今回は036を。まとまった文章を書くための、基本的なアプローチが紹介されている一冊です。
『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』
前回は、「読む」ことは「考える」ことにつながっていることを確認しました。同じように、「書く」こともまた、「考える」ことにつながっています。うまく書くためには、うまく考える必要がありますし、うまく考える上で、うまく書くことは有用です。
そこで本書では、「書く」ことと「考える」ことを結び合わせます。さらに「問題解決」と「表現」もセットにします。非常にボリュームのある内容です。
とは言え、主張は難しくありません。簡単にまとめれば、文章は「トップダウン」に配列されるべし、というものです。
図解すれば以下のようになるでしょう。
知的に十分な柔軟性をお持ちの方は、この「トップダウン」を嫌う傾向にありますが、しかしトップダウンで整理されていないコンテンツは非常に読み取りが難しくなるものです。
たとえば、以下の文章を読んでみてください。
私は朝、喫茶店に向かった。モーニングでコーヒーを飲むためだ。二辺の長さが等しい三角形は、二等辺三角形と呼ばれる。コーヒーはいつもより苦めだった。
明らかに一ヶ所だけ意味のとりづらい(つまり読みにくい)部分があります。それは、この文章が全体として持つ文脈から外れているからです。上記の図で言えば、その行だけピラミッドに含まれていないのです。
その行の真偽は関係ありませんし、その行の文法的正しさも関係ありません。単に、他の行との関係性の中で、その行が不要だというだけです。
そしてこの「その行が不要だ」という判断をするとき、そのコンテンツは「トップダウン」に配列することを目指していると言えます。
まとめれば、文章を書くときは、ピラミッド型になるように整えよう、というのが本書の大きな主張です。
ボトムアップで考える
とは言え、著者は「文章をトップダウンで書け」と主張しているわけではありません。そうではなく、完成した文章は、トップダウンで配列されているようにせよ、と言っているだけです。この微妙な違いが、実践では大きな違いとなります。
「文章をトップダウンで書け」という主張であるならば、まず一番上の箱(中心的なメッセージ)を設置し、それをいくつかの箱に分け、さらにその箱を……という感じで再帰的に分解を進めることになるでしょう。
それが一番小さい箱まで到達したら、後は実際に文章を書くだけ、めでたし、めでたし。と、ならないところが実践の現実です。
たとえば、上記のような進め方をする限り、「中心的なメッセージ」から外れる文は一文たりとも書いてはいけないことになります。なにせそれは、ピラミッドの外に存在するものだからです。そういう「異常な」(あるいは逸脱した)ものは認めないぞ!、というのが「文章をトップダウンで書け」という主張が意味するところです。いささか狂気じみています。
しかし著者は「ボトムアップで考える」と述べています。
たとえば、6つの文章をひとつの段落にくくるとします。なぜその6つを選んだのかと言えば、これら6つの文章にひとつの論理的に共通な関係が見出せるからです。共通の関係があれば、それらの文章をひとつの段落にまとめて、その段落で伝えたいひとつのメッセージをひとつの要約文として表現できます。たとえば、財務に関する5つの文章とテニスに関するひとつの文章を一緒くたにくくったりはしないでしょう。それらの関係性をひとつの要約文で表現することは難しいからです。
ここで明示されているのは、トップダウンで文章を書くことではなく、書いた文章を「ひとつのメッセージ」のもとで括っていくことです。文章を書く。その文章A、B、Cは一つの関係性でまとめられる。だからそれをまとめておく。こういうアプローチが「ボトムアップで考える」ことです。そしてそれが、「トップダウン」に配列されるべし、ということの意味でもあります。
二重のアプローチ
上記のアプローチを素直に受け取るならば、文章は一度書いたらそれで終わり、とはならないことがわかります。むしろ、文章を書いてみて、そこから「ボトムアップ」で考えて、全体を「トップダウン」に配列しなおす作業が必要です。
言うまでもなく、そうした作業で力を発揮するのがデジタルツールであり、その代表格がアウトライナーと呼ばれるツールです。
しかし、あらゆるツールを使う前に、上記のような二重のアプローチ(ボトムアップで考えて、トップダウンに配列する)について理解しておくことは大切でしょう。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。