『新規事業がうまくいかない理由』という本を読みました。本書は、以前も繰り返し取り上げた『頭のいい人が儲からない理由』の著者による、テーマを「企業内起業」に絞り込んだ起業に関する心得とノウハウを解説した一冊。
» 常識を疑い、自分の頭で考え抜く
» 「方法」は陳腐化するが「方向」は無限にある
» 常識というウィルスを駆除する
本書は、いうまでもなく「企業内起業」すなわち企業内で「新規事業」として起業を目指すチームに属するメンバー、あるいはそのチームのリーダー、さらにはそういうチームをバックアップする本社サイドにいるサポーターに読んでいただきたい本ですが、実は、僕のように一人で仕事をしている人にとっても役に立つアドバイスが得られます。
さらに、「企業内起業」というものを明確にするために、一般の起業である「夢起業」(と名付けてみました)についても少しご紹介したいと思います。
「現実起業」のポイント
『新規事業がうまくいかない理由』が解説するのは、企業内で起業をする上で当事者および関係者が気をつけるべきことです。
企業が社内で新規事業を立ち上げる場合、「人」「モノ」「カネ」に関しては十分なリソースが用意できても、「ハングリー精神」と「モチベーション」はむしろ、インディペンデントなベンチャーより劣っていると思ったほうがいいでしょう。
この現実を理解していないと、どんなに優秀な人材を登用しようが、どれほどマーケティングに予算を使おうが、新規事業は絶対にうまくいきません。(p.21)
これまでに「何十社も会社を立ち上げてき」た著者だけに、その言葉には重みがあります。上記引用にあるとおり、本書では繰り返し「一般の起業」(インディペンデントなベンチャー)との比較において「企業内起業」で注意すべき点を指摘します。
例えば、次のようなポイント。
●新規性よりも本業に与えるインパクトを考える
●撤退のルールを決めておく
●新企業のための評価基準をつくる(本社のものを流用しない)
●一軍メンバーを投入する
●メンバーの退路を断たない(失敗したら本社に戻れるようにしておく)
つまり、かなり現実的な起業といえます。そこで本エントリーでは「現実起業」と呼ぶことにします。
一人起業
続いて、本書が「一人で仕事をしている人」(一人起業)にも役に立つという点についてですが、それにはまず、本書で挙げられている「新規事業の目的」を見ていただくところから。以下8点(詳細は割愛)。
(1)本業の重心移動
(2)本業の周辺を強化する
(3)未来を担うビジネスにシフトする
(4)他社をキャッチアップする
(5)衰退しつつある本業を補う
(6)自社の付加価値を増すため
(7)新しい事業の種を発見する
(8)本体企業の事情(p.94)
タイトルを見ただけをピンと来る方もあるかと思いますが、要するに「次の一歩」の踏み出し先を探る手段でもあるのです(最後の「本体企業の事情」はやや趣を異にしますが)。
個人でいえば、異業種の資格取得を目指したり、会社員の人が週末起業で可能性を見極めたり、といったことがこれに当たります。そのようにとらえるなら、本書で紹介されている「企業内起業」の心構えや方法論は、ほぼそのまま個人のキャリアチェンジを行ううえでのアドバイスに変わります。
例えば、新たに始めようとしている副業(フリーランスの人なら新業務)について、先のポイントに照らしていけば、適切に評価ができます。「本業に与えるインパクト」や「撤退のルール」などはそのまま当てはまるでしょう。「一軍メンバーを投入する」という項目は、個人でいえば、自分が最も集中できる時間帯にその仕事をするかどうか、という置き換えが可能です。
『仕事は楽しいかね?』でいうところの「試してみることに失敗はない」を実践していくための具体的なアドバイス集として読むことができるわけです。
「夢起業」のポイント
「企業内起業」に対して、本書の中でも「一般の起業」という言葉で繰り返し登場する「夢企業」(と呼ぶことにします)について、『どんな仕事も楽しくなる3つの物語』の著者・福島正伸さんの『起業学―事業はシンプルに考えよう』からいくつかポイントをご紹介します。
事業はお客様に喜んでいただくことを考えるだけでいい
それだけですべてうまくいく(p.18)
これがすべて。
解説も引いておきます(繰り返し頭に擦り込みたいものです)。
そもそも人間社会のルールとは、自分が他人のためにしたことが自分に返ってくるという単純なものです。私たちが何を得られるかは、私たちが他人や社会に何を与えられるかで決まるもので、表裏一体なのです。
つまり、利益よりも優先するものを持たなければ利益は得られないということです。これは業種業界を問わない人間社会の原則です。
事業がうまくいかないときは、たいてい優先すべきことを間違えています。それが目先の利益であったり、自分であったりすれば、事業はうまくいかなくなります。(p.19)
最後に、「生業家」である僕にとって耳が痛い一節で締めくくります。
経営者はすべて起業家であるかというと、決してそうではありません。経営者イコール起業家ではなく、経営者の中に起業家がいるのです。つまり起業家であるかどうかは生き方の問題であって、職業や役職の問題ではありません。ですから、サラリーマンや公務員の中にも、同じように起業家もいれば生業家もいます。
両者の違いは、価値と感動を提供する夢を持ていれば起業家、自分の生活を維持することだけが目的ならば生業家ということになります。起業家は、夢に向けて自分よりも力のある人を動かし、世の中にある経営資源を集めて不可能を可能にしていきます。
一方、生業家は自分だけの力で収入を確保しようとしますから、生きていくだけで精一杯です。
このほかにも、シビれるメッセージが盛りだくさんの本書は、起業を志す人にも、すでに起業している人にもおすすめの一冊です。初版は2004年1月となっていますから、実にロングセラーですね(本エントリー投稿時点でAmazonにも在庫があるようです)。
まとめ
以上、「企業内起業」と「夢起業」について書きましたが、言うまでもなくどちらが優れているとか成功しやすいとか、ということではなく、同じ一つの「起業」、すなわち「新たに業を起こす」という営みを、現実的な側面からクールにアドバイスするのが『新規事業がうまくいかない理由』、創造的な側面からホットにアドバイスするのが『起業学―事業はシンプルに考えよう』、という整理ができると思います。
▼次にすること:
・「次の一歩」を踏み出すために今すぐすべきことを1つ考え、実践する
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