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知的生産の技術書042〜043『「超」文章法』『知的文章術入門』


倉下忠憲今回ア042と043を。引き続き文章に関するノウハウ書です。

『「超」文章法』(野口悠紀雄)

本書は、ノウハウとして見た「文章術」では、一番簡潔でありながら、実用性の高い一冊になっています。最初に目次を紹介しておきましょう。

* 第1章 メッセージこそ重要だ
* 第2章 骨組みを作る(1)内容面のプロット
* 第3章 骨組みを作る(2)形式面の構成
* 第4章 筋力増強―説得力を強める
* 第5書 化粧する(1)わかりにくい文章と闘う
* 第6書 化粧する(2)一〇〇回でも推敲する
* 第7章 始めればできる

重複している項目を統合すれば全部で5つしかありません。実にシンプルです。その中でも、第1章では他の本ではあまり言及されていない話題に触れられています。

まず、メッセージの重要性。これ自体はたびたび本連載でも触れてきました。「たった一つのこと」を表すように全体を整えるわけです。そのようなメッセージの条件を著者は二つ挙げています。

  • その1「ひとことで言えること」
  • その2「それが見つかれば書きたくてたまらなくなる」

その1の条件はこれまでと同じですが、その2は違った視点から光が当てられています。そして、これは実にもっともな話です。

メッセージというのは、単なる文章ではありません。出発点から到着点に向けて力(ベクトル)を持っている、ある種のパッション(「これを言いたい!」)を含むコンテンツを指すものです。「これについては何も言いたい気持ちが湧いてこない」という対象はメッセージではないのです。

逆に言えば、そうした気持ちが湧いてくる対象だからこそ、さまざまな文章術を駆使して文章を書き上げる動機づけが生まれます。「この話題バズっているから、乗り遅れないうちにコピペを駆使してコンテンツをアップしておくか」といったような「情報生産」とはまったく違ったモチベーションがそこにはあるのです。この点は、簡単に情報発信できる現代であるからこそ確認しておいた方がよいでしょう。

では、そうしたメッセージはどのようにすれば見つけられるのでしょうか。

著者は「考え抜くしかない」と身もふたもないことを述べています。もちろん、それはそうでしょう。自分が書きたくてたまらなくなるようなものが、お手軽なノウハウで見つかるはずがありません。どうしたって、「自分の頭を働かせる」必要が出てきます。

とは言え、まったく無策というわけでもなく、著者は「対話の過程においてメッセージが見つかりやすい」とヒントをくれています。誰かと気楽に話し合いしているときに、ちょっと勇気を出して自分の意見を述べてみる。すると相手から思わぬ反応が返ってくる。その反応から自分の考えが変身し、新しい形を帯びはじめる。そこで「ああ、このことについて書きたい」という気持ちがふつふつと育ってくる。そんな感覚でしょうか。

文章をお化粧するさまざまな技術ももちろん大切ではありますが、その根底に「自分のメッセージを見つける」という過程が必要なこと、そしてその上で対話相手が重要なことを忘れてはいけないでしょう。

『知的文章術入門』(黒木登志夫)

こちらは比較的最近の新書です。

タイトルの「知的」という表現がやや重いですが、著者はこの言葉を「筋道を立てて物事を考え、分析し、理解し、判断すること」と位置づけています。よって本書が目指す「知的文章」も、

  • 簡潔
  • 明解
  • 論理的

であることが目標となっています(知的三原則)。達成するのは簡単ではありませんが、たしかに一つの大きな目標になりそうです。

本書はそうした文章を書くためのノウハウが紹介されていますが、面白いのは後半に「英語」の話が登場している点です。英語で読んだり、書いたりする機会は、2002年に比べると飛躍的に増えたと言えるでしょうし、「知的」な文章を書く場合なら特に顕著でしょう。

その意味で、英語との付き合い方が紹介されている本書は実に現代的な知的生産の技術書だと言えそうです。

逆に言えば、昔は本を読んでノートを取る(ないしはカードを書く)だけで済んでいた知的生産の技術の範囲が、現代では非常に広範囲に広がっていると言えるでしょう。すべてをカバーするのは相当に難しい仕事になるかもしれません。

知的生産の技術書100選 連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲


暑いです。毎日「暑い」と言っております。こうなると日中に散歩するのがだいぶ苦痛ですね。そうやってまた運動不足に陥るのは回避したいところです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中