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『0ベース思考』に学ぶ「ヤバい考え方」

By: Terminals & GatesCC BY 2.0


倉下忠憲

脳を鍛え直して、大小問わずいろいろな問題を普通とは違う方法で考える。ちがう角度から、ちがう筋肉を使って、違う前提で考える。やみくもな楽観も、ひねくれた不信ももたずにすなおな心で考える。

スティーヴン・レヴィットとスティーブン・ダブナーによる『0ベース思考』の最初のページをめくると、上のような文が目に飛び込んできます。心に留めおきたい、すばらしい言葉です。

» 0ベース思考—どんな難問もシンプルに解決できる


それに『ヤバい経済学』の共著者なのですから、なるほどと深く納得してしまいます。彼らはこのような考え方を用いて、あの「ヤバい」本を執筆したのでしょう。ちなみに彼らは、このような思考法を「フリークみたいに考える」と述べています。

その具体的な「考え」は以下の4つ。

  • 現代生活はインセンティブのうえに成り立っている
  • 何を測定すべきか、どうやって測定すべきかがわかれば、世界はそう複雑でなくなる
  • 一般通念はたいてい間違っている
  • 相関関係と因果関係は別物だ

現代生活はインセンティブのうえに成り立っている

もし、生きていくためにはたった一つのことをやるしかない、という状況であればその人には選択の余地はありません。しかし、現代では大なり小なり選択の自由があります。行動を自分で選べるのです。

選択者がある行動Aをその他の行動よりも頻繁に行うとき、そこにはインセンティブが働いていると考えられます。そのインセンティブは、他者から見れば非合理的に思えるかもしれませんが、当人にとっての合理性がどこかにあるのです。

それを理解しないまま、「これは正しいことだから」と主張したところで、人の行動は変えられません。インセンティブに変化を与えることが必要なのです。ただし、そのインセンティブは比較的単純なものもあれば、直感的には理解しづらい複雑なものもあります。また、選択の自由が多様にある現代では、インセンティブ同士が影響し合っている可能性もあります。

インセンティブに注目するにしても、慎重に注目した方が良いことはたしかです。

何を測定すべきか、どうやって測定すべきかがわかれば、世界はそう複雑でなくなる

データがあれば、いろいろなことがわかります。それにその「正しさ」もおまけつきでわかります。

ただし「何を、どうやって」測定するのかが難しいのです。間違ったものを測定して、間違った形で世界を単純化してしまうと、後々たいへんな目にあいます。

ごくシンプルな例をあげれば、お店の好調度合いを、利益でなく売り上げ規模で測定し始めると経費の乱発がはじまるでしょう。測定したものによってフィードバックが生じ、その方向性に沿って最適化が行われていくことを考えれば、何を測定するのかは簡単に扱ってよい問題ではなくなります。

くれぐれも複雑なものを軽んじないことです。

一般通念はたいてい間違っている

この場合の一般通念は、「常識」に置き換えてもよいでしょう。

「常識」と言われるものは、科学の証明というフィルターを通過していません。常識が今そこにあるのは、単にそれが人間の理解にとって「受け入れやすい」ものであったから、という理由が大半です。そして、人間の理解がバイアスの影響を受けることを加味すれば、「常識」を真理として扱うことの危うさはすぐにわかります。

この「常識」がことごとく間違っているなら、話は簡単でした。すべての「常識」に反抗している人が、救世主となります。しかし、たいてい間違っているとなるとやっかいです。何が間違っているのかを自分で吟味していかなければいけません。ただし、それをやるだけの価値はあるでしょう。

相関関係と因果関係は別物だ

別物なんですが、人の脳はいろいろなものに「因果」を見出す癖があります。

Aが起こると、Bも起こる。だから、AがBを引きおこしているんだ。

という風に考えがちということです。実際はまったく別のCこそが原因で、それによってAとBが時間差で引きおこされているだけかもしれません。もちろん、AとBにきちんと因果関係がある場合もあります。だから、比較対照実験などによってきちんと見定める必要があります。少なくとも、それができないうちは「この因果関係は確からしい」と考えるのを保留しておいた方が賢明でしょう。

このバイアスを修正できるようになるだけで、世界はもっと興味深く__言い換えれば複雑に__見えてきます。すべてに安直な因果関係を見出せば、単純でわかりやすい世界が構築できますが、それは、実際の世界とはずいぶん異なった姿をしていることでしょう。

さいごに

今回は、『0ベース思考』のほんのさわりを紹介しました。

レヴィットとダブナーが、いかに「フリークみたいに」考えているかは、本書でさまざまに紹介されています。脳を鍛え直す一冊としては最適な本と言えるでしょう。

» 0ベース思考—どんな難問もシンプルに解決できる


» ヤバい経済学 [増補改訂版]


▼編集後記:
倉下忠憲



気がつくともう20日。スケジュールがいろいろヤバげです。「ヤバいスケジュール」というのは、全然笑えないジョークですね。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。