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「発見の手帳」の流儀からみる素材蓄積法

倉下忠憲

『知的生産の技術』の中で「発見の手帳」というものが紹介されています。ダ・ヴィンチがいつも手帳を持ち歩き、なんでもかんでもそれにメモしていたというエピソードにならって、自分たちも同じように手帳を持ち歩き、そこに日々の「着想」を書き留めておいたというのが発端のようです。

この「発見の手帳」に書き留められるのは、

まいにちの経験のなかで、なにかの意味で、これはおもしろいとおもった現象を記述するのである。あるいは、自分の着想を記録するのである。

といったもの。

この着想の記録が、知的生産の素材となっていくわけです。

今回は、この「発見の手帳」を使う上での注意点を『知的生産の技術』から引いてみたいと思います。これらは「メモする技術」や「ノートの技術」としても捉えることができるはずです。

注意点は大きく分けて3つ。

  • 手帳の形式
  • 書き方についての原則
  • 牽引を作る

それぞれみていきましょう。

手帳の形式

「発見の手帳」についての、第一原則は「いつでも身につけておく」です。当たり前かもしれませんがとても重要なことです。

「これはおもしろいとおもった現象」や「自分の着想」というのは、それが発生するタイミングがあらかじめ予想できません。三上(馬上、枕上、厠上)という言葉がありますが、「よし、メモしよう」と身構えてない時の方が発生しやすいかもしれません。

そういう時に、「あっ、メモ帳どこだっけ・・・」とか「手帳は家に置いてきたな・・・」というのでは着想を掴まえることはできません。だいたいにして着想というのは儚く消えていくものです。思いついたタイミングで掴まえておかないとアゲハチョウのようにすぐに飛び去っていってしまいます。いつでもがっちりと捕まえておくためには、当然「いつでも身につけておく」必要があります。

その必要性を満たすためには、適度なサイズを選ぶことも必要です。B5のノートなどは「日常的にどこでも持ち歩く」のはやや難しいものがあります。ポケットに入るサイズ程度の「手帳」「メモ帳」「ノート」などがちょうど良いと思います。もちろんスマートフォンもその対象に入るでしょう。

加えて、「どこでも書ける」というのも重要な点です。紙系のツールだと、ペラペラしたものは机がないと非常に記入しにくいものがあります。だいたいメモ用のガジェットにはその手の配慮がすでになされていますが、自分なりのメモツールを考える場合は、「それはどこでも使えるのか?」という自問を一つ持っておいた方がよいでしょう。

書き方についての原則

こちらはページの使い方に関しての原則です。一つのページに一つの事柄だけを記入するというもの。どれだけ空白があっても、何か書いたら別のページに移動するというわけです。

一ページ一項目という原則を確立し、そしてページの上欄に、そのページの内容をひと目でしらせる標題をつけることにした。

基本的にこれらは単に書き付けて満足するのではなく、後から利用するのが目的です。その際一つのページに複数の事柄が混ざっていると扱いが難しくなります。空白を多く作るのは「もったいない」感じもしますが、後で利用できなくなることに比べれば些細なものです。

また後から利用しようと思えば、それぞれのページに標題がついていた方が良いのも確かでしょう。複数のページを一つ一つ内容を精査しながら、目的のものを探すのは時間がかかります。その際、「標題」が付いていれば、それだけを見返していくことで素早いアクセスが可能になります。

材料を蓄積していく方法論としては、一ページ一項目とそこに標題をつけることも原則になります。

牽引を作る

これもノートの使い方でよく言われていることです。

一冊を書きおえたところで、かならず牽引をつくる。すでに、どのページにも標題がついているから、牽引はなんでもなくできる。この作業は絶対に必要である。

一般的にノート術系の本では「牽引作り」というのはノートの内容に対するアクセス効率を上げるためだと捉えられています。確かに、牽引があれば素早く内容を検索できることは間違いありません。しかし、メリットがそれだけと考えると「牽引作り」は非常に面倒に感じられます。そのノートを再び利用するかどうかもわからないのに、いちいち牽引作りするのは手間としか思えません。

実際のところ、この「牽引作り」において重要なのは、書き付けた内容を「おさらい」している点です。言い換えれば、見返している点です。

これによって、ばかばかしい「二重発見」をチェックすることもできるし、自分の発見、自分の知識を整理して、それぞれのあいだの相互関連をみつけることもできるのである。

牽引作りそのものは単なるコピペ作業であっても、その目的は一種のレビューです。自分の得た着想を振り返ることに意味があるわけです。

これをくりかえしているうちに、かりものでない自分自身の思想が、しだいに、自然と形をとってあらわれてくるものである。

書いたら書き散らかしてお終いというのではなく、それをレビューすることでより大きな、本質的な、深みのある、アイデアにたどり着くことができるわけです。牽引作りの目的はここにあります。

さいごに

今回は「発見の手帳」から、知的生産における材料の一つ「着想」を蓄積していくための方法について考えてみました。ここに書いたことは、基本的にアナログツールの使い方を念頭に置いていますが、これと同じことはデジタルツールにでも言えることです。アナログでもデジタルでも基本となる原則は同じで、その原則をきちんと押さえられれば、デジタルでもアナログでも存分に使い分けることができるでしょう。

特に最後のレビューするという作業は、デジタルにおいては見過ごされがちです。検索でひっぱってこれるデジタルにおいて牽引作りは必要ありません。しかし、牽引作りのポイントは、ノートをレビューすることです。「牽引」はそれを手助けする存在でしかありません。その意味で、レビューする必要性が感じにくいというのがデジタルツールの短所と言えるかもしれません。

Evernoteにノートを蓄積されている方は、ある程度の期間でそれらのノートを見返してみることをオススメします。

▼参考文献:

すでに何回紹介したかわかりませんし、私も何回読み返したかはわかりませんが、この連載のテキスト的存在です。

▼今週の一冊:

今回は珍しく漫画です。

小説版の『数学ガール』をご存じの方は多いと思いますが、こちらはその漫画版です。小説の第三弾の内容がテーマになっています。

「ゲーデルの不完全性定理」うんぬんよりも、何かを理解していくときの、あの少しずつ階段を上っている感覚が表現されているのが個人的には気に入っています。小説版の『数学ガール』に興味があるけれども…という方は漫画版の方からチャレンジしてみるのも良いかもしれません。


▼編集後記:
倉下忠憲
 とうとう日本でもiPad2が発売されましたね。

ツイッターの私のタイムラインでも発売日前日から大賑わいでした。えっと、今日はまあ、そんなところで・・・。いろいろセットアップとかもありますんで・・・。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。