今回は004と005を。続き物の二冊です。
『発想法』(川喜田二郎)
川喜田二郎の『発想法』は、発想法の本ではありません。そういう射程の短い内容ではないのです。
本書は大きく二つの内容を持ちます。一つが研究活動における「野外科学」の重要性を提起すること。もう一つが、そうした研究活動で役立つ「KJ法」という思考の整理法の紹介。後者の思考の整理を経て、生まれてくるものが「発想」であり、たしかに本書は発想法を扱ってはいますが、その全体像はもっと大きなものになっています。
別の言い方をすれば、本書は発想のために発想するのではなく、ある種の問題解決のために発想を促す方法論が提示されているのです。その点には注意しておきましょう。
さて、まず野外科学の重要性ですが、著者は科学的な方法を以下の三つにわけ、それらすべてを備えていることが重要だと説きます。
- 野外科学
- 書斎科学
- 実験科学
これらは独立していわけではなく、それぞれが影響しあいながら連続してつながっています。
まず、書斎科学の中で「問題提起」が行われ、それに基づいて野外科学において「探検」・「観察」が行われます。そこから得られたデータから「発想」が促され、「推論」が続きます。ここでは再び書斎科学に舞台が移っています。そして、その推論を検証するために「実験計画」が立てられ、「観察」・「検証」を経て、研究はひと仕事を終えるのです。
図解にするとW型になるこの問題解決モデルは、研究活動の(科学的な活動の)方法論として本書では提示されていますが、その適用は科学研究だけに限らず、ひろく「問題解決」に適用できるものでしょう。野外(現場)・書斎(作業場)・実験(データ)を行き来しながら、少しずつ問題の全体像を浮き彫りにし、課題を明確にした上で、検証を重ねていく。多くの仕事で役立つアプローチです。その意味で、本書は「問題解決法」と呼ぶこともできるでしょう。
加えて、上記のプロセスで「発想」を促すための方法論として「KJ法」という手法が紹介されています。おそらく本書の名前と共によく知られているのがこの手法でしょうが、上記のような「研究」(ないし問題解決)の一部としてそれが提示されていることは留意すべきです。
小さな紙片を操作すれば、それでKJ法になる、というのではなく、より大きな構図の中にその手法が配置されるとき優れた効果が発揮されるのです。
『続・発想法』(川喜田二郎)
上記のように、『発想法』では研究アプローチについての提言が半分であり、KJ法の紹介は残り半分にとどまっていました。もちろん、十分な紙面とは言えません。そこで、より洗練されたアプローチを具体的に紹介したのが続編にあたる『続・発想法』です。
正直なところ、前著に比べればこの本の知名度はそれほど高くはありません。しかし、KJ法についてより詳しく知りたいのならば、ぜひとも本書をあたるべきです。言い換えれば、「知的生産の技術」として見た場合、より探索しがいのあるのは本書の方です。
実例を踏まえながら具体的な手法が詳しく開示されているので、自分でその手法を実行する際だけでなく、手法を分析する上でも役立つことが多いでしょう。
KJ法とは?
さて、ここまで名前だけが登場しているKJ法ですが、実際はどのような手法なのでしょうか。
まずブレーンストーミングを行い、その結果を一事一枚として紙片にすべて書き出していき、それらを大分類で区分けするのではなく、むしろ小さなグループを作っていき、その小さなグループのグループを作り、さらにそのグループを……という形で、段階的に構造化を進めていくのがKJ法です。
もちろん、上記のように一段落でまとめたものは大ざっぱな説明でしかありません。話を聞くだけだと、すごく簡単そうな方法ですが、たとえば「紙片にどのように言葉を書けばいいのか」ということですら、なかなか難しい問題を含んでいます。さらに、「大グループからではなく小グループから」という指針も、頭では理解していても実践するとまっさき大分類から行ってしまう、という困った問題も起こります。
そうした点を含めて、まずは原著にしっかりと当たっておくのがよいでしょう。インターネットを探せば、いくらでも手法の解説は見つかりますが、むしろその手法の周りや後ろにある情報の方が重要だったりするものです。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。