「アイデアが必要? じゃあブレストしよう!」
あちらこちらから聞こえてきそうなフレーズです。確かに複数の人間が集まってアイデアを出し合えば良いアイデアが出てきそうな気がしますね。
『その科学が成功を決める』(リチャード・ワイズマン)という本にはそのブレストに関して、かなり興味深い研究結果が紹介されています。
カンタベリーにあるケント大学のブライアン・ミューレンは、この方法で集団思考の有効性を調べた二十種類の実験結果を分析した。すると、驚くべきことに、実験の大半で、参加者が一人で考えるほうが、集団で考えるより量も室も上という結果がでていた。
この実験結果は、ブレストの有用性を否定するものでしょうか。私はそうは考えません。この実験で証明されたのは「効果の上がらないブレスト」がある、という事だけです。そうなると次の疑問が湧いてきます。
「効果の上がるブレストと、そうでないブレストの差とは何だろうか?」
今回はブレストについて少し考えてみましょう。
参加者の3つのルール
ブレストとはアイデアの神様とまで呼ばれたアレックス・F・オズボーン氏が開発した会議の方式です。面白法人カヤックの柳澤氏は『アイデアは考えるな。』の中で「集団で行うアイデアを出すための会議」と説明されています。
ブレストの運用にあたってはいくつかのルールがあります。正確な定義付けやルールが気になる方はウィキペディアに詳しく書かれていますので、そちらを参照してください。今回は『アイデアは考えるな。』から非常にまとまった、かつ重要なルールを紹介しておきます。
とにかくアイデアの量を出す とにかく相手を否定しない とにかく相手の意見に乗っかる
これら3つのルールを参加者が守る事で、ブレスト形式の会議が活きてきます。逆にこのルールを守っていなければブレストと呼ぶ事はできないかもしれません。この3つのルールについて少しみていきましょう。
とにかくアイデアの量を出す
先に量ありきです。一つ一つのアイデア自体の質が低くても問題ありません。一番問題なのは「良いアイデアでないと口にしてはいけないんじゃないか」という疑念を参加者が持ってしまうことです。その疑念を拭う意味でも、まず「量ありき」の姿勢で臨む事です。
とにかく相手を否定しない
これも上と同様です。もしかして否定されるかもしれない、と思うとアイデアを口に出す敷居がひどく上がります。『アイディアのレッスン』という本の中で外山滋比古氏はわかりやすい喩えで表現されています。
前にも述べたが、アイディアは臆病で、人見知りをし、自信欠如である。少しでも冷たい風が当たると穴の中へひっこんでしまう。おびき出すには、あたたかいそよ風を吹かせておかなくてはいけない。
否定や検討は後でいくらでもできます。まずは、場を暖めてアイデアを引き出す事を心がける必要があります。
とにかく相手の意見に乗っかる
上の二つのルールが個人の「隠れた」アイデアを引き出すためのルールだとすれば、この3つ目のルールこそがブレストが真価を発揮するためのルールだと言えるでしょう。
相手の意見にまったく左右されず、単に自分の考えを淡々と述べているだけであれば、わざわざ複数人が集まる必要はありません。自分では思いつかなかったアイデアや視点を拝借して、自分なりにアイデアを考えるからこそ斬新なアイデアに巡り会う事ができるようになるわけです。
つまり、参加者一人が持っているアイデアを一つの場に集める事が目的ではなく、それらのアイデアに触発されて新しいアイデアを出していく事こそがブレストには求められているわけです。
運営者の2つのルール
こうして見てみると、ブレストの本質は「物事をあらゆる角度から眺める行為」だと言えそうです。誰かの考えに乗っかるというのは、自分の視点の位置をずらすという事です。いろいろな人のアイデアを土台として、問題となるテーマを見つめ直すという作業が思いがけないアイデアとの巡り会いを生み出します。
先に紹介した3つのルールは参加者の心構えのようなものでした。これに加えて、ブレストの本質を活かすための二つの重要なルールがあると思います。
- テーマとなる課題(問題)を明確に設定しておく
- 参加者はできる限り多様に
テーマが大きすぎると、視点が広がりすぎてピントが合いません。一つの問題をいくつもの視点で見直すためには適切にピントが合っている必要があります。ある程度テーマを具体的に絞り込んでおきましょう。
また、参加者があまりにも同質(同業、同僚)だと、出てくるアイデアも似通ったものになりがちです。全部を異なる職種に設定するのは難しくても、多少のバリエーションを設定しておいた方がよいでしょう。
まとめ
今回は、ブレストの基本に立ち返ってみました。注意したいのは、会議室を準備してそこに人を集めておけば、即「ブレスト」が始まるわけではない、という事です。運営者、参加者が一定のルールを共有しておく必要があります。
参加者のルール+運営者のルールとして5つのルールを紹介しました。
・とにかくアイデアの量を出す
・とにかく相手を否定しない
・とにかく相手の意見に乗っかる
・テーマとなる課題(問題)を明確に設定しておく
・参加者はできる限り多様に
最初に紹介した「実験」では、おそらくこのルールが守られていなかったのでしょう。そういう、ただ人を集めただけの会議では「社会的手抜き」あるいは「傍観者効果」によって、効果的なアイデアが出にくくなってしまうようです。
「ブレストしてもあまり成果が上がらないなぁ」とお悩みならば、一度「実験室の中でのブレスト」になっていないかチェックしてみると良いかもしれません。
▼参考文献:
数々の自己啓発手法を科学的な視点で見直す、という本。しかも手軽に実施できるものが紹介されています。
これを読めばかなりの確率でブレストをやってみたくなります。今回紹介したルールなども網羅されています。ブレスト初心者の方は、ぜひ。
アイディアとはそもそも何だろうな、というところから出発して「アイディアのルール」、「アイディアのつくり方」へと展開していく本です。非常に読み易い文体+量なのでアイディアについて気になっている方は。
▼関連エントリー:
▼今週の一冊:
最近はタスク管理についてじっくり見直す作業が続いています。長くシゴタノ!読者の方にはおなじみでしょうが、今年くらいから読み始めた方ならばもしかしたら知らないかも、という事で時間管理のおすすめの一冊を紹介。
この記事がアップされるのが5月30日です。その日になると、多くの人がiPadをお持ちになっている事でしょう。しばらくは指をくわえて皆さんが楽しそうに使っているのをブログやらTwitterやらで眺めるばかりの毎日になりそうです。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。