今回は045~047を。論文の書き方に関する三冊です。
- 『論文の書き方』(1977年)
- 『レポート・小論文・卒論の書き方』(1978年)
- 『新版 大学生のためのレポート・論文術』(2009年)
『論文の書き方』(澤田昭夫)
1977年に出版された本書は、タイトルこそ清水幾太郎の新書と同じですが、その内容はずいぶん違っています。むしろこちらこそ、「論文の書き方」が具体的に解説されていると言ってよいでしょう。
目次は以下の通りです。
* 第一章 問題の場からトピックへ
* 第二章 資料探し──図書館の使い方──
* 第三章 研究の準備──参考図書と文献カード──
* 第四章 資料研究・読みと整理──研究カードの作り方・インタビューとアンケート──
* 第五章 資料研究・確実なデータ作り──資料の類別、資料批判──
* 第六章 書く──アウトラインの発展、文章化、下書き──
* 第七章 書く──説明の方法と概念の操作──
* 第八章 下書きから清書へ──注と文献表、総点検とでき上がり──
* 第九章 小論文の書き方
* 第十章 読む──理解する読み方
* 第十一章 話す──話す・書く、講演・講義──
* 第十二章 話す・聞く──討論・論争、聞く──
* 第十三章 レトリックについて──「書く」「話す」」の理論と技術
論文書きの始まりから終わりまでの手順が丁寧に解説されています。どれもこれも大切であり、欠かせない要素でしょう。また、第九章以降には関連する話題として「読む」や「話す」についても言及されており、知的生産全般に役立つ一冊になっています。
さすがに現代においてカードを使って文献や資料を管理している人がどれくらいいるのかはわかりませんが、そうしたツール類の話を除けば、そのまま現代でも通用する話でしょう。特に、論文における「アウトライン」の重要性はどの本でも説かれています。むしろきちんと構造化されているからこそ、それが論文として認められる文章になるとすら言えるでしょう。だからこそ、その作り方や発展のさせ方は重要なのです。
ちなみに本書では、論文の構造として「起承転結」はよろしくないと述べられています。起承転結は漢詩の構成法であって、論文にはそぐわないと言うのです。この点は、次に触れる本と面白いリンクを持っています。
『レポート・小論文・卒論の書き方』(保坂弘司)
こちらは1978年に出版された本で、上と同じ講談社学術文庫の一冊です。まずは、目次を。
1 レポートはどう書くか
- 1.レポート――その内容規定と現実
- 2.テーマ――与えられたものの方向づけ
- 3.資料はどう探し、どう活用するか
- 4.辞書はどう選び、どう活用するか
- 5.アウトラインをどう設定するか――その現実
- 6.書く上でのルール――現実に即した欠陥
- 7.引用・統計・図表のルール
- 8.レポート作成の現実――その要件は何か
- 9.文章の推敲について――何を点検するか
2 小論文はどう書くか
- 1.大学入試の小論文――その現実と対策
- 2.入社試験における小論文――その現実と対策
3 大学卒論はどう書くか
書かれている内容は、澤田の本と似通っています。カバーされている範囲がより限定的な分、論文執筆における細かい技術が語られている点が違いでしょう。
ただ、もっと大きい違いもあります。それがアウトラインの構成法です。まず著者は「首・胴・尾」という構成法を自然発生的な発想法として紹介した上で、こう述べます。
つぎに、もっとも一般的な構成法としては、〈起・承・転・結〉の四段方式です。自然発生的な発想法に一呼吸いれるというところですね。
否定的な文脈で語られているのではありません。むしろ、著者は「これは文章の最高の著述方式だと信じています」とまで書いています。
澤田の本ではばっさりと切り捨てられていた起承転結が、この本ではむしろ推奨されているのです。二冊の本を続けて読んだら「どっちやねん」とつっこみたくなるでしょう。これが同じテーマの本を複数読む面白さです。
とは言え、両者の意見はまるっきり対立しているわけではありません。起承転結の「転」の解釈の仕方が違っているだけなのです。
澤田にとっての「転」は、今論じているテーマとは異なる話題を持ってくる行為を指します。たしかに一つのテーマを論じる論文としてそのような話題の差し込みは邪魔なものでしかありません。文章的に面白さが増したとしても、論文としては点数を下げざるを得ないでしょう。
一方で、保坂にとっての「転」は、今で論じてきたテーマを別の角度から論じる行為を指します。言い換えれば、論じ方の幅を広げるのです。
扱っているテーマそのものは変わっていません。一つのテーマのままです。しかし、その角度を変えてみる。たとえばこれまでは経済的な視点から論じてきたものを、政治学的な視点から論じてみる。あるいは過去視点で論じていたものを、未来視点で論じてみる。そうしたピボットが保坂にとっての「転」です。
扱っているテーマそのものが変更されているわけではないので、この「転」は澤田が否定的に扱っている「転」とは別物と言えます。よって、そもそも意見の対立は存在していないのだ、と捉えることができるでしょう。
『新版 大学生のためのレポート・論文術』(小笠原喜康)
うってかわって、こちらは2009年発売の新書です。というか実際は『最新版 大学生のためのレポート・論文術』が2018年に出版されており、現在入手するならこちらになるでしょう(私が所有しているのが新版の方なので、こちらで話を進めます)。
いくら論文の書き方が時代を超えるといっても、先ほどいったツールの問題は残ります。現代の大学生はほぼWordで論文を書くでしょうが、1970年代に出版された本にWordの使い方の解説を求めるのは酷なことです(Microsoft Wordは1980年代に生まれたツールです)。
よって、現代で論文を書こうとするならば現代的なツールでの解説が必要でしょう。本書では、基本的なフォーマット、資料の集め方、スケジュールの立て方などが一通り解説されています。似た情報はインターネットを検索しても見つけられるでしょうが、こうして一冊にまとまっている方がはるかに便利です(それは保証します)。よって、こうした本を一冊本棚に備えておくのは悪くない選択です。
一方で、先ほど述べた「アウトライン」の扱い方については、そこまで深く掘り下げられていません。そうした観点に興味があるならば、これまでに挙げてきた本を参照してみるのがよいと思います。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。