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知的生産の技術書089~092『メタファー思考』『 アルゴリズム思考術』『エンジニアの知的生産術』『妄想する頭 思考する手』


倉下忠憲今回は089から092を。「思考」に関する4冊です。

『メタファー思考』

本書は人間の思考における「メタファー」の重要性を説いた一冊です。メタファーを「見立て」と見立てて、そこにある機能を解説していきます。ではなぜ知的生産においてメタファー=見立てが重要なのか。それは以下の一文が表しています。

《見立て》をさらに言い換えれば、「見る」(see)に対する「見る」(see as)ものの見方のことだといってもよい。AB見るとき、Bにメタファーが生まれる。

いわゆる「発想」において活躍するのが、この「と見る」ものの見方です。あるものを類似のものとして見る、あるいはまったく異なるものとして見る、はたまた状況を変えて見るといったことを行うと、それまでになかった着想が生まれてきます。逆に言えば、この「と見る」ものの見方ができないと、対象をそのまま捉えることしかできないでしょう。

それだけではありません。このメタファー=見立ては、概念構築においてきわめて重要です。

たとえば著者によれば「立場」という言葉もメタファーになります。日常的によく使われる言葉ではありますが、よくよく考えればたしかに「立場」という場所が具体的に存在しているわけではありません。一つの見立てとして「立つ場所」がイメージされているのです。同様に「明らか」「基礎」「回路」といった言葉もメタファーとしてよく使われています。

何かしらの事象や物事Aがあるとして、それにぴったり寄りそう言葉Aがあるならばその言葉を使えばいいわけですが、それが存在しないときは、そのAを何かしらに見立てて表現するしかありません。言葉の欠落を埋めるための表現。それがメタファーなわけです。抽象的な概念は、リアルな物体が存在しないので、このメタファーが活躍するというわけです。知的生産において、概念構築する際にはメタファーは欠かせないと言えるでしょう。

もっと言えば、人間にとってその表現が何かしらの意味を獲得するためには、そこに適切なメタファーが効いていなければならないとすら言えるかもしれません。本書はそうした思考を促す一助になってくれるはずです。

『アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール』

本書はアルゴリズム的な考え方を身につけるための一冊です。強いて言えば、上のメタファー=意味的な思考法とはまったく逆のアプローチとなるかもしれません。とは言え、この思考法は情報処理を進めて行く上で非常に強力な存在です。

たとえば適切な人材を採用する上でいつまで面接を続ければいいのか(いつ採用を決定すればいいのか)という「最適停止」。あるいは入手のための活動と、それを使う活動のバランスを考える「探索と活用」。物事の並びを変える「ソート」や一時保管としての「キャッシュ」、そして適切な順番を決める「スケジューリング」など、ライフハック的な思考が好きな人ならば役立つ情報がたくさん含まれています。

メタファー=意味は多義的で揺れますが、アルゴリズムは手順が一意に定まります。この二つの原理をうまく組み合わせることが「知的生産」では必要になってくるでしょう。

ちなみに、結城浩さんの『再発見の発想法』もコンピュータ的な発想を日常に活かすには、という切り口の面白い本になっています。

『エンジニアの知的生産術』

アルゴリズムつながりでこの一冊も合わせて紹介しておきます。継続的に学ぶことが必要な知識労働者がいかにその営みを続けていけばいいのかが紹介される一冊です。

本書でも、”「優先順位付け」はそれ自体が難しいタスク”のようにソート問題が取り上げられているのが印象的です。アルゴリズム的な思考法では共通認識なのでしょう。その他「学びのサイクル」の設計や、考えをまとめるための方法やアイデアを思い付くための方法などが提示されていて全般的な「知的生産の技術」を論じる一冊になっています。

『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』

本書も思考の方法を提示する一冊です。面白いのは「妄想」と「思考」が対置されていることです。

どちらも頭の営みのように感じられますが、思考の担い手は「手」とされています。自分の考えを文章で書き表したり、あるいは実際に何かを作ってみたりすることで「思考」というのが進んでいくのだ、という視点なのでしょう。だとすれば「妄想」は、そうした地道な作業とは飛躍したところで起こる脳内の発想・着想なのだと捉えられます。

本書において「妄想」と「思考」はどちらが優れているというものではなく、むしろその両方が新しいアイデアには必要あり、もっと言えばその二つが相互作用を与えあいながら発展していくプロセスが必要であるという視点になっています。頭だけの妄想は現実的な着地点を見つけられず、手を動かすだけの思考は単なる改良に留まってしまう。だからその両方を駆動させていくわけです。

この点は「思考法」全般に言える話でしょう。頭を動かすだけが思考ではありません。もっと全体的な(あるいは人間的な)活動が思考を構成している、という点は忘れないでおきたいところです。

知的生産の技術書100選 連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲


12月に入りました。100選もラストスパートです。数が限られてきたので選書が難しくなってきておりますが、頑張りましょう。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中