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私が感じる、Evernoteというツールのスゴさ

倉下忠憲
私は、あまりツールに依存するのが好きではありません。適当にその時の好きなツールを使い分ける方が好みです。エディタも「これでないと文章は書けない」なんてものはありませんし、OSもWindowsやMacのこだわりもなく使っています。アナログツールでもいろいろな種類のノートを試しているので、我が家の棚に並ぶノートは結構まちまちです。メモ帳もわんさか「在庫」があります。

そんな感じで「自由奔放」にツールを使い分けているにも関わらず、ずっと使っているツールがあります。むしろ、自由奔放にツールを使い分けているからこそ、使い続けているのかもしれません。

で、そのツールは何かというと、記事タイトルにもある通り「Evernote」です。

今回は、私が感じているEvernoteのすごさ、についてちょっと書いてみます。

One’s Evernote

いまさら紹介する必要もないであろうこと「Evernote」。先日ユーザーが600万人を超えた、というニュースも流れていました。シゴタノ!の佐々木さんも「2011年も使っていきたい7つのツール」というエントリーで筆頭にあげられています。おそらくシゴタノ!男性陣は皆さんお使いの事でしょう。

面白いのは、こうして使っている人がいろいろな「形」で使っているという点です。

おそらく、大橋’Evernote、佐々木’Evernote、堀’Evernote、倉下’Evernote、北’Evernote、五藤’Evernote、という6人のEvernoteだけでも、それぞれまったく別のEvernoteがそこに存在するはずです。

『知的生産の技術』の中で梅棹氏は次のように書いています。

カード・システムのためのカードは、多様な知的作業のどれにもたえられるような多目的カードでなければならない。よけいなものをつけくわえるほど、その用途はせばめられるのである。

Evernote自体はとてもシンプルなものです。シンプルさゆえに使い方のとっかかりが見つけられない、という難しさも反面ではあります。しかし、そのシンプルさが「多目的」な使い方を支えています。

もし、これが「こういう情報をこの欄に記入して、ここに保存してください」と親切丁寧にナビゲートしてくれるツールであれば多様な使い方など生まれなかったでしょう。Evernoteはシンプルな設計で、この多様性を担保しています。

使い方の自由度が高いのに加えて、整理の可塑性が高いというのもEvernoteが強力な点です。私たちの脳細胞同士が、環境からのフィードバックで、そのつながりを強化・弱化させて、環境に適応していくように、Evernoteのノートも状況に応じてノートブックやタグによる整理を好きなように変更できます。

シンプルな設計、整理の可塑性の高さ、この二つがEvernotが情報を扱うツールとして強力な理由です。そして、それはそのまま、使い続けるほど単なるEvernoteがOne’s Evernoteに変わっていく理由でもあります。自分に必要な情報が自分に使いやすい形で入っているそのOne’s Evernoteは「補助脳」と呼んでも差し支えない存在になっているはずです。

複数の情報を一括管理

好きな使い方、自由な使い方ができる以外にもEvernoteを好んで使う理由があります。

それは「外の情報を取り込む事ができる」という点です。もちろん単純にクラウドエディタとしてEvernoteを使う事もできますが、多くの方はクリップの取り込みとか、メールによるノートの作成を行われているでしょう。こういった機能つまり、外部から情報を取り込む仕組み、が存在している点も強力です。

この仕組みが存在しているおかげで、「現場」で使うツールはなんでもOK、という事になります。何種類のノートを使い分けても、何種類のアプリを使い分けても、何種類のクラウドツールを使い分けても、最終的にデータをEvernoteに保存しておけば探し回る必要はなくなります。私のように「ちょっとツールを試す」とか「新しいノートが発売されたから買ってみる」といった事を頻繁にやる人間にとって、情報を一元管理してくれる存在はとても重要です。

もしEvernoteが、ウェブクリッパーがなかったり、スキャナから取り込んだ画像を取り込むのが非常に面倒だったり、あるいはカメラアプリで撮影した画像を送るのに手間がかかり過ぎたりすれば、情報の一元管理などやってられないでしょう。

外から情報を取り込む事が機能として存在している、というのはある意味で「脳」的な要素です。脳は自身でモノを見たりしません。光を受容する感覚器(ようするに目)から情報を受け取るだけです。そういった感覚器とのラインをつなげることで、自身が集められない大量の情報が脳に集まることになります。

EvernoteもAPIやメールを経由させることで、Evernote以外のサービスから情報を集める事ができます。

手軽にスタート

Evernoteの最大のポイントは、こういった強力なツールがものすごく簡単に手に入る、という点です。なにせスタートは無料です。無料版でも、同期できるファイル形式と月間のアップロード上限にさえ目をつぶれば、まったく違和感なく使えます。すくなくともやり始める前に一万枚の情報カードを発注する必要はありません。

情報を扱う強力なツール、第2の脳、補助脳、こういったものが無料で手に入る現代というのは、あらためてすごい事だと思います。

もちろんEvernoteに欠点が無いわけではありません。同期の不具合の問題やら、セキュリティーに対する疑念といったものもあるでしょう。単純にUIが使いにくいというのもあるかもしれません。ただ、「知的生産の技術」を、日常生活の情報にまで対象を広げ、そして敷居を下げたツールというのは今まで存在しなかったと思います。

これからの社会ではソーシャル・メディアが勢いを増し、日常的に情報を発信する人が増えてくると思います。あるいは「ライフログ」が一般化するかもしれません。そういった環境の中で手軽に使い始められるEvernoteの存在感というのはどんどん増してくるでしょう。

さいごに

今回は、Evernoteというツールの存在についてすこし考えてみました。個々の使い方もそれはそれで重要ですが、このツールが持つ意味合いについても、ちょっと足を止めて考察してみる必要があるのでは、と思った次第です。おそらくタイプライターやワープロの登場並みに知的生産においてはインパクトがあるツールではないかと、勝手に考えています。

もちろん、Evernoteは道具の一つです。最後に警句として『知的生産の技術』から引用しておきます。

道具はつかうものであって、道具につかわれてはつまらない。道具をつかいこなすためには、その道具の構造や性能をよくわきまえて、ちょうど適合する場面でそれをつかわなければならない。

▼参考文献:


情報を「情報カード」に書き込む、というのは要するに情報のデータベースを作る事、です。現代でも使える情報の扱い方に関する示唆に満ちあふれた一冊。

▼関連エントリー:

2011年も使っていきたい7つのツール 

▼今週の一冊:

知的生産に関する時間の使い方と、アナログ式ツールの使い方がメインです。面白かったのはアナログ式、つまりノートを使った知的生産術。何が面白いかというと、結構私がやっている方法と重なっている部分が見つかった所です。それは参考文献を見て「なるほどな」と思いました。書評はまた書きますが、とりあえず読了したので紹介しておきます。


▼編集後記:
倉下忠憲
Evernoteについては、堀さんがこのシゴタノ!で書かれているので、できるだけ書かないでおこうと思ってきましたが、大橋&佐々木ペアのセミナーも開催されるとのことなので、それに合わせてちょこっとEvernoteについても書いていくことにします。なんだかんだで、知的生産とEvernoteの関係性は避けて通れないものだと、個人的には確信しています。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。