『「リスト」の魔法』が発売されたのを記念して、知的生産における5つのリストの話をしてみます。
知的生産活動はさまざまなプロセスを経ますが、それぞれにおいてリストが活躍します。たとえば、以下の5つです。
- ネタ帳
- 読書リスト
- やることリスト
- アウトライン
- テーマリスト
今回は、このうちの一つ「読書リスト」について考えてみましょう。
読書リストとは何か
読書リストとはなんでしょうか。言葉通り、自分が読んだもののリストということです。ここで言う「読んだもの」とは、たとえば書籍や雑誌、そして新聞などが当てはまります。現代であれば、電子書籍やWebメディア全般もそこに含められるでしょう。
古式ゆかしい知的生産の技術では、書籍については読書ノートや読書メモが、新聞・雑誌については切り抜き・スクラップブックが「読書リスト」として機能していました。
では、この二つの違いはどこにあるでしょうか。
保存しやすさ
一つのはメディアの保存しやすさがあります。書籍であれば本棚にそのまましまっておけますが、新聞はなかなかうまくはいきません。その点、必要な記事を切り抜いてスクラップブックに貼り付けておけば、書籍と同じように保存・管理していけます。
では、電子メディアでは保存のしやすさにたいした違いはないので、両者は同じ形で保存していけるでしょうか。たとえば、読書メモを作る代わりに、スクリーンショットで電子書籍のページを「切り抜」けば、Webメディアの記事と同じように保存できます。それでばっちり効率化、という話でOKでしょうか。
答えはノーでもあり、イエスでもあります。
データと文脈
もし、その「切り抜き」が、後から参照したいあるデータを保存しておくためであれば、スクリーンショットでまったく問題ありません。興味があるデータが提示されていたり、かっこいい名言が載っていたりするならば、それを撮影して保存しておけば問題ないでしょう。あとは切り抜いた新聞と同じように捨ててしまっても大丈夫です。
しかし、何か気になることが書いてあった場合はどうでしょうか。それについてもっと考えたい、考察したい、と思う対象の場合は、単にその部分を保存しておけば大丈夫とはなりません。自分なりの考えをそこに書き込む必要が出てきます。
しかも、その行為は一度きりで終わるものではありません。その「気になること」は、時間が経った後違った形に変化するかもしれませんし、異なる「気になること」と結びつくこともあります。その度ごとに、前後の部分を読み返す必要が出てきます。だから、書籍は本全体が残っている必要があるのです。
新聞などで提示されるのは、基本的にはデータです。事実という言い方をしてもいいでしょう。そうしたものは、独立して保存しておいてまったく問題ありません。さまざまな文脈にそのデータを置くことが可能だからです。
一方、書籍の場合は、──もっと言えば著者の意見や論が展開されている書籍の場合は──、は、前後の文脈においてその意味が決定されます。だからこそ、個別のページだけでなく、全体も保存されている必要があるのです。
その意味で、読書リストをどう作るのかに一極の答えはありません。少なくとも、保存しておくものがどういう性質を持っているのか、自分はそれをどう扱いたいのかを考慮する必要があるでしょう。
さいごに
まとめておきましょう。
「読書リスト」は、一つにはスクラップブック的効能を持ちます。それは、知的生産の素材集めであり、作業の能率化にも貢献してくれます。
一方で、「読書リスト」には、自分のヒストリー的側面も持ち合わせます。ある大きな文脈を持つ本を、いつ読んだのか、どんな順番で読んだのか、それについてどんな感想を持ったのか。そうした情報は、単に毎日新聞を読んだ、ということ以上に大きな意味合いを有しています。
その情報によってもたらされるものは、知的生産の素材というよりも、知的生産活動の核(コア)と呼べるかもしれません。読書リストは、それを提供してくれるのです。
▼今週の一冊:
とにかく面白いです。全編通して密度の濃い話が展開されています。これはもうお勧めの一冊です。
Follow @rashita2
インフルエンザからの蓄のう症(ただし軽め)というコンボ状態です。なんか、常にどこかが悪いですね。まあ、そういうときもあるのでしょう。今までが健康すぎたという噂もあります。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。