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成功した人はなぜ、「運がよかった!」と言うのか?

By: Gregg O’ConnellCC BY 2.0


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佐々木正悟 先週に引き続き、マルコム・グラッドウェルの『天才!』を取り上げます。前回が比較的「自然な」読み方だったとすれば、今回は「心理学的な」読み方に偏ってみます。『天才!』にはふんだんに「心理学研究」が登場しますし、これはグラッドウェルの著書に通じて当てはまる特徴です。これに沿って読み込んでいくのも面白いでしょう。

「原因」に縛られる脳

池谷裕二さんが最近の『単純な脳、複雑な「私」』でも言っているとおり、人間脳の大きな特徴として、「因果関係」を「勝手に作り出しがち」という点が上げられます。

目の前を、赤いスポーツカーが、びゅーっと通り過ぎていったとします。私たちはそれを、ただそのままの事件としては認識しません。

「ああ、なんて乱暴な!」
とか場合によっては、
「頭がおかしいんだ!」
とまで思うこともあります。
もちろん、
「よっぽど急いでるんだな」
と、寛大に考える人もいるでしょう。

これが私たちの脳の強い傾向なのです。瞬時に出来事の「原因」もしくは「要因」を探り出す。こんなことは、心理学者や認知神経学者がいちいち「人間の脳には因果律を追う傾向があります」とでも指摘しない限り、自分では気づきすらしないものです。つまり、ほとんど無意識のうちに「原因」を探り出してしまっているのです。

池谷さんは面白いことに、「ボールで遊ぶネコ」の例を挙げていました。ネコの前にボールを転がしてやると、ネコは大喜びでボールにじゃれつきます。(やったことのないひとは、実際にやってみてください)。そのボールがどこから来たかとか、誰がよこしたかとか、安全かどうかなど、全然気にしている風もありません。ネコの脳はあまり「因果関係」ということに興味を示さないようです。

因果律のあるなしではありません。あろうとなかろうと、とにかく「要因」を探すということが、人間の大脳の性質なのです。

「原因」を色分けする4つの窓

したがって当然、「ビル・ゲイツが大成功した!」などというニュースを耳にすると、「成功要因はいったい何か?」というさわぎになります。こんなに大きくて、しかも「うらやましい」事件の、「原因」を探したくならないわけがありません。アップルの大成功だろうと、グーグルの大成功だろうと、それは同じです。

では、それらの「大成功」の「原因」は何だと思いますか? 社会心理学者たちは、ご丁寧にも私たちに、以下の4つの選択肢を用意してくれています。

1.努力
2.才能
3.運
4.やれば成功するようなことをやったから

これら4つの「成功した原因」は、決してでたらめに集められたものではありません。実は、次のような分類を可能にするものなのです。


1.努力(内的な要因×再現可能性は低い)
2.才能(内的な要因×再現可能性は高い)
3.運(外的な要因×再現可能性は低い)
4.やれば成功するようなことをやったから(外的な要因×再現可能性は高い)

つまり、どれも部分的には正しく、どれも部分的には間違っている、ということです。ですが私たちは、このどれかを過剰に重視します。その私たちの偏りを、社会心理学者たちは、「原因帰属のバイアス」と呼んだりしています。

当事者にとっての「原因」と傍観者から見た「原因」

そして、「原因帰属のバイアス」を起こす原因は、これだけではありません。他に重要なものとして、当事者か、それとも観察者かという視点があります。

当事者は一般に、「外発的要因」を事件の原因としてあげる傾向が強いものです。たとえばビル・ゲイツであれば己の「成功」について、多少の謙遜があるとはいえ、「運」を重要な要素というでしょう。それから、「課題の容易さ」についても言及しそうです。すなわち、「自分の立場からすれば、それほど難しいことをやったわけではない」などと。

しかし、それ以外の私たち、つまり圧倒的に多くの「傍観者」はそうは思いません。「傍観者は、事件の原因を行為者の内的資質に求める」バイアスがあるからです。つまり、「それはビル・ゲイツが努力したから」とか「それはビル・ゲイツに才能があったから」と考える方が、「傍観者」である私たちにとっては自然なのです。

これは何も「成功」という「よい」ことだけに関わるバイアスではないのです。先に挙げた、びゅーっと通り過ぎる赤いスポーツカーのことを思い出してみましょう。私たち「傍観者」は、「赤いスポーツカーを運転する人の内面」を批判しがちです。「ただ急いでいただけ」(外的要因)だったかもしれませんが、なかなかそうは思えません。傍観者は事件の要因を行為者の内的資質(性格など)に求めるのです。

もっと「運」にフォーカスを当てる

「大成功」については人類の圧倒的多数が「傍観者」です。だから、「成功要因」が「成功者の才能」や「努力」(いずれも内的要因)によるものだとされてきたのは、全く当然のことなのです。圧倒的少数派である「成功者」自身が、いくら「運が大切だ!」と主張しても、その声は面白いことに、かき消されてしまうのです。

『天才!』はこのような状況の中で、「成功要因」のバイアスに対する修正を試みています。見ようによってはただそれだけのことで、これほどの「パラダイムシフト」を提示することができるのです。

パラダイムシフトのよいところは、私たちが自身が「思い込み」に縛られて苦しんでいるとき、思わぬ解放をもたらしてくれる点です。役にも立たない偏見に固執して、自分自身を苦しめるなど、この上なくつまらない話でしょう。もしかすると、「努力」も「才能」も「課題の選択」も、みな「運によるものかもしれない」と言っているような『天才!』ですが、ここまで言ってくれないと解き放たれないのが、バイアスというもののやっかいさなのです。

▼編集後記:

2つほどお知らせがあります。

6月22日(月)に「第4回 マインドハックス研究会」を、渋谷で開催いたします。今回は、いよいよというのは変ですが「うつ」がテーマとなります。その他、ご出席の皆様全員に、ちょっとしたお知らせがございますので、お楽しみに。
詳しくは、こちらのページをご覧ください。
(私自身のブログへと飛びますのでご注意ください)。

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