さて、前回はアイデアに関わる4つのプロセスを紹介しました。今回はそのファーストステップでもある「準備」に注目してみたいと思います。準備というのは、言い換えれば「問題設定」とも言えます。適切な問題設定がなされれば、発想は大変やりやすくなります。もちろん逆もまた然りです。さて、問題設定を行う際に必要なものはなんでしょうか。
私が考えるたった一つのシンプルなツールは
「?」
です。問題設定の本質は、この「?」を持てるかどうかにかかっています。
人とコンピューターの差
コンピューターと人間は異なった能力がありますが、その中でも「疑問を持つ」というのは人間だけが持てる能力の一つです。偉大なる芸術家のピカソは
「コンピューターは役に立たない。答えを出すことしかできないからだ」
という言葉を残しています。
問題を設定するのはいつでも人間の役割です。必要は発明の母という言葉がありますが、それに習えば「疑問は解答の母」と言えるかも知れません。疑問があるからこそ答えが導かれるわけです。この流れは逆にはなりません。そして疑問の質によって出てくる答えの質も決まってしまいます。
質の高い疑問が持つ力の事例をいくつか紹介しましょう。
“So what?”
以下は『プレゼンテーション Zen』という本で紹介されている二つの問いです。
「何が言いたいのか?」
「なぜそれが重要なのか?」
これはプレゼンだけに使える問いではありません。短いメールから一冊の本にいたるまで、何らかのメッセージを伝える場合には常にこの二つの問いが有効に働きます。
「何が言いたいのか?」で自らのメッセージの本質に迫ります。伝えたいことがいろいろありすぎてまとまらない、いろいろ書いてみたけどもまとまりがない。そう言うときはこの疑問を持って全体を見つめ直してみることです。
「なぜそれが重要なのか?」はメッセージの受け取り手の立場になってみる、ということです。自分がそれをいくら重要と思っても、相手にそれを納得してもらわなければ意味がありません。同書には
「よいプレゼンターは、聴衆の身になって物を考えてようとするものだ。」
という文章が出てきますが、これはプレゼン・文章・商品とジャンルを限らず、ありとあらゆるアイデアに必要な姿勢だと言えるでしょう。
成功する人の10の質問
次に紹介するのは『すごい「考える力」!』に紹介されている質問です。上に重なる部分もありますが、そのまま引用しておきます。
- なぜこのやり方でやらなければならないのか
- 根本的な問題点は何か
- 考えられる問題点は何か
- 何か別に思い出すことはあるか
- 反対のものは何か
- 説明に役立つ比喩やシンボルは何か
- なぜ重要なのか
- もっとも困難、あるいはもっとも金のかかる方法は何か
- この点に関して異なった見方をしているのは誰か
- 実行しなかったらどうなるか
経営者が自らに問いかける5つの質問
日本でも一気に有名になったドラッカーの『経営者に贈る5つの質問』より。経営者が常に自問しておくべき疑問です。
- われわれのミッションは何か?
- われわれの顧客は誰か?
- 顧客にとっての価値は何か?
- われわれにとっての成果は何か?
- われわれの計画は何か?
こういった疑問を持ち、それに対して真摯に答える姿勢を持っていれば大きな経営方針の変化や、重要な経営判断をする際に大きな力を発揮します。もし、ビジネスパーソンの方がセルフブランディングを実行しようと考えているならば「われわれ」(企業)の部分を「私」(個人)に置き換えて問いかけてみるのもよいでしょう。つまり
- わたしのミッションは何か?
- 私の顧客は誰か?
- 顧客にとっての価値は何か?
- 私にとっての成果は何か?
- 私の計画は何か?
という具合に問いかける事で安易な「安売り競争」から逃れることができるかもしれません。
まとめ
アリストテレスは「自然は真空を嫌う」という言葉を残しましたが、人間の脳も似たような性質を持っています。空欄があれば埋めたくなりますし、空っぽのフキダシがあればセリフを考えたくなります。疑問を持つというのは、思考の真空状態をつくると言い換えてもよいでしょう。真空状態ができれば、あとはそれを埋めるようにアイデアを出していく作業をするだけです。
疑問の力を活用するための二つの心がけをあげるとすれば、
・「当たり前」の量を減らすこと
・疑問を取り逃さないこと
となります。
「当たり前」意識の中では疑問は生まれてきません。まず身の回りにある「当たり前」に「?」を貼って眺めてみましょう。もう一つは湧いてきた疑問はどんな些細なものであれ残しておくことです。アイデアは貴重なものですが、疑問はアイデアのタネです。アイデアと同様に疑問もしっかりとキャッチしておく必要があります。
今回は「疑問」に焦点を当てて考えてみました。疑問と答えはセットの存在ですが、かならず疑問が先立ちます。アイデア不足だなぁ、と感じておられる方は、まず「自分は疑問不足ではないだろうか」と自らに問いかけてみるのもよいかもしれません。
▼参考文献:
効果的なプレゼンをやってみたい方は、ぜひ。
「考えること」「思考の力」について語られた本。ハック的な要素も。
経営者だけではなく、会社の力に依存せず仕事をしたいと考えているビジネスパーソンにも心に突き刺さる一冊。
▼関連エントリー:
▼今週の一冊:
先週も紹介しましたが『デザイン思考が世界を変える』はかなり力強い本なので今週も紹介しておきます。今回は「疑問」をテーマにしましたが、この本にも「どうすれば」(How might we)という疑問が出てきます。抽象的にも具体的にも偏りすぎない問題設定をすることができれば、アイデアの足がかりはできたようなものです。そういったアプローチに関する事例が盛りだくさんの本書は、アイデアや発想に興味がある方が一読して損はない本だと思います。
というわけで、引き続き「一人ブレスト」というか発想法のお話が続きます。ちなみに、ブレインストーミングは集団発想法という意味合いなので「一人ブレスト」は一見自己矛盾的な言葉です。しかし、「自分自身の中に複数を視点を持つ」という意味合いとして捉えれば一人でもブレストできると思います。もちろん多人数でやった場合とはまた違った「発想」がでてくる事は間違いありません。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。