読む」です。はなからバカにしたり、否定的な態度(「間違ったことが書いてあるだろう」と決めつける)で読むのではなく、自らで肯定的に「面白さ」を探しに行くことが大切です。

もともと読書という行為は、著者が「面白いもの」を書き、読者がそれを受容する、という一方通行な行為ではありません。むしろ、それは著者と読者による一種のダンスです。相互作用的な行為なのです。著者は著者なりに「面白いもの」を紡ぎ、読者はそうして提示されたものから「面白いもの」を引っ張り出す。発掘すると言ってもよいでしょう。そこには呼応があり、感応があります。

優れた著者ならば、戸惑う読者をうまくリードしてくれるかもしれませんが、そういう存在はやはり稀です。むしろ、たいていは読者側のステップの踏み方が重要になってきます。

つまり、肯定的なスタンスで読んでいないと、なかなか「面白さ」とは巡り会えない、ということです。別にすべてを褒めろ、という話ではなく、著者からの歩み寄りと、読者からの歩み寄りの二つがうまく重なったとき、「面白さ」が見出される、という点だけを覚えておけば十分でしょう。

心がけその3

三つ目の心がけは、「読む状況を意識する」です。

読書は、相互作用的な行為だと書きました。よって、読者の置かれている状況、心理、身体、といったものも多分に影響してきます。いつ読むのか、どこで読むのか、どのように読むのか、といったことが読書体験を変えてしまうのです。本に価値が内在していて、読者はそれを取り出すだけ(≒価値は常に均一)ではありません。

あるとき読んでピンとこなかった本でも、時間が経てば面白く読めるような体験はいくらでもあります。単純に、一冊別の本を読んでみるだけで、もともとの本の読書体験が変わることだってあります。

だから、ピンとこない本、難しい本、受け付けがたい本があったとしても、早急に別れを告げる必要はありません。ランダムに選んだのならともかく、何からの関連性の導きによって手にした本であれば、環境の変化で急に面白く読めることもあります。

読む場所を変える、読むタイミングを変える、読み方を変える。そのようにして、読者の方がいろいろ動いてみると、本の面白さをよりいっそう引き出せるようになるでしょう。

さいごに

「読者術」のポイントは、「本にはその中に価値があり、それは常に一定である」という考え方から脱却することです。

たしかにどう転んでも面白い本はあるでしょうし、愚にもつかない本だってあるでしょう。が、そうした極端な話は横においておいて、ごく普通の付き合いでは、読者のステップも踏み方が、面白さ発掘の鍵を握っていることを留意するのが「読者術」です。

「価値とは見出されるものである」

本の価値を見出すのは、他でもない読者その人なのですから。

▼参考文献:

読者が本の価値を引き出すための考え方とノウハウがたくさん紹介されています。インタビュー風なので読みやすいのも特徴です。

» 多読術 (ちくまプリマー新書)


▼今週の一冊:

以前にも紹介したかもしれませんが、改めて、現段階(2017年8月)で、今年No.1ブック有力候補の本です。タレブの本はいつだって面白いですが、今回もずばっと抉りとるようなことが書かれています。思想的であり、哲学的であり、でもって実用的でもある。そんな本です。

» 反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方[Kindle版]


▼編集後記:
倉下忠憲



いろいろ並行で企画を進めているのですが、思うように十全には進んでいません。というか、あるものはきちんと進み、別のあるものは勢いよく進み、さらにあるものはかなり停滞しつつある、という感じです。平均で見るとまあまあ進んでいるのですが、このバランスをどう取るのかは難しい問題のようです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由