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電子書籍を発行してみてわかった紙の本ではできないこと


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佐々木正悟 今のところ、この企画については電子書籍しか、ありません。本書を、どこかの本屋さんに行って購入していただくことは、不可能です。

このような企画を作ってみてつくづく思ったのは、理屈ではわかっていたことではありますが、電子書籍のフットワークの軽さです。小回りがきくといいますか。

これを紙の本で作ろうと思うと、どうしても越えなければならないハードルがたくさん登場します。


紙の本で作ろうとしたときに、どうしても越えなければならないハードル

以下の4つです。 

  1. もっと「多くの情報を提供している」ように見せるために、アプリをたくさん盛り込まないといけなくなる
  2. もっと一般的に訴求しなければいけないため、Apple Watchが幅広く行き渡るのを待つ必要性が出てくる
  3. Kindle Unlimitedのような措置は執れないため、価格を低くしなければならない
  4. 他の本との店頭に置ける差別感を打ち出すために「新機能」を前面に出さなければならない

マニアックなことを言い出せば他にもあるのですが、だんだん意味がわからなくなると思いますのでこのへんにしておき、問題はこういうことをするのは「常識」であるとはいえ、いったいこれをすることで読者にも著者にもメリットはない、という点をどう考えたら良いのか。

たとえば「3」の低価格路線は、読者にはメリットです。しかし、「Kindle Unlimited」では読めなくなります。

そして、低価格路線は必然的に、「たくさんの読者さんに読んでいただかなくては採算があわない」という話になるため、少なくとも「4」の「他との差別化を前面に出す」話になります。

しかし、他の本に書かれてなさそうなことが強調されているからといって、それを読むことが必ずしも読者のメリットかというと、そんなことはないでしょう(中には記者さんのような読者さんもいらして、「目新しい情報の有無」が書籍の価値を決める、ということもあるようですが)。一般読者側にしてみますと、知りたくもないことが強調されていることはメリットにならないのです。

また「2」も、一読者にとっては迷惑な話でしかありません。自分がApple Watchをもっている時点で必要な情報を手に入れられるのがベストです。Apple Watchが広く行き渡るまで本が出ない、などというのは、本を読む側にとってはまったくどうでもいい話です。

そして結局「1」が一般解に近いところです。網羅性の高い本は、情報量的に言っておトクだということです。

感覚的にはそうなのですが、よく考えると、これはおかしな話なのです。いまはインターネット時代なのです。情報の量でいえば、ただでネットでいくらでも読める。しかしネットの情報は「信頼性」という点で「万全」ではなく、玉石混淆の中から「玉をより分ける手間」があるから「書籍」にアドバンテージがある。

そんな話を何度も聞かされてませんか?

それなのに「書籍」が「厚く」作り込まれ、そこに「情報量的なお得感」を盛り込まれては、読者は今度は本の中から「玉をより分ける」という「作業」にいそしまなければなりません。

実際「網羅的」な本はしばしばちょっと使う気になれないようなアプリカタログみたいな様相を呈し、「本はノートに書き抜いてこそ血肉になる」などといった話が跋扈します。

ネットをEvernoteにクリップして、本をノートに書き抜いて。どうして私たちはよりわけ作業ばっかりやらされないとならないのか。実際には、200ページというパッケージを保つため、あるいは、お得感を示すための情報が探し出され、追加されているという話のはずです。

薄いのに、高すぎる?

分厚くて、安いのが良いのなら、インターネットにかなう「本」などないのです。

▼編集後記:
佐々木正悟

というわけで本書には、自分が必要だと思う情報以外、なにも盛り込みませんでした。

なるべくこういう「本」だけを作っていきたいところではあります。

が、そういうわけにもいかないので、自分としては結果としてなるべく薄手の本をイメージし、それでも情報を探して集め続けるようにします。