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書評『もしも落ちこぼれが社長になったら…』

朝から晩まで家にこもり、ずっとパソコンに向かい続けた。そしておなかが減ると100円ショップで買いだめしたペヤングソース焼きそばを食べた。

朝起きてすぐパソコンに向かい、しばらく仕事をする。

11時頃になっておなかがすいてくるとペヤングを食べる。それからまたパソコンに向かい、午後4時頃、仕事が一段落したらまたペヤング。そしてまた仕事をして夜9時頃にまたまたペヤング。夜のペヤングには生卵を入れていた。

朝ペヤング、昼ペヤング、夜タマゴペヤング。これが毎日続いた。ペヤングを食べながら、

〈やっぱりダメなのか。僕は落ちこぼれのままなのか〉

と、思った。

高校時代の成績はオール1。それが高校3年の11月からのわずか3ヶ月間の猛勉強で奇跡的に一橋大学に合格。その後、勉強そっちのけでアフィリエイトに没頭、月300万円を稼ぐアフィリエイターとしてその名を馳せる。

現在、日本一のドロップシッピング会社である株式会社もしも代表取締役の実藤裕史(じっとうひろふみ)さんによる、起業を志す人に向けた等身大のメッセージ。

──こう書くと「起業とかする予定ないし…」という方は一瞬にしてスルーしようとするかもしれません。でも、本書に綴られている“落ちこぼれ”の四半世紀には、起業そのものに役立つのはもちろん、「自分の好きなことを仕事にしたい」「自分の仕事を好きになりたい」と思っている人にとっても「ハッ」とさせられる言葉にあふれています。

ポイントは、集中力。

実は著者の実藤さんには何度かお会いしており、この本を読むまでは大人しい若人という印象でした。それが、本書の冒頭付近にある壮絶なシーンを皮切りに、勢いを増しながら突き進んでいくストーリー展開に圧倒され、あのクールな実藤さんの中ではこんなにも熱いマグマが煮えたぎっていたのか、と刮目することしきりです。

何よりも驚かされるのは、節目節目で発揮される圧倒的な集中力と持久力です。常識で考えれば到底乗り越えられないような障害を前にしても、まず行動を起こし、一気に過熱したうえで、そのまま最後まで走り抜けていく姿には神々しささえ感じます。

こういった「神業」を前にするとたいていの人は、「自分には無理…」と一線を画そうとするものですが──僕自身も、冒頭に引用したようなペヤング地獄(天国?)の中でどれだけがんばれるかはあまり自信がありません──ここで目を向けたいのは、ここまで彼を駆り立てるものは一体何なのかという核にあたる部分です。

もちろん、夢やビジョンといった言葉で説明することはできるでしょう。でも、実際のところ夢やビジョンと、日々の現実との間には、埋めがたいギャップがあるものです。

「日本の○○を変えたい。そんな思いがあるから毎日がんばれる」などという言葉を耳にすることがありますが、人が行動を起こし、そしてそれを続けられるのは、もっとシンプルで直接的な何かが作用しているのではないか、と漠然と感じていました。そんなもやもやを消し去ってくれたのが本書の中で繰り返し登場する「エネルギー」という言葉です。

エネルギーを傾ける方向が定まっていないだけだ。誰にだってエネルギーはある。そのエネルギーを集中してぶつければ、ぶち破れない壁はない。(p.11)

ともすると、人は取りかかる前から「そんなことやったことないし」とか「自分にはそういう資格はないだろう」などと「思いの壁」で行く手を自らさえぎってしまうものです。前に進みたいはずなのに居心地の良い現状を変えたくないという思いもあり、アクセルとブレーキを同時に踏み込んでその場に踏みとどまるのです。

かつて僕が(一方的に)師匠と仰いでいた人の言葉に次のようなものがあります。

 ●経営には、人・モノ・金・時間・情報・エネルギーの6つの要素がある

人やモノや金や時間や情報、すなわちエネルギー以外の要素については、どれも馴染みのあるものばかりです。関連する書籍も豊富にあります。人心掌握術やオフィスの整理術、お金の使い方や情報管理術などなど、瞬時に書籍のイメージが浮かぶでしょう。

でも、エネルギーはどうでしょう。あまりピンと来ないのではないでしょうか。そもそもエネルギーというものは、必要な時に必要なだけ出力したり、管理したりといったことができないと思われている、少なくとも他の要素に比べて研究があまり進んでいない要素なのではないか、と思います。

つまり、先の5要素については“ハック化”が進んでいるのに対して、エネルギーはなかなかハックにならないわけです。

こんな僕でも社長になれた
実は、ペパボの家入一真社長の自伝『こんな僕でも社長になれた』を読んだ時にも感じたことですが、行動し続けるエネルギーをいかに切らさないようにするか、というノウハウは一般化とは相容れないものなのではないか、ということです。実藤さんの本を読んで、改めてその思いを強くしました。

ではどうすればいいか。

それは、今の仕事が3食ペヤング(夕食のみタマゴを投入しても可)になっても続けたいと思える仕事なのかを想像してみること。できれば、期間限定でもいいので「体験ペヤング」してみる、あるいは脳内ペヤングでもいいでしょう。その上で、自分が同じ立場だったらどう行動するか、どう考えるか、を想像しながら読むのです。

 「へぇ〜、そうだったのか。大変だったんだなぁ」

だけでは残るものは少ないでしょう。もちろん、身近で起きているドキュメンタリーとして楽しむのも一興ですが、「彼にできて自分にできないのは何が違うのだろうか?」という問題意識をもって読むことで、同じ時間でも得られるリターンはその種類・量ともに豊かになるはずです。

もしも落ちこぼれが社長になったら…
実藤 裕史
ダイヤモンド社 ( 2008-05-16 )
ISBN: 9784478004142

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