※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

知的生産の技術書040~041『論文の書き方』『論文の教室』


倉下忠憲今回は40と41を。「論文」の書き方を教えてくれる二冊を。

『論文の書き方』

清水幾太郎さんは知的生産の技術書031で紹介した『本はどう読むか』の著者でもあります。読むことと、書くことがこの二冊でワンセットになるわけですね。

さて、本書は1959年に初版が出版されているので、すご〜く古い話が書かれているように思われますが、その実、現代でもたいへん役立つ内容が含まれています。目次を見れば一目瞭然です。

1 短文から始めよう
2 誰かの真似をしよう
3 「が」を警戒しよう
4 日本語を外国語として取り扱おう
5 「あるがままに」書くことはやめよう
6 裸一貫で攻めて行こう
7 経験と抽象との間を往復しよう
8 新しい時代に文章を生かそう

もうこのままで、現代版の「文章の書き方」の目次として使えそうです。なぜそんなことが可能なのかと言えば、二つ可能性があります。一つは、「文章技術」といったものは5、60年ではそう変わらない基礎的なものである可能性。もう一つは、この50年間で私たちの「文章技術」が何もアップデートできていない可能性。

個人的には前者であることを願っていますが、それでも後者の可能性がある点は留意しておいた方がよいでしょう。もしかしたら、「適切な文章の在り方」そのものが変わっていた方がいい、という可能性すらあるのです。

とは言え、現状の「適切な文章の在り方」においては、本書のアドバイスは非常に有用です。それこそ「論文」を書かない人全般に有用です。

おそらく本書が出版された時代では、「まとまった量の文章を書く」対象の主要なターゲットが「論文」だったのでしょう。だからその象徴として「論文」が選ばれたのだと思います。

しかし、現代では、論文以外でもさまざまな媒体でまとまった文章を書くことが可能になっているので、本書を「論文の書き方」としてだけ読むのは非常にもったいないものです。広く「文章の書き方」として読まれるのがよいでしょう。

『新版 論文の教室 レポートから卒論まで (NHKブックス) 』


2022年に『最新版 論文の教室: レポートから卒論まで』が発売されているのですが、私が所有しているのが「新版」なのでリンクはこちらにしておきます(入手されるなら最新版をどうぞ)。

さて本書は、タイトル通り「論文」の書き方が解説されている本です。長くなりますが目次をご覧ください。

* はじめに
* Ⅰ キミは論文って何かを知っているか
 * 第1章 論文の宿題が出ちゃった!
 * 第2章 論文には「問いと主張と論証」が必要だ
 * 第3章 論文にはダンドリも必要だ
 * 第4章 論文とは「型にはまった」文章である
* Ⅱ 論文の種を蒔こう
 * 第5章 論文の種としてのアウトライン
 * 第6章 論証のテクニック
* Ⅲ 論文を育てる
 * 第7章 「パラグラフ・ライティング」という考え方
 * 第8章 「パラグラフ・ライティング」という考え方
 * 第9章 最後の仕上げ
* ここまでましになったヘタ夫の論文
* 練習問題の解答
* 巻末豪華五大付録
 * A 論文提出直前のチェックリスト
 * B 論文完成までのフローチャート
 * C ここだけのインサイダー情報:論文の評価基準
 * D 「禁句集」――作文ヘタ夫くんの使いがちな表現トップテン+α
 * E おすすめの図書など
* あとがき

全体としては、「そもそも論文とは何か」「アウトライン作り」「パラグラフ・ライティング」の三要素で構成されています。どれも必須の要素ですね。

ただし、「論文」という重装騎兵のような堅苦しさを感じるテーマを扱っていながら、本書は非常に緩く、柔らかい文体で綴られています。その内容と合わせて、親しみやすい一冊だと言えるでしょう。「論文」なるものを書くのに苦手意識を感じているならば、まず本書から「柔軟運動」をしておくのがよさそうです。

ちなみに本書の中でも、特に重要なのがアウトラインについての指摘です。まず、鉄則20で以下のように書かれています。

【鉄則20】アウトラインが太ったものが論文だ。アウトラインからできあがった論文は構成のしっかりしたものになる。論文を書くときにはまずアウトラインを作ろう。

論文においては構造が大切なので、それを支える骨組み(アウトライン)を「まず」作る。大切なアドバイスです。その上で、本書は次のようにつけ加えます。

アウトラインは、最初はシンプルなものしか作れない。だけど、さらに調べを進めたり、考えを深めていくにつれて、アウトラインはだんだんと膨らんでいくだけじゃなくて、いろいろ変更が加わっていく。つまり、アウトラインはいつでも暫定的なものと考えてほしいんだ。(太字原文)

論文執筆のために「まず」アウトラインを作る。でもそれがそのままで終わることはない。肉付けされて徐々に大きくなっていくだけでなく、変更が加わっていく。変化していく。これはTak.氏が「シェイク」と名付けられている現象です。

この「アウトラインを立てるが、それをいつでも暫定的なものとして捉える」という考え方は論文執筆に限らず、中長期的なプロジェクトにおいてきわめて有用です。ある段階の人間にすべてを見通すことはできない。材料を集めて考え続けなければならない。その現実を示し、サポートするための方法がアウトラインというツールであり、アウトライン・プロセッシングというメソッドです。

もちろん、それらを理解しても「あっという間に」論文が書けるようになったりはしないでしょうが、先行きについての指針は得られることでしょう。それはとても大切なことだと思います。

知的生産の技術書100選 連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲


最近は3つのプロジェクトを粛々と進めています。案外うまくいっている部分もあれば、まだもうちょっとしっくりこない部分もあります。なんにせよ、ワークフローが一瞬で完成することはないので、気長に調節していくとしましょう。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中