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『話すだけで書ける究極の文章法』、音声入力の使いどころとは?

By: dion gillardCC BY 2.0


佐々木正悟 おそらく最初この本のタイトルに接した人は、野口悠紀雄さんが口述筆記の秘書に向かってしゃべるように、iPhoneに向かってとうとうと喋りまくるうちに、本が一冊書けてしまう。その実際についてまとめられた本だと、思ったかもしれません。

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最初は私もなんとなく、そうしたイメージを持ったのです。

実際にはそういう描写はなく、代わりに3つのポイントが比較的平易にまとめられている本です。

  1. スマホを音声操作する便利さ
  2. すぐに役立つメモを音声でどんどん記録していくことの便利さ
  3. 音声入力メモを使って長文をまとめていく方法

スマホを音声操作する便利さ

「スマホを音声操作する便利さ」というのはiPhoneでいう「ヘイシリ」です。

これ以上の解説は、必要であれば本書を読んでいただきたいのですが、「そう言われてみると、そういう使い方が便利そうだ」ということを、思い出させてくれる本です。そういう意味では(ご本人がどう思われるかは責任が持てませんが)野口悠紀雄さんは「ライフハッカー」なのです。

あえて補足したいことがひとつありまして、本書で「音声入力が非常に便利である」と強調されているのは、著者が「フリック入力」などを「面倒すぎる」と思い込みすぎているからです。

スマートフォンで利用できるスケジュールアプリ(ディジタル手帳)が提供されています。いつでもどこでも予定を確認することができるため、便利です。

しかし、これまでは、入力操作は面倒でした。私も、入力作業はPCからGoogleカレンダーに記入することで行ない、スマートフォンは閲覧端末として用いることがほとんどでした。
ところが、音声入力ができるようになって、スマートフォン上のスケジュールアプリに直接入力するのが簡単になりました。

『話すだけで書ける究極の文章法』

この種の、スマホの入力操作は面倒だったが、音声入力で一気に容易になった、という展開が随所に登場しますが、私はそうは思いません。が、そう思う人は少なからずいるので、そういう人にぜひ本書をすすめたいと思いますし、他の人にもすすめてあげて欲しいのです。

すぐに役立つメモを音声でどんどん記録していくことの便利さ

これは、「ヘイシリ」とは異なる話です。
これはけっこう(この種の本を書く者にとっては)難しい話なのです。

ノート術、記録の汎用性と容易性、そしてIT技術の利便性を紹介しているタイプの本では、たいてい「情報収集が革命的に便利になった」という話と、「記録をいつでもどこでも残すことができて素晴らしい!」という話とが、なんとなく融合されています(情報整理術というくくりでまとめられる)。

これが前者だけとなると、一般生活圏内に話を絞ってしまった場合、「確かに非常に便利そうだが、いくら何でも大げさすぎないか? 高いスマホ買うほどのことか?」と思われそうになるわけです。

一週間の献立が一瞬で検索できるとか、GPS機能付きマップで道に迷わないとか、何時の電車に乗れば一番早く帰ることができるとか、そういう「情報」を「ヘイシリ」で一瞬で引き出せる利便性は、iPhoneなどが大好きでないとあんまり魅力的とは言えないのです。

そこで「メモを残す!」という話が、情報収集とはべつに登場するのですがしかし。

これも、やるに値する話である一方、やるに値することを了解してもらうのは、なかなか困難です。

  • 後でやるタスクを即座に音声でメモれる。
  • 仕事のいいアイディアを即座に音声でメモれる。
  • 読書メモを読書しながら音声でメモれる。
  • 庭造りの作業プロセスを音声でメモれる。
  • マイナンバー取得の手順などを音声でメモれる。

そんなの全部、ウン万円のするスマホなくても、紙のノートでよくない?

よくないのですが、否定的に本を読んでいれば、多分そう思っても不思議はないでしょう。

これらのメモはだいたい、「即座にメモを使うためのメモ」か、または「使い途が明確に決まっているメモ」です。生活圏内におけるメモとは、そうしたメモです。記憶力に自信を持っている人は、そもそもメモしないメモです。

これらにしても本当は、一元化するべき(一冊のノートにまとめるべき)です。そして一冊のノートのまとめるなら、現在ではデジタル化するべきなのです。そうしないから分散し、散逸し、しょっちゅうストレスフルなトラブルに巻き込まれているのです。

しかしさらに深刻なのは、これは最近になって自分の両親が年老いてきたせいで痛切に思うのですが、メモを残す技術を持っていない人が、認知症をはじめ、記憶に関する多少の障害に悩むようになると、本人だけではなく、その周辺の人間が、しばしば大変な思いをすることになるからです。

したがって、変な逆説を聞くようでしょうが、記憶力に自信のあるうちにこそ、メモ術を身につけておくべきなのです。

音声入力メモを使って長文をまとめていく方法

以上、すでにいろいろ書いてきました。

しかしこの本の根幹は、結局のところこちらです。音声入力メモを使って長文をまとめていく方法です。これが「話すだけで書ける究極の文章法」なのです。

しかしこれを言い換えると、メモを「まとめる」ために音声入力技術はさほど使えないわけで、「メモをまとめる」に関しては「メモをまとめる方法」であって、その点、音声入力ができなかった時代と、やることはほとんど変わりません。ただ、「手描きメモ」が事実上消えてしまっている(あるいは非常に減っている)点は、注目に値します。

つまりこの本のキモはある意味では、メモの集約・整理・編集だけで、いかに長文をまとめてしまえるものなのか、にあるのです。

極端にいえば「本を書く」といっても書くのはメモなのです。あとはメモを集め、まとめ、整理し、取捨選択のすえ、編集作業を重ねていくばかりです。この点を頭から誤解していると、本を「書き進めるうちに頓挫する」ことになるでしょう。

だからメモというのは非常に大切です。まず、本になるだけの分量が集まらなければ、話になりません。実際には、あらゆるメモが役立つわけではなく、重複メモもあるのですから、本を書く以上の分量のメモが必要になります(また、そうだからこそ、目的とするテーマに則したメモを短期間に蓄積するために、思考を集中する必要もあるわけです)。

それをどんどん音声で作りだしていけるなら、これほどのことはないでしょう。しかしそのように思うのは、野口悠紀雄さんのように、本や文章を頻繁に書くからであって、あるいは学者が論文を書くから、あるいはプロブロガーがブログを書くからであり、一般の人にはこう言ってはなんですが「あまり関係ないこと」かもしれません。

というわけで本書は3通りの読者に向けたコンテンツを用意しているわけです。

  1. フリック入力などに苦手意識を持つがスマホを使いこなしたいユーザー
  2. 記憶力に自信がなく、「1冊のノート」にまとめる自信もないので、デジタルメモに期待したいユーザー
  3. 新しいメモ術に興味がある文筆家(作家、学者、ライター、ブロガーを含む)


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▼編集後記:
佐々木正悟



本書を読んでみて改めて読み直してみたのですが、こと、Macをつかって長文のためにメモを活用するということだったら、私たちの本も負けてはいないというか、具体的なやり方についてはずっと懇切ていねいに書けています。

海老名久美さんは、長年、翻訳・テクニカルライターでやって来ているだけに、アプリなどについての知識が幅広くて、詳しいです。

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