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窮屈な自由から自由な縛りへ

私は組織で長年トップを務めていました。トップですから自由度は高いのですが、外資系でしたので海外の本社の意向などを気にする必要もあり、これがけっこうなストレスでした。そのストレスが、仕事の喜びを少なからず減じていたと知ったのは、社長を退いて一人になってからです。組織のストレスから解放され、誰からも口をはさまれずに、自分で一から十まで仕事をデザインできるというのがこんなにも楽しいこととは、正直それまでにはわかりませんでした。

『君はまだ残業しているのか』(p.205)より


会社を辞めて一人で仕事をするようになってから、いろいろと悩ましいことにぶつかった。その1つが客先に出す見積もり。いったいいくらにすれば妥当なのかがさっぱり分からなかった。要するに値付け。12年たった今でも、深く考え始めるとキリがない。

でも、繰り返すうちにそれは肌感覚のようなものなのかな、と思うようになった。自分で何もかも決めることができる自由というのは、自分の中のプリミティブな何かを問われるようなもので、そこに自信を持つことができれば、自由を自由と感じることができるようになる。逆に言えば、自信のないところには不自由がつきまとう。

外出するときに何も考えずにスーツを着れば良いと言う感覚は、楽でありながらも窮屈なものであり、自分で服装を考えなければならないのは、自由である反面、場の“空気”に合わせて適切な選択をしなければならないという目に見えない縛りでもある。

もっとも、この12年の間に仕事の内容は次々と変わり、今や「見積もり」を出すことはほとんどなくなった。自分が決めた価格に対して、支払ってもらえるか否かがあるだけでその間はない。

自分の欲しい金額を提示したうえで、それに見合う(と感じてもらえる)価値を提供していくのみ。

» 君はまだ残業しているのか (PHP文庫)