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ブログのテーマと「カキフライ理論」

倉下忠憲
「ブログに何を書いていいのかわからない」

非常によく聞く悩みです。あるいは、

「ブログで「自分」を表現したい」

こういう思いを持っている方もいるでしょう。

これについて考え出すと、ずぶずぶ泥沼にはまっていくような気持ちになりそうです。もともと「正解」があるわけではないので、出口はなかなか見えてきません。

そういう時には「カキフライ理論」です。


「カキフライ理論」とは?

村上春樹さんと柴田元幸さんの共著『翻訳夜話』で、こんなエピソードが紹介されています。

村上 それはね、このまえメールで質問がきて、入社試験で原稿用紙三枚なら三枚ぐらいで自分について書きなさいと。そんなもの、原稿用紙三枚ぐらいで書けるわけがないという質問がきたわけです。

なかなか難しい設問です。400字詰めならば1200字。この記事の文字数ぐらいしかありません。そんな文字数や限られた時間で自分のことを書くのは非常に困難です。

ただ、そういうとき、僕はいつも言うんだけど、「カキフライについて書きなさい」と。

春樹さんはこう続けます。

自分について書くと煮つまっちゃうんですよ。煮つまって、そのままフリーズしかねない。だから、そういうときはカキフライについて書くんですよ。好きなものなら何でもいいんだけどね、コロッケでもメンチカツでも何でもいいんだけど……

なぜ、カキフライについて書くのか。

えーと、つまり、僕が言いたいのは、カキフライについて書くことは、自分について書くことと同じなのね。自分とカキフライの間の距離を書くことによって、自分を表現できると思う。(中略)いちばん大切なのは、別の視点を持ってくること。それが文章を書くには大事なことだと思うんですよね。

同じことは、『雑文集』という本に収録されている「自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)」にも書かれています。

あなたが牡蠣フライについて書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライとのあいだの相関関係や距離感が、自動的に表現されることになります。それはすなわち、突き詰めていけば、あなた自身について書くことでもあります。それが僕のいわゆる「牡蠣フライ理論」です。

さいごに

「カキフライ理論」をまとめるとこうなります。

  • 自分自身が好きなものごとについて
  • 独自の視点を持って書く

何か「好き勝手にやればいい」みたいな響きを感じますが、それが「自分自身」を表現することにつながっているわけです。

ブログに何を書くのも自由です。

であれば、型にはまったものではなく、自分の興味あるテーマで、しかも自分の視点から考えたことを書くのが面白いと思います。その積み重ねが、最終的に自分の「ブランド」を構築していくことにつながるのでしょう。

▼参考文献:

翻訳についての本。翻訳を学ぶ学生と先生との対話というのが主なコンテンツです。あと、柴田訳カーヴァーと村上訳オースターの短篇も読めます。

単純に翻訳の話だけではなく、文章をどんな風に書くのかについても興味深いお話が読めます。

名前の通り村上春樹さんがさまざまな場所に書いた文章が一冊にまとめられている本です。まあ、好きな人は好き、そうではない人は興味なし、な感じの本かもしれません。

▼今週の一冊:

12月1日から「就職活動」なるものが始まったようですが、現状の就職活動の状況をまとめたのが次の一冊。

周辺的な状況を押さえ、現状の問題点を指摘し、その上で政策的な提言も加えられています。

就活生が読んで、すぐさま使えるテクニックをゲット!、という本ではありませんのであしからず。むしろ本書を読むと、嫌気の方が大きくなるかもしれません・・・。まあ会社に勤めるだけが「仕事」ではありませんので。


▼編集後記:
倉下忠憲



原稿作業に行き詰まっていると「一度読んだラノベを再読しはじめる病」が発症するので、新しい本が読み進められません。困ったものです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。