今回は、012から015を。前回までの流れで登場した「デジタルツールを使った知的生産」の一つの有り様を示した一連の著作群です。
- 『アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~』(2016)
- 『アウトライン・プロセッシング入門: アウトライナーで文章を書き、考える技術』(2015)
- 『アウトライン・プロセッシングLIFE: アウトライナーで書く「生活」と「人生」』(2018)
- 『書くためのアウトライン・プロセッシング: アウトライナーで発想を文章にする技術』(2021)
『アウトライナー実践入門』
本書は、「アウトライナー」というツールの使い方を解説してくれる一冊です。ここで世界は二分されるでしょう。「ああ、アウトライナーね」という人と、「えっ、アウトライナーって何?」という人とにです。本書は、基本的に後者のような人を対象に書かれています。
入れ子状になったリスト、ないしは電子的な「アウトライン」を操作するためのツール。それがアウトライナーなのですが、本書ではそのアウトライナー上のベーシックな操作と、そのツールを使う上での考え方が提示されています。実践的な話題が中心ですので、これまで「知的生産」に本格的に携わったことがない人でも何かしら役立つものが見つけられるはずです。
では、そのアウトライナーの特徴は何かと言えば、それは「組み換え可能」な点です。言い換えれば、対象の情報を動的な状態に置ける点こそがアウトライナーの特徴であり、もっと言えばデジタルツール全般の特色でもあります。一度定着させた情報を、後から組み替え・入れ替えることができる。その操作性の高さこそがデジタルツールの特徴であり、その特徴が知的生産のプロセスそのものを変容させていきます。
本書はアウトライナーというツールにおける、そのような操作を「アウトライン・プロセッシング」と名付け、その技法的な整理が行われています。以下に続く同じ著者による著作群は、その「アウトライン・プロセッシング」の可能性をさらに提示する作品として位置づけられるでしょう。
『アウトライン・プロセッシング入門』
本書は──タイトル通り──アウトライン・プロセッシングの入門書です。その意味で、『アウトライナー実践入門』と重なる部分もありますが、本書はよりコンパクトにまとまっています。デジタルツールに親しんでいる方ならば、本書から入ってみるのもよいでしょう。
「アウトライナー」と「アウトライン・プロセッシング」の関係性が整理され、そこから「文章を書く」「理解する・伝える・考える」という具体的な用途についての解説があって、最後にアウトライナー論が論じられています。
内容的にはコテコテの実用書ではありますが、文章的な面白さも合わせ持つ一冊です。これは以下に続く書籍でも同様に言えることです。
『アウトライン・プロセッシングLIFE』
本書は、「アウトライン・プロセッシング」の応用編です。具体的には──タイトルではわかりにくいでしょうが──「タスク管理」についての話が展開されています。
ここで疑問が生じるでしょう。知的生産の技術書がテーマなのに「タスク管理」なんですか、と。その疑問に答えておきます。
まず、知的生産も一つの活動です。その活動の「管理」は何かしら必要になってきます。気ままに書いていたら、いつの間にか本が完成していた、ということはなかなかありえません。習慣化・工程管理・進捗管理といったタスク管理的営みは避けられないものです。
次に、タスク管理では「メモ」の扱いが話題になります。たとえばGTDにおける「inbox」がそれです。当然のように、知的生産においても「メモ」の扱いは必要です。この「メモをどう扱えばよいのか」問題については、知的性生産とタスク管理の話題が重なるところです(だから厄介なのですが)。
最後に、タスク管理においても「考える」という行為は非常に重要です。情報を分析したり、あるいは総合したりといった、メタ的な観点は欠かせません。もちろん、その思考プロセスは知的生産のプロセスの中でも活かされうるものです。
よって、知的生産の技術においてもタスク管理の話題は無視できないのです。アウトライナーというツールはその二つをブリッジしてくれる存在だとも言えるでしょう。この点については、私と著者との共著書『Re:vision』において深められているので、そちらを参照ください。
『書くためのアウトライン・プロセッシング』
本書は、アウトライナーとアウトライン・プロセッシングを用いた執筆、もっと言えば長文執筆にフォーカスした一冊です。おそらくここまで紹介した書籍の中で一番「知的生産の技術書」要素が高く、実践的な内容も盛りだくさんの内容になっています。
もし、今回紹介した本のうちどうしても一冊しか読めないという場合は本書を手に取られるとよいでしょう。アウトライナーを用いた動的な執筆法が、そのプロセスの実例と共に開示されています。その方法論は、10の『ワープロ作文技術』や11の『思考のエンジン』で提示されていた、デジタルにおける──つまり原稿用紙やノートを主眼に置くのではない──執筆の新しいスタイルです。
頭の中で構成組みを完結させるのでもなく、かといって思うままに書いてそのまま放置するのでもない。「書きながら考える」や「書いて考える」を実現してくれるこの新しい方法論は、ある意味で執筆という営みをより開かれた存在へと変容させる(つまり、書くことの民主化につながる)役割を担っています。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。