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一人ブレストの技法 ~アイデアの4ステップ~

倉下忠憲
前々回ブレストについて書きましたが、いつでも人を集めてブレストができるとはかぎりません。アイデアの性質によっては一人でじっくりと考えた方がよいこともあるでしょう。一人ブレストの方法、つまり一人でアイデアを出すための方法も必要になってきます。

アイデアに関係する著書を読むと、そこにある程度共通するいくつかのステップとルールを見いだすことができます。単に何かを考えるだけならばそういった手順を踏む必要はありません。しかし、効果的なアイデアを出し、活用していくためには一定のフローを使った方が便利です。

私が考えるアイデアにまつわるステップは以下の4つになります。

  1. 準備
  2. 思考
  3. 選別
  4. 実行

今回は、それぞれのステップについて考えてみましょう。

 

1.準備

これは、実際にアイデアを考える前にやっておくべき事です。人の思考というのは直接コントロールしようと思っても、なかなかできません。まず下準備をし、方向性をはっきりとさせ、焦点が定まりやすい環境を整えておく必要があります。

準備の段階で意識しておくルールは以下の二つ。

  • 目的と制約条件を設定する
  • 実現可能かどうかの制約はつけない

目的と制約条件を設定する

「何のためにそのアイデアを出すのか」というのが目的です。これが明確でないとアイデアの方向性が大きく拡散してしまいます。単に「頭使ってアイデア考えた、楽しかった」というので終わりにするならば目的を意識する必要はありませんが、最終的に実行していく事を考慮に入れるとしっかりと目的を考えておく必要があります。また目的があったとしても、その粒度が大きすぎると目的が無いのと同じような状況に陥ってしまいます。

例えば「新しいお菓子を考えなさい」というのでは、あまりにも範囲が広すぎます。これは「大手メーカーのA社が秋に発売するインパクトのあるチョコレートの新商品を考えなさい」や「町のケーキ屋さんが新しく始める、低価格でプラス一品として買ってもらえるお菓子を考えなさい」といった感じに絞り込むことができます。

もし漠然とした目的しか無いならば、自分で目的や制約条件を設定しその中でアイデアを考えてみましょう。その場合は、何度か目的や制約条件を変更して考えてみる事をオススメします。
※良いアイデアが出ないときは、「目的」の設定がずれている場合が多いです。

実現可能かどうかの制約はつけない

目的と制約条件を踏まえた上で出てきたアイデアの実現可能性は考慮にいれません。まずは、その土俵の中で出てきたアイデアを並べていくことです。この辺はブレストに共通することなので割愛します。

 

2.思考

実際にアイデアを考えるステップです。アイデアを考える手法は今までにたくさん開発されています。マインドマップやマンダラート、あるいはTRIZを使った智慧カード という方法。古典ではKJ法と呼ばれるものもあります。それぞれメリット、デメリットがあってどれを選ぶかはかなり個人的な要素です。極めて簡潔に分類すればアイデアを出すための手法は

  • 深める
  • 拡げる
  • 結びつける
  • 置き換える

この4つに集約できます。これについては、また回を改めて紹介したいと思います。

 

3.選別

アイデアにまつわるステップで意外に重要視されていないのが、このステップではないでしょうか。しかし、アイデアを選別する作業は軽視できません。思考を促すツールやメソッドを使えば10でも100でもアイデアを作り出すことができます。ただ、その中からどのアイデアを採用するのかを最終的に判断しないと実行することはできません。

「たった一つの良いアイデアは100個のアイデアの中に紛れていても、見ただけでそれと分かるか」

という命題にはNoと言わざる得ません。もしかしたらそういうアイデアもあるのかもしれません。しかし、おそらくそれは希少な存在です。たいていは数多くのアイデアが並んでいればいるほど選択するのが難しくなります。

「あの部分は良いが、あそこがひっかかる」
「あっちの方が魅力的だが、決め手に欠ける」

残念ながら人間というは選択肢が増えれば増えるほど判断するのが困難になります。行動経済学の本でもよく取り上げられますが、人は「A or B」という選択肢ならばAを選ぶのに、「A or B or C」だとBを選ぶというような事が実際にあるわけです。これはどう考えても不合理ですが、それが人間の脳の仕組みだから仕方ありません。選別というのはかなり難しい作業だ、ということは踏まえておいた方がよいでしょう。

この作業を一人でやらざる得ないならば、「寝かしてみる」という方法を使うと良いでしょう。時間を置いて見直すということです。あるいは予算や日程が許されるならばそれぞれについて簡単なプロトタイプを作ってみるという手法もあります。

 

4.実行

最終的に選んだアイデアを実行する段階です。どのようにすばらしいアイデアでもそれが実行・実現されなければ何も意味がありません。「発想法」には関係しませんが、ここまで来てはじめて「アイデア」に意味が生まれます。アイデアの発案者と実行者が異なる場合もあるでしょうが、実現化してこそのアイデアです。

 

まとめ

今回はアイデアの4つのフローについて考えてみました。アイデアというと「思考」の段階に注目が集まりがちですが、「準備」や「選別」も重要な要素です。また「実行」あってのアイデア、という事も外してはいけません。

まずはアイデアを考え始める前に「準備」として

  • 目的と制約条件を設定する
  • 実現可能かどうかの制約はつけない

この二つを意識してみてください。これは人数に関わりなく通用するアイデアを考える上でのルールだと思います。

▼参考文献:

面白法人カヤックの柳澤さんの本。これを読むとアイデアマンになれる自信が湧いてきます。

アイデアは考えるな。
柳澤 大輔
日経BP社 ( 2009-11-19 )
ISBN: 9784822247812
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 
行動経済学の本です。人間の「価格」に関する感覚がいかに曖昧なのかがよくわかります。価格や取引に関する人間の行動に興味がある方はどうぞ。

プライスレス 必ず得する行動経済学の法則
ウィリアム・パウンドストーン
青土社 ( 2009-12-24 )
ISBN: 9784791765287
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

▼関連エントリー:

「効果の上がらないブレスト」から抜け出すための5つのルール 

▼今週の一冊:

なかなか大層なタイトルですが、決して釣りではありません。物の豊かさを追い求めてきた社会の行き詰まり、そして高度情報経済社会への転換、経験価値文化の創出。世界は変化の真っ最中です。そこでカギとなるのがデザイン思考です。もはやデザインの対象範囲は「物」だけではありません。サービスやシステム、あるいは社会のあり方までがデザイン思考の影響範囲です。それは元来の「戦術」としてのデザインから「戦略」としてのデザインへの転換とも言えるかも知れません。アイデアを必要としている人から、マネジメントに関わる人まで示唆の多い一冊だと思います。

デザイン思考が世界を変える
ティム ブラウン
早川書房 ( 2010-04 )
ISBN: 9784153200128
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 

▼編集後記:
倉下忠憲
そういえば「ハックスペース」というノマドにとって超便利そうなサイトあるんですが、残念ながら対象が関東圏。関西住まいの私としては活用のしようが(今のところ)ありません。ちなみに、充実した内容ではありませんが「バッテリーオアシス」というサイトで関西圏もフォローされています。

 
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。