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一人ブレストの技法 ~実行に至る道~

倉下忠憲
アイデアに関する工程は「準備」「思考」「選別」「実行」の4つがある、ということを「一人ブレストの技法 ~アイデアの4ステップ~」のエントリーで書きました。今回は最後の「実行」について。

この工程では、自分のアイデアを外に出し、相手に伝えるための技術が必要になってきます。

自らのアイデアを他の人に伝えるためには、「文章」「プレゼン」「図化」「講演」「映像化」といった手段があります。今回は比較的身近な「文章」と「プレゼン」について参考になる文献を紹介します。

さらに、伝える際のキーワードとなってくる「わかりやすさ」についても触れてみたいと思います。

文章化

一番身近な伝達手段が「文章」にすることではないでしょうか。文章の種類も、その目的によってさまざま存在しています。今回考えたいのは、事実や意見を伝える文章です。

そういった文章に派手な技巧は必要ありません。おそらく次の二冊を読めば、過不足無く伝える文章を書くための技術について知ることができるでしょう。

理科系の作文技術 (中公新書 (624))
木下 是雄
中央公論新社 ( 1981-01 )
ISBN: 9784121006240
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論文の書き方 (岩波新書)
清水 幾太郎
岩波書店 ( 1959-03 )
ISBN: 9784004150923
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どちらも新書で読みやすいと思います。両者に共通して言えるのは、事実や意見を伝えるための文章を書くのに「文才」は必要ない事を主張している点でしょう。読みやすい文やわかりやすい構成を心がけていれば、誰しもが書くことができる__つまり技術の問題である__という点はこれから文章を書こうとしている人が意識すべき点だと思います。

プレゼンテーション

ビジネスパーソンであれば、文章を書くことの次ぐらいに「プレゼンテーション」(以下プレゼン)を行う機会が多いかも知れません。プレゼンにおいて必要なのは、構成を考える力、スライドを作る力、そして当日スピーチを行う力、この3点でしょうか。

プレゼンについての基本的な要素について総合的に知りたければ次の1冊をオススメします。

プレゼンテーション Zen
Garr Reynolds, ガー・レイノルズ
ピアソンエデュケーション ( 2009-09-07 )
ISBN: 9784894713284
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プレゼンを考える上で、あるいはプレゼンを実行する上で最も重要なのは何か、を教えてくれる一冊です。もしスライド作成についての知識を詳しく知りたいのならば、続編の

プレゼンテーション Zen デザイン
Garr Reynolds, ガー・レイノルズ
ピアソンエデュケーション ( 2010-06-25 )
ISBN: 9784894713994
おすすめ度:アマゾンおすすめ度


を参考にするとよいでしょう。デザイナーが学ぶべき基本的な知識をビジネスパーソンにもわかりやすいようにまとめてある一冊です。

わかりやすさ

文章でもプレゼンテーションでも共通して言えるのは「わかりやすさ」がとても重要だ、と言うことです。どんなにすばらしいアイデアでも、相手に理解してもらえなければ意味がありません。アイデアを企画から計画レベルまで持って行くためには、単に理解してもらうだけでなく共感してもらう必要もあるでしょう。それらを実現するために「わかりやすさ」というのは欠かせないものです。

いま現在、「わかりやすさ」というキーワードですぐに思い浮かぶのは池上彰さんではないでしょうか。テレビ番組なのでタレントさんに向けての池上さんの説明は確かに「わかりやすい」ものです。どうすれば「わかりやすい」説明が出来るようになるか、についてはその池上さんの著書を当たってみるとよいでしょう。

<わかりやすさ>の勉強法 (講談社現代新書 2054) 池上 彰 講談社(2010-06-17) 
池上 彰
講談社 ( 2010-06-17 )
ISBN: 9784062880541
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「わかりやすさ」のポイントは、

「自分は何がわからないのかを知る」

事だとこ本の中には書かれています。これには二つの意味が込められています。

  • 自分が説明しようとしている事に優先順位が付けられるかどうか自己確認すべき
  • 伝えるべき相手が、どれだけ理解できるかをじっくりと考えるべき


優先順位

もし優先順位が付けられなければ、強調すべき所も切り捨てるべき所もわかりません。結局のっぺりとした説明しかできないでしょう。あるいは説明するために与えられた時間が予定より短くなってしまった場合の取捨選択もできません。

自分が知っていることについても一度俯瞰してみて「何が重要なのか」を考える作業は必要でしょう。

不理解の理解

また、「理解している自分」と「理解していない相手」には当然ギャップが存在します。もしそのギャップを無視したまま説明をしてもきっと伝わらないことでしょう。何かを理解した人間の視点からの説明では、通じないことの方が多い、と言うことです。言い換えれば、「理解している自分には理解していない人の視点は持てないのではないか」という謙虚さを持つ必要がある、と言うことになります。

逆に「理解していない人」の視点から自分の説明を見ることができれば、説明不足な点やうまくまとまっていない部分を見つけられるようになるでしょう。これは実際に誰かを相手に内容を話してみることで確認できると池上さんは述べられています。もし説明力不足だと感じておられるならば、身近な人に自分が知っていることについて説明してみれば練習になるかもしれません。

まとめ

短期連載のような形で一人ブレストについて考えてきました。とりあえずは今回で一区切りにしておきます。一人ブレストの技法についてのエントリーは下の関連エントリーをご覧下さい。

「アイデアを考える」作業にもいくつかの工程があります。特に「思考」の中で必要な発想法についてはさまざまなバリエーションがあり、その一つずつが数回の記事が書けるほどに深いものです。今回は大雑把に駆け抜けてきましたが、それぞれの発想法について興味がある方は参考に示した文献を直接あたってみてください。

いろいろな文献を当たっていくうちに、オリジナルな「発想法」についてのアイデアが浮かんでくるかも知れません。もしアイデアが浮かんできたら、ぜひ「わかりやすい」説明でご自分のブログなどに記事を書いてみて下さい。

▼関連エントリー:

一人ブレストの技法 ~アイデアの4ステップ~ 
一人ブレストの技法 ~問題設定のための基本ツール~ 
一人ブレストの技法 ~発想法の4つの型~ 
一人ブレストの技法 ~アイデアを「選別」する~ 

▼今週の一冊:

佐々木さんが紹介されていますが、ちょうど私も読み終えたので同じ本ですが紹介しておきます。グラッドウェルの書く文章は本当に読み応えがあります。アイデアの着眼点もすばらしいのですが、それをまとめ上げる構成力と文章力も見事な物です。原文で読んだことがないので何とも言えませんが、翻訳のうまさというのもあるのかもしれません。

タイトルになっている「ケチャップの謎」も面白いですが、「本当の髪の色」などもオススメです。

マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選1 ケチャップの謎 世界を変えた“ちょっとした発想”
マルコム・グラッドウェル
講談社 ( 2010-07-07 )
ISBN: 9784062159159
おすすめ度:アマゾンおすすめ度


▼編集後記:
倉下忠憲



現在執筆している本もいよいよ最終段階です。

何もかもが初めての作業でけっこうあわただしい(作業時間の見積もりができないため)感じで日々が進行しております。改めて感じるのは、本を作るというのは大変な作業なんだなという事と、Evernoteの強力さです。まあこの辺はあらためて。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。