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知的生産の技術書016~018『Scrapbox情報整理術』『「超」メモ革命』『Obsidian活用術』


倉下忠憲今回は、016から018を。前回からの流れをさらに引き継いで、「デジタルツールを使った知的生産」のさらなる展開を示す三冊の本です。

『Scrapbox情報整理術』

最初にお断りしておくと拙著です。こうしたラインナップに自分が書いた本を入れるのは少々ためらいが生じますが、「Scrapbox」の話題を外すわけにはいかないので、今回は思いきって挙げさせていただきました。

本書はScrapboxの入門書です。とは言え、Scrapboxは単に使うことだけならば、ほとんど解説が必要ありません。「+」ボタンでページを作る、テキストを書く、[]で括ってリンクにする。これだけわかっていれば、基本的な使用は問題なくこなせます。新しい概念をわざわざ「輸入」しなくても、普段インターネット/Webブラウザを使っているならそのまま使えてしまうわけです。

しかしながら、Scrapboxにおける「情報整理」の手つきはかなり特異に感じられるかもしれません。特に、この手の「情報整理」の話題に古くから接している人ほどそうでしょう。アナログ的感覚ではごく当たり前の「ツリー構造下に情報を配置する」という構造になっていないからです。そうした馴染みの構造になっていないと、わりと落ち着かない気持ちがするものです。シャア・アズナブルのセリフを拝借すれば「アナログの重力に魂を縛られている」状態と言えるでしょう。

Scrapboxはそうした重力からの解放を促します。もっと自由に(あるいは非支配的に)情報を保存していけるようになるのです。その上で、情報同士をリンクで関連づけ、それをたぐり寄せることで必要な情報を取り出せるようにしてくれます。

とは言え、慌てて付け加えますが、重力がない世界では私たちは地に足がつかないように、ツリー構造下で得られる「落ち着き」にも意義があります。そうした構造が有用となる情報の対象は──デジタル時代になっても──当然存在しているわけです。しかし、情報を扱う手つきは、必ずしもそのアナログチックなものばかりではない、ということは理解しておく必要があるでしょう。

『「超」メモ革命』

本書もデジタルツールを主体とした知的生産活動に関する書籍です。メインツールはGoogleドキュメントになっています。

基本的な考え方は、Scrapboxと同じです。「ツリー構造下に情報を配置する」のではなく、フラットに情報を並べていき、検索で見つけるかリンクを辿って見つけるようにする。そのような体制になっていれば、扱う情報の規模が巨大になっても、その整理にかかる手間は一定で済みます。n乗に膨張することがないのです。その考え方こそ、デジタルツールにおける情報整理において必要な姿勢でしょう。

Googleドキュメントは、Scrapboxに比べるとリンクを作成するのが若干手間ですが、そのかわりにリッチテキストが扱えますし、他のGoogleツールとの親和性もあります。状況によっては、一つの選択肢になるでしょう。

『情報をまとめて・並べるだけ!超シンプルな「手帳」兼「アイデア帳」運用術』

情報をまとめて・並べるだけ!超シンプルな「手帳」兼「アイデア帳」運用術: 文章を書き、考える人のためのObsidian活用術 情報整理大全
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メインタイトルからわかりにくいですが、本書はObsidianに関する書籍です。

とは言え、本書はObsidianの入門・解説書ではありません。どちらかと言えば、著者がどのようにObsidianというツールを利用しているのかの実際例を紹介しているノウハウ書です。できれば、最初の一冊には入門・解説書を提示したいのですが、原稿執筆現在では日本語で読めるObsidianの入門書が存在していないので、本書をその一冊に挙げさせていただきました。

とは言え、本書を読めばObsidianの勘所は掴めるでしょう。Scrapboxと似ていながらも、根本的に異なるObsidianもまた、デジタルツールの思想において情報を扱えるツールです。

一応ここで補足しておくと、Scrapboxとの違いは、

  • 情報をローカルのファイルに保存する
  • マークダウン記法が使える
  • 基本的にひとりでの使用が念頭に置かれている

あたりです。これもまた、使用者の環境によっては適性がわかれるところでしょう。

さいご

現代ではこのように、さまざまな用途・環境に合わせてツールを選べるようになっています。嬉しいことです。

とは言え、そうしたツールについての情報や使い方を指南するノウハウ書は──アナログのそれと比較すれば──十分に揃っているとは言えません。この点は、「デジタルツールを使った知的生産の技術」が発展途上にある証左でもあるのでしょう。それはまた、現代で知的生産を行う人間の課題でもあるわけです。

知的生産の技術書100選 連載一覧

▼編集後記:
倉下忠憲


せっかく暖かくなったと思ったら、また寒くなってきました。しばらく耐え忍ぶことが必要ですね。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中