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読者ができること | 面白く本を読むための読者術

倉下忠憲面白く本を読むための読者術」の本格的な内容に入る前に、その全体像について少し考えてみましょう。



「読者術」というのですから、当然その対象は読者ができることになります。では、読者にできることって何があるでしょうか?

本連載の見取り図

実はいろいろあります。というか、「本を書くこと」以外であれば、なんでもできる、といっても過言ではないでしょう。そのすべてを網羅することはできませんので、本連載では、3つのポイントに絞ってみます。

  • 本との接触──BookHunting
  • 中身を読む──BookReading
  • 本を読んだ後──BookTreating

それぞれ見ていきましょう。

本との接触──BookHunting

手元にもない、出会ってもいない本を読むことはできません。本を読むためには、まずその本を手に取る必要があります。よって、本を見つけること、本を探すこと、本を選ぶことが、読者の役割の一つです。

一年間で8万ほどの新刊が出版され、そしてその背後には膨大な量の旧刊が控えているような環境の中で、どうやって読む本を見つけ、選ぶのか。それが「面白く本を読むため」の鍵を握っていることは間違いありません。小売業では立地の選択が売上げに多大な影響を与えるなどとよく言いますが、面白い読書体験も最初の本選びが肝心です。

単に受動的に本を「読まされる」のではなく、面白く本を「読んでいく」ために、読者にできることを確認していきましょう。

中身を読む──BookReading

読者術は、読書術ではないとは言え、やはり本を読むのですから、そのことに関する技術も必要です。どんな本を、どのような目的で、どんな技法を用いて読むのか。それによって、本はつまらなくなったり、面白くなったりします。既存の読書術の技法を引きながら、改めて本を読むことについて確認していきましょう。

本を読んだ後──BookTreating

本は読めば終わり、というものではありません。まず第一に、その本を保管しなければいけません。これはたくさん本を読む人にとってなかかなクリティカルな問題です。最近では電子書籍の登場及び普及で、かなりマシになったとは言え、いまだに本を読むことには付きまとう問題です。

それだけではありません。たとえば、読書メモなどをいかに作るのか。これは、まさに著者の問題ではなく、読者の問題です。そして、そうした行為が全体としての読書体験を面白くしていく効果もあります。そうしたものも、読者術の一環として確認していきたいところです。

さらに言えば、その本を以下に評価し、面白さを伝えるのかというのも、著者ではなく読者の仕事の一つです。もちろん、著者は著者でその本に面白さを込めて世に送り出しているわけですが、読者が感じた面白さはそれとは違っているかもしれません。せっかく、そうした価値を見つけ出したのならば、自分も同じようにそれを世に送り出していきたいものです。そうした、感想・批評・評価についても確認していきましょう。

さいごに

以上、三つのカテゴリに分けて、読者術について考えていきたいと思います。一応、上から順番に進んでいく予定ですが、たまに前後することもあるかもしれませんので、その点にはご了承ください。

というわけで、本連載の見取り図は以上となります。次回は、「本との接触──BookHunting」について考えてみることにしましょう。

▼今週の一冊:

最初に言っておくと、極めて面白いです。「おいおい、こんなこと書いて大丈夫なのか」と心配になってくるくらい、某マーケティング系ベンチャー企業の実態が暴かれています。

とは言え、そうした批判的なメッセージが全面に出ているわけではなく、全体としては、IT化の波によって仕事を失った中年男性が、職探しに奔走している苦労話、という重み付けが強く、そちらの物語としても面白く読めます。涙なしには読めない、というほどではないにせよ、自分が同じ状況に置かれたらどうするだろうな、と境遇を重ねて読まずにはいられないところがあります。

しかし、それはそれとして、利益なんか生み出さなくても、成長さえしていれば、創業者には莫大なお金が手に入る(こともある)、という構造はやはりいびつで、中長期的には良い結果をもたらさないだろうな、ということを改めて確認すると共に、従業員に理念というニンジンをぶら下げて、徹底的にこき使う(そして、その後ポイっと投げ捨てる)という労使の関係は、日本でも似たようなことがあるな〜、ということも確認できます。

でもって、後者の話は、以前紹介したマルクスの本が指摘する問題とまったく変わっていないところが、怖くもあります。

» スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家[Kindle版]


▼編集後記:
倉下忠憲



新刊が発売できてやれやれ、というところですが、続いてかーそるの第二号の作成と、次の月くら本の作成が待っています。なかなか一息つく暇もありませんが、まあ、そんな暇を求めているのかというと、曖昧に首を振るしかない、というのが実情です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由