孤独の科学—人はなぜ寂しくなるのか | |
柴田 裕之
河出書房新社 2010-01-20 おすすめ平均 |
サブタイトルは正確ですが、若干補足したいところ。本書は、落ち込んだ気分、いらついた気分、凹んだ気分にあるときに読むべき本です。あるいは、そこから宗教的ではない考え方によって、抜け出したいと思った人が読むべき本です。
そういう意味では、次のようなタイトルの本を手に取りたくなったときに、読むとよい本なのです。タイトルからはそう見えませんが。
「イヤなことがなかなか忘れられない人」のための本―上手な気持ちの切り替え方
青春出版社 2001-11 |
グサリとくる一言をはね返す心の護身術 (SB文庫) 郷坪 浩子 ソフトバンク クリエイティブ 2007-03-21 |
「イヤなことがなかなか忘れられない」「ぐさりとくる一言」に人が弱いのはなぜでしょう? さらには、そういう体験に対しても、比較的気丈に対処できる人と、比較的落ち込みが激しい人がいるのは、どうしてでしょう?
『孤独の科学』はそれらへの疑問に答えてくれます。しかも、どう対処すればいいかまで教えてくれます。本書を読んで以来、私は「ぐさりとくる一言」にたいして傷つかなくなりましたし、せっせとその予防策を打つこともできるようになりました。
「凹む」とは「孤独を感じる」ということ
「ぐさりとくる一言」とは、「おまえは孤独だぞ」と思い知らせる言葉です。この言葉を真に受けたとき、つまり「私は孤独だ」と思い知ってしまったとき、あるいはそう思い込んでしまったとき、凹んだ心理状態が続きます。
なぜか?
『孤独の科学』によればそれは、人という動物が単独ではあまり強くないからです。サバンナで生き延びるには、という意味ですが。
だから、人は「集団で生きる」しかなかったのですが、もしかしたら初期の人類のなかには「独りでもへっちゃらさ」という「心の持ち主」もいたかもしれません。でもそういう人は、心理的には孤独感などなんでもなかったでしょうが、集団で生きた「人々」に比べて他の動物の餌食になってしまった可能性は高いと言えます。
仮にそうならなかったとしても、人間の赤ちゃんはあまりにも無力な状態で生まれてくるため、「独りでもへっちゃらな男性」(はあまりよく配偶者の面倒を見ない可能性が高い)は、自分と似たような遺伝子を持った子孫を残せなくなりそうです。
これらはしょせん「昔々の物語」でしかありませんが、結果として「集団生活を指向する人々」が現在の子孫として生き延びてきた、という主張にはなかなか説得力があるように思えます。現在の人類がここまで社会的な動物であることを考えますと。
社会的な動物は、社会からはじき出され「孤独感をかこつ」ことに、強い恐怖感を覚えるでしょう。孤独だと思い知ることが、心が傷つくことに直結するのは、人の心であるということです。
「心が傷ついた」ら孤独を疑いつながりを確認する
ですから、対応策はこうなるのです。過度に思い知ってしまった孤独感。過度に思い込まされた孤独感。それを途絶し、それまでに築いてきた関係性を改めて認識し直すこと。会社でひどい目にあったことを親友と飲んで憂さ晴らしするというのは、この点で理にかなっています。
「夫婦喧嘩では、友人の多い方が勝つ」という俗諺があります。
おそらく人の認知のキャパシティは手狭なため、眼前のリアルが、自分の生きる現実、と安易に思い込みがちになるのでしょう。夫婦でけんかをすると、心の98%はその人間関係が占めてしまう。
しかし、友人の多い側は、その不釣り合いな心理状態から脱するための現実を多く持つことになりますが、友人が少ない側は、いつまでもイライラしがちです。「誰も自分の気持ちを理解してくれない」というのは、怒りの言葉です。
人は、昨日まで平穏だったのに、急に孤独になったりしないものです。そうなったように感じられるとすれば、認知が大きくバランスを崩したからなのです。
そのバランスが戻れば、つまり、昨日とほとんど変わっていないという現実感を取り戻せば(考えてみれば、難しいことではないでしょう)、「心の傷」は回復するはずです。
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