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知的生産の技術書064~065『TAKE NOTES!』『アトミック・シンキング』


倉下忠憲今回は064と065を。ノート術というよりは「カード法」の本たちです。

『TAKE NOTES!』

著者のズンク・アーレンスは、社会学者ニクラス・ルーマンが用いていたと言われる手法をベースに、私たちの「ノート」の取り方を提案します。

とは言え、そこで言及される「ノート」は、イメージされる「ノート帳」とはかなり異なっています。むしろ「カード」と呼んだ方が近しいでしょう。実際、ルーマンも綴じられたノート帳ではなく、紙片を使っていました。情報を断片的に保存していく方法です。

そこでまっさきに思い出されるのは、『知的生産の技術』で紹介されていたカード法です。カード一枚に一つのことを書きつけ、そのカードを分類せずに並べていく、という梅棹の方法です。

ルーマンと梅棹のこの二つの方法は、細かい部分に差異はあるものの、全体としてみればほとんど同じであると言って差し支えありません。その共通性自体が一つの思考対象として興味深いものですが、それはさておくとしても、私たちが情報を(というよりも着想を)扱う上で、大きなヒントになっていることは間違いありません。

ノートではなく、カードとして情報を書き留めていく、というのは情報を大きくひとまとめにするのではなく、細かい単位で書き留めることを意味します。連続的な文脈や時系列に情報を拘束するのではなく、一つひとつをバラバラに扱えるように設えておく。その手つきは、アナログのカードが時代遅れに感じられる現代においても有用です。

というよりも、そのような情報の扱い方は、デジタルでこそ真価を発揮します。本書で紹介されている技法も、アナログの紙片や情報カードを使うよりは、デジタルツールで運用した方がはるかにやりやすいでしょう。もちろん、単にアナログでやっていたことをそのままデジタルに置き換えるのではなく、そのコンセプトを活かせる形にアレンジするのが賢明ではあります。

ともあれ、『TAKE NOTES!』や『知的生産の技術』で紹介されている「カード法」は現代においても有用です。別に論文を書くためだけではありません。小さく考え、小さく書き留めていく行為は、知的生産の基本的なトレーニングと言っても差し支えないでしょう。

そういうところから、少しずつスタートすることが、誰においても大切です。

『アトミック・シンキング』

上記のようなお話を、わかりやすく伝えてくれているのが本書です。小さく書くことを通して、小さく考えていくトレーニングを行う。そのための方法が紹介されています。

基本的にはデジタルツールでの運用が念頭におかれていますが、細かい操作説明の話ではありません。そういう細々とした話ではなく、もっと全体的に「何をどうしていったらいいのか」が語られています。

主張としては、ごくまっとうなものです。もっと言えば、上記で示したような書籍群の系譜にあります。一気に何かをやり遂げるのではなく、毎日少しずつ書き留めることをしていく。そうして書き留めたものを見返して、さらなる思考へと繋げていく。こういう段取りです。

知的生産の技術では、よく「メモを取ること」の重要性が説かれますが、そうして書かれたメモが直接生産に役立つかどうかは、実は二の次なのです。そうではなく、メモを書くことを通して、「ちょっとだけでも考える」時間をつくれているかどうかが重要です。そうした時間が積み重なっていけば、「考えるための能力」は少しずつでも向上するでしょう。まずそれが肝心です。

もちろん、そうして書き留めたメモが後から有効に活用できれば言うことはありません。そのために、さまざまな「整理法」が提案されていますし、メモの書き方にも一工夫が必要でしょう。

とは言え、やはり起点になるのは「考える」ことです。『すべてはノートからはじまる』の表現を使えば、「思う」ではなく、「考える」ことです。少しずつでもそれを繰り返していくことが、知的生産の基礎体力向上には欠かせません。

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▼編集後記:
倉下忠憲


『アトミック・シンキング』は最近の本ですが、おそらくここからさまざまな「デジタル知的生産の技術」の本が登場してくると思います。シゴタノ!の連載を長く続けていますが、「ようやく時代が追いついてきた」という感じが(若干えらそうですが)あります。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中