前回は、Scrapboxでの企画案の肉付けを行いました。
これを続けていけば、いずれ十分なボリュームを持つ目次案となるでしょう。
しかし、問題もあります。
どんな問題かと言えば、大きくなりすぎる問題です。
自然と広がる話題
一つの情報には、関係する情報が存在します。それもたくさん存在します。そして、関係する情報もまた一つの情報なのですから、それに関係する情報も存在します。そうして、ネットワークは際限なく拡大していきます。
文章執筆というトピックなら、「テーマ設定」「ツールの選択」「プロセス」「日本語という表現法」といった関連する情報があり、「ツールの選択」なら「原稿用紙」と「デジタルツール」が、「デジタルツール」なら、「プレーンテキスト」と「リッチテキスト」と「その他のツール」が関係しています。
そして、このつながりには基本的に終わりというものがありません。深掘りすればするほど、次から次へと話題は湧き出てきます。
それだけの分量を受け止めてくれる媒体なら問題ありませんが、実際そんなことは稀でしょう。また、締切という時間設定の問題もあります。そもそも私たちは寿命を持つ有限な生命体なのですから、無限の話題を扱うことはできません。
よって、どこかでこの広がるネットワークを切断する必要が出てきます。それがテーマを絞る、という行為です。
テーマについて考え続ける
今回の企画案で言えば、情報社会と知的生産の技術についてのあらゆることを書こうとしても現実的ではないでしょう。なので、現実的な(執筆&脱稿可能な)企画案に仕立て直すわけですが、その効能は単にボリューム調整だけに留まりません。
板坂元さんの『何を書くか、どう書くか』にはこうあります。
このようにテーマをできるだけ絞っていくと、その文章で何を読み手に伝えたいかが、自分でもハッキリと認識できるし、読み手にも確実にそれが伝わることになる。
そうなのです。大きく企画案を捉えている状況というのは、言い換えればテーマについて大雑把にしか考えていない、ということです。そのような状態では、コンテンツの印象は、ピントがぼやけたものになってしまうでしょう。そもそも、書き手自身が「自分の言いたいこと」が整理できていないなら、それを読み手に伝えることはできません。
とは言えです。ペンを取る前に、企画案を書き始める前に、それをはっきりさせるのは実は難しいものです。むしろ、テーマを絞り込む、という作業の中で、自分が言いたいことは何なのかが立ち上がってくる、というのが実体に近しいでしょう。
よってこの作業は、最初の方に一度やればOK、とはなりません。
テーマを絞るという作業は「何を書くか」を決めるときにだけ行われるのではない。データを集めているときでも、実際に文章を書いているときでも、そして清書をしているときでも、つねにテーマを絞る作業を忘れてはならない。
このような意識の置き方が、書かれるコンテンツに一本の筋を通すことにつながります。
読み手のイメージ
もう一つ、ネットワークの拡散を抑制するのが、読者について考えることです。つまり、その文章を誰が読むのか(≒誰に読んでもらいたいか)をイメージすることです。
この「誰が読むか」の調査は、「その人は、すでにどれだけ知っているか」という質問と、「その人は、何を知りたがっているか」という、二つの質問に分かれる。
前者の質問の答えによって、コンテンツのスタートラインが定まります。それが定まらないと、本当にあらゆることを網羅しなければなりませんが、そんなことは現実的に不可能なので、「こういう人が読むから、この辺の知識は前提として考えて、ここから説明を始める」という有限化が行えるわけです。
また、後者の質問の答えによって、そのコンテンツのフォーカス部分が決まります。たとえば、「すぐさま実行できるノウハウ」が知りたい人にとっては、そのノウハウの歴史や、ノウハウ開発者の人生の歩みといったことはあまり興味がないかもしれません。逆に、そのノウハウの応用やアレンジバージョンの知識は、知りたいことの範囲に入っている可能性があります。つまり、どこに力を入れて、どこの力を抜くのかの判断ができるようになるわけです。
広大に広がる情報のネットワークから、その一部分だけを切り取る。その手助けに、「読者について考える」という問いは活躍します。
さいごに
最後の「読者について考える」は、結城浩さんの『数学文章作法』シリーズで紹介されている「読者のことを考える」という原則の言い換えでもあります。
この「読者のことを考える」は、可能性として存在するあらゆる読者について配慮する、という意味ではありません。もし、そんなことを真剣に考え出したら、何一つ言葉は紡げなくなってしまうでしょう。それは無限への入り口です。
そうではなく、具体的な読者をイメージし、どのように言葉を尽くせばその人に「このこと」が伝えられるのかを思案すること。それが「読者のことを考える」ことだと私は解釈しています。
もちろん、そこで描かれるイメージは「正解」ではないかもしれません。そもそも、それはどこまでいってもヴァーチャルなものなので、「正解」などないとすら言えます。そうであっても。そう、たとえそうであっても読者のことを考えて、その人に伝えるように文章を書くことが、無限に広がるイメージを遮断し、一本筋の通ったコンテンツを生み出すための欠かせない行為だと思います。
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▼今週の一冊:
先週も紹介してしまいましたが、今週も特に読了した本がないので、もう一度紹介させていただきます。
タスク管理のタームをまとめた本であり、タスク管理のブッグガイドであり、タスク管理との付き合い方を説いた本でもあります。Twitterでもたくさん感想を頂いておりますので、よければ書店で見かけたらパラパラと手にとってみてください。
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次の本を進めないとな〜、と思いつつ、もう一つエンジンがかからない状況です。こういうときは焦らずに、自分の頭の中と付き合うのが吉なので、しばらくノートと一緒に考えごとをしております。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。