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「仕組み化」が大事なのは分かる。必要なのはその方法

クラウド時代のタスク管理の技術―驚くほど仕事が片付いてしまう!
クラウド時代のタスク管理の技術―驚くほど仕事が片付いてしまう! 佐々木 正悟

東洋経済新報社 2011-11-25
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先日『クラウド時代のタスク管理の技術』というタイトルで上梓しました。この固いタイトルと、中身の偏り方で、よく今のように話題になっているな、と書き手が驚いている始末の本です。

今話題にされている方の間ではおおむね好評ですが、「こういう本を書いて何が言いたいのかよく分からん」という方もたくさんいらっしゃると思うので、それについて簡単に述べます。私としては比較的「主張的」な内容になるので、ここから久しぶりに「だである調」で行きます。

「仕組み化」は大事だがやり方が分からない

アマゾンで検索してみると、「仕組み」がキーワードの書籍には多数ぶつかる。有名どころでは泉正人さんの『最少の時間と労力で最大の成果を出す「仕組み」仕事術』や『小飼弾の 「仕組み」進化論』。複数著者による『やっぱり「仕組み」を作った人が勝っている (光文社ペーパーバックスBusiness)』などもある。

自分も「仕組み」で行動したいと常々思っていた。仕組みとは「未来記憶を確実に実行する方法」なのである。今夜、「明日の朝一番に上司に連絡しよう」と思う。これが翌朝には「記憶」となる。しかし翌朝になるとそのことを忘れる。それが「忘却」である。

この種の忘却は危険だから、それを未然に防ぐための方策が様々考案される。極めて一般的なものがメモであり、もっとも進化した形態のひとつが昨今話題のiPhoneのSiriのようなものだろう。

未来記憶を確実に実行するというのは難しい。原因はいくつかあるのだが、主要なものは次の3つになる。

1.未来記憶を実行できるタイミングは限られている
2.未来記憶にはトリガーが乏しい
3.内容は覚えていてもやる気を忘却することも多い

1のタイミングというのは先ほどの「翌朝一番で」というものだ。あの駅に着いたら、あの人に会ったらというのは、常に特定のタイミングで何かを行おうとしている。そのスパンはあまり長くない。そのタイミングを外してしまえば、「実行できなかった」事になる。そこで「次回会ったときに」ということになるのだが、そのスパンもあまりな長くはない。だから何度も忘れることを繰り返すことになり得る。

2の「トリガーに乏しい」というのは、本来そんなトリガーが自然界にはないからだ。人は人工的に時計を使うことによって、この問題を解決しようとしてきた。しかし時計が役立つとは限らない。「駅に行く途中でそこのハガキをポストに入れてきて」といわれて頷いても、ポストの前を通るときその行為を思い出せるとは限らない。何時何分にちょうどポストの前を通りかかるか計算してアラームをセットできる人は少ないだろう。

ポストはハガキを感知して赤く点灯してくれたりはしないから、当然忘れることはあり得るわけだ。この問題をiPhoneが解決しようとしているし、解決しようとしているのはiPhoneだけではないけれど、仮にiPhoneがバイブしてもそのことにすら気づかないという事態も当然起こる。

そして3の問題はこの3つの中で一番重要ではないかもしれないが、ある意味では最も深刻である。「あとでやる」のはいいが、それは本当に「やる」場合に限る。思い出せてもやりたくなくなるというのであれば、未来記憶は機能をまったく発揮できない。

答えは「パターンの再生」に行き着く

どんなことでもいい。ある特定の時点である特定の決心を人がしたとき、その決意に一切嘘はないと思う。「今日はおいしいお味噌汁を作ろう」と決意してその3分後にその気が失せたとしても、その3分前には本当にそう思ったのだ。これが大事な点であり、意志力だとか誠実かどうかとか言ったことを守るかどうかといった議論は何の役にも立たない。

人間の頭の中はめまぐるしく変わる。風の強い日の空模様のようなものだ。三日坊主を責めるのは、晴れの日が三日と続かなかったと言って空にケチをつけているのと変わらない。「明日から早朝ランニングだ!」と決意しても、その決意が翌朝の「心の空模様」で再現されている可能性は極めて低い。

だから「仕組み」が重要なのだ。だが、「仕組み」というのはそれをすでに作れている人が自明だと思っている非常にたくさんの要素によってかろうじて支えられている。天気のパターンを人工的に安定させられないように、心理状態を都合のよいパターンに構成し続けることは容易ではない。

ここでやっと拙著の話になるのだが、私は大橋悦夫さんの設計思想に従って、シゴタノ! —    Toodledoの使い方 第18回 タスクシュート式にToodledoを使うということをやっている。これを見て「やり過ぎだ」と感じる人も多いだろうが、私はそうは思わない。むしろ全然足りないのだ。

脳内、そして体内の複雑さのことを思えば、厳密に同一の生理心理状態というのは2度と再現できない。毎日同じ事をしたいと思ったら、厳密には毎回異なる心理状態で、同じ行動を実行しなければならない。それはずいぶん困難になることもある。病気になったりすると特にそうなる。でも連載の〆切は毎週やってくる。ブログの〆切はほぼ毎日来る。

タスクシュートは私の行動パターンだけではなく、心理パターンを反映している。同一の心理は再現できないが、似たような心理は毎日再生される。同一の空模様はあり得なくても、天気はそう数多くはない記号で一応分類されているのと同じである。

環境は常に変化するがその変化にはパターンがあって、私の生理心理についても同じ事が言える。やるべき事のひとつはそのパターンのマッチングだ。目の前にごちそうが並んでいたとしても、吐き気がするほど満腹だったら何も食べることは出来ない。

ただ、パターンをマッチングさせるだけでは、よほど恵まれた環境に生きていない限り、人生そのものが破綻する。私が環境の変化に対応するだけで生きようとしたら、あっという間に一文無しになるし、病気になるだろう。私を取り巻く環境は日経ウーマンオンラインの連載記事をかくようにはいかなる働きかけもしてこない。

だからそういう環境を自分の手で作り出さなければならず、その作り出した環境にもマッチングしてやる必要がでてくる。だがそういう自作の人工的環境に生理心理は適応していない。満腹になっても時間が経てばお腹は空くが、連載記事を一本書き上げた後でいくら時間が経過しても、自然とまた記事を書きたくなったりはしないものだ。

そこで小腹が空いた子にすかさずものを食べさせるべく苦心している親のような気配りが大切になってくる。タスクシュートが実現しようとしている「仕組み」がこれである。前後依存関係、生理的欲求、社会的・時間的干渉をうまく調節し、必要十分なリソースを適切なタイミングで投入するための向こう1週間の「仕組み作り」を実現するのには、実はけっこう複雑なシステムが入り用になるわけだ。

大橋さんのタスクシュートとは、その「仕組み作り」の方法をツールとして表現したものだ。これに行動ログを入力していくことによって、今後の行動のための仕組みができあがっていく。

▼編集後記:
佐々木正悟

先送りせずにすぐやる人に変わる方法 (中経の文庫)
先送りせずにすぐやる人に変わる方法 (中経の文庫) 佐々木 正悟

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ひそかに文庫化しました。(値段を見てください)。

エントリのような「小難しい」内容とは無縁に見える本です。「方法」も5つ増えています。アタマをちょっと整理したい、という方にオススメです。