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ソーシャルメディアの航海術

20140228120939

倉下忠憲

『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す』という本を読みました。


ちなみに当記事のタイトルは、上の本の副題から拝借したものです。

雑多で玉石混淆な情報が溢れかえるソーシャルメディアの海をいかに渡っていくのか。

と、具体的な方法論を探る前に、比喩を掘り下げておきましょう。

航海に必要なものと言えば、地図と羅針盤としっかりした船ですね。天候が読めたりすると便利かもしれませんが、それは経験を積むしかありません。

まずはこの3つを揃えたいところです。

Twitter-Portfolio

Twitterの面白くて、難しいところは、フォローする人を自分で決めなければいけないところです。誰かと同じタイムライン(TL)を作っても、まったく面白くありません。自分自身でTLを構築する必要があります。

しかし考えてみると、マスメディアでもどんなチャンネルを見るのか、どんな雑誌を読むのか、どんな新聞を定期購読するのかを選択しなければいけません。たまたま似たような情報がそこで流れているから、選択の差異について深い考慮が(あまり)必要ないだけです。それぞれのメディアが違った情報を流すようになれば、Twitterとの付き合い方と同じように自分で構築していく感覚が必要でしょう。

本書の中で触れられているように、ツイッターでは情報を選別して流してくれる存在(キュレーター)がいます。しかし、キュレーターの数が増えてくれば、結局「どのキュレーターをフォローするのか」を決めなければいけません。「今が旬!オススメキュレーター100選」みたいな記事__そんなものがあれば、ですが__に従ってフォローしても、自分自身にとって面白いTLできるとは限りません。

結局、最終的な判断は自分で下す必要があります。言い換えれば、TLの面白さについての責任は自分が負うということです。

ソーシャルメディアの航海における地図とは、一番広く意味をとった「教養」と言えるでしょう。自分が使える知識が増えていけば、情報を目利きしたり、情報の目利きを目利きしたりできます。

じゃあ、どうやったらそれが増やせるのかというと、詳細は本書をご覧頂くとして、「情報のメンター」を見つけるというアプローチは有効だと思います。

ちなみに私のTL構築の方針は、

  • フォローする人は(ある程度)抑制する
  • 自分と反対の意見を持っている人もフォローする
  • たまにフォローしている人を入れ換える

あたりです。参考になるかはわかりませんが。

Update Book Contents By Reader

読書について、面白い話がありました。

著者は、自分が出した本やメルマガの感想を積極的にリツイートされています。もちろん宣伝効果も期待されているのでしょうが、それ以上の意味__著作のアップデート__があるようです。

ストック型のメディアである本は、あくまで「起点」。ソーシャルメディアを介して読者の疑問に答えたり、新たな議論が始まったりすることで、本で書いた内容にフロー的な情報が「乗っかってくる」と考えています。それも含めて、トータルなコンテンツになっていく。せっかく自分の考えをまとまったかたちで世に出すのですから、そうやってコミュニケーションすることで、付加価値が生まれると考えているのです。

紙の本は有限のコンテンツです。紙面にも限りがありますし、締め切りもあります。でも、どこかの時点で「まとめ」て出すからこそ、情報の摂取に適した形になりえます。本当に全てを網羅しようとすれば、いつまでたっても完成しませんし、仮に完成しても読み手がその全てを受け取ることはできないでしょう。

有限であることに意義があるのです。

その本に、ソーシャルメディアを「かぶせれ」ば、足りない部分を補うことができます。ある種のハイブリッドと言えるでしょう。

  • 読者の疑問に答えることは、追究の不足を補強することになります。
  • 誰かが最新の情報を、あるいはより専門的な情報を付け加えてくれることもあります。
  • 異なる視点から光が当たることで、コンテンツに立体感が出てくることもあります。

もちろん、一冊の本として完熟しているのは当たり前ですが、その果実は摘み取った瞬間に__出版された瞬間に__成長を止めてしまいます。ソーシャルメディアの活用は、そこに動的な注釈を付け加えていく行為と言えるかもしれません。

その視点に立てば、著者が提供するのはコンテンツであると共に、より大きなコンテンツの土台とも言えるでしょう。その大きなコンテンツを形成していくのは、他でもない読み手なのです。

読み手が大きなコンテンツ作りに参画している状態は、(著者を含め)みんなで一つの船を漕いでいるようなものです。もちろん、大半の漕ぎ手は一漕ぎするだけですが、それでも船は前に進んでいきます。

Investment

話は前後しますが、船を進めていくためには、出資者が必要です。率直に言うと、マネタイズの話です。

著者のアドバイスは以下。

自分を売っていかなければならない状況にあるのならば、まずは自分のコアコンピタンス──ほかの人には真似できない核になる能力はいったい何かを見極めること。そして、そのコアコンピタンスにお金を出してくれそうなところを真剣にリストアップして、片っ端から営業をかけていきましょう。

身も蓋もない話ですが、その分、役に立ちそうです。

私自身は物書きなので、本の企画を出版社に打診することと、メルマガの読者を集めることがこれにあたるでしょう。奇跡的なまでに、私は文章を書くことをまったく厭わないので(ライターさんでも厭う人は多い)、毎週配信するメルマガは最適です。もちろん数万字の書籍もヘッチャラです。

興味ある分野を__そして他の人が掘り下げなさそうな分野を__、徹底的に掘り下げていって、それを有料メルマガで公開する。明日からすぐに役立つ情報を提供しているわけではないので、経済的な効用を測ることはできませんが、それでも「面白そうだな」と購読してくれる人はいます。

本書にもあるように、それは「サポーター」や「寄付」と呼べる形に近いのかもしれません。しかし、そういう人たちが定期的に支援してくれるからこそ、安定的な航海を送ることができるようになります。定期的、というのが重要なのです。

さいごに

地図と船は紹介しました。残すは羅針盤ですが、それは本書に譲りましょう。

少しだけ書いておくと、「自分の興味」こそが羅針盤になりえます。本書の言葉を借りるなら、自分の興味があることの中で、「面倒くさいからみんなやらないけど、だれかがやらなきゃいけない」ことを率先してやっていくことです。

ふり返ってみると、自分の(ブログを含めた)著作活動も、基本的にこの方向性だったような気がしてきました。

とりあえず、メディアの形が一方通行から双方向に移行すればするほど、情報の受け取り手の主体性が問われるようになってきます。それを持ち得なければ、すぐ荒波に流されてしまうでしょう。

» 『ゴミ情報の海から宝石を見つけ出す これからのソーシャルメディア航海術』


▼編集後記:
倉下忠憲



知らない間に二月が終わってしまいました。とまあ、それは感覚の話で手帳を見返せば28日間しっかり生きていたことを想起できるのですが。2月中にKDPで新刊を発売しようと考えていましたが、3月に繰り越しですね。今月こそはなんとか。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。