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記事を書き出す前の準備運動と書いた後の整理運動

倉下忠憲さあ、本日のデイリーを作りましょう。

金曜日なので、「シゴタノ更新」の項目を立てます。

さあ、執筆前の準備運動です。

準備運動

まず、ざっと書けそうなことを書き出していきます。

書きたいことはいろいろあるので、特には困りません。ただ、この段階では、そのとき頭に浮かんでいることを書き出すだけにします。

この段階で「これだ!」と思うものが見つかれば、そのままGoでも構いませんが、Goサインが出し切れなければ、もう少し準備運動を続けます。ただし、同じ運動は続けません。つまり、「そのとき頭に浮かんでいることを書き出す」のではない、別のことをやります。

たとえば、その日の朝に思いついたこと、つまりデイリーの項目を立てるまでに思いついたことの中に、「知的生産」に関係する話題があったので、それをドラッグでぐいっと持ってきます。これが簡単にできるのがアウトライナーの強みです。

また、最近この連載では知的生産に役立つツールの話をしていたので、ツールについての話題が保管されている項目も覗いてみます。

ふと見ると、最初に「シゴタノ更新」の下位に書き出した「知的生産ベーシック」についての項目が、ツール話をまとめた項目の上に配置されていました。そういえば、「この二つはたぶんシゴタノ!で扱うだろうから、近い場所に置いておこう」と判断したのでした。過去の私、グッジョブです。

というわけで、その項目もちらりと覗いておきます。ふむふむ。

ここまでくると、だいぶ素材が揃いましたし、自分が過去に考えたことともコンテキスト接続が成功しました。

connecting…success!

あとは、それぞれの項目について考えて/肉付けして、「うん、これかな」というものが見つかったら、いよいよ記事の執筆です。

整理運動

今回は、上の項目を書き出しているうちに、「ん? この工程そのものを記事にすれば面白い/役立つのじゃないか?」と思い立って、結局そのままそれを記事にしましたが、そうならなかったら、書き出した項目のどれかについて記事を書いていたでしょう。

で、記事の書き方については、また別の進め方があるのですが、それは別の回に譲るとして、今回触れておきたいのは、この「準備運動」の後始末です。

準備運動であっても、それは運動の一部であり、言い換えれば知的作用を働かせた結果です。記事に採用されなかったからといって、そのままポイと捨ててしまうのはもったいないですね。だからこれも後から利用できるように保存しておくのが望ましいと思います。つまり、準備運動をウォームアップとするならば、クールダウンに当たる活動を行うのです。

その場合、よくある方法としては、「シゴタノ!ネタ帳」という項目を作って、そこに放り込んでおくやり方です。簡単であり、おおむね直感的なやり方ではあるでしょう。

あるいは、「2020年7月17日シゴタノ!アイデア出し」とでもトップの項目名を書き換えておき、#シゴタノ というハッシュタグをつけて、そのまま保管しておく手もあります。必要になったときに、すぐに取り出せるなら、別段「ネタ帳」にまとめる必要はありません。

というか、「ネタ帳」という物理的な場所に一ヶ所に集める行為は、アナログツール的な発想であって、デジタルツールではそこまで必要性は高くありません。検索して後から見つけ出せるなら、それぞれの項目はどこに置いてあっても構わないのです。

だから、デイリー項目にそのまま置いておいても構いませんし、「アイデア出し」という項目を作って、そこに原稿・ジャンルを区別せずにあらゆるアイデア出しに使った項目を放り込んでも構いません。そのあたりのデザインは、まったくの自由です。

DoMAにおける整理運動

最近の私のやり方は、DoMA式であり、自分が注意を向けている対象の粒度で項目を作り、それを配置しています。先ほどの例で言えば、「▶︎ツールについての話」や「▼知的生産ベーシック」がそれです。

よって、私は「シゴタノ更新」の下位項目を確認して、それぞれ最適な「部屋」を見つけてそこに再配置していくことになります。関連するトピックがあるものはその場所に移動し、新しいトピックになりそうなものはそれを作り、不要なものは削除する。つまり、トピックを按配するわけです。

その上で、先ほども書いたように、「近いものを、近くにおいておく」という操作を行います。実は、この操作はアナログ的発想です。デジタル発想では、「どこに置いてあっても関係ない」(≒検索で抽出するので、置き場という概念が不要)なので、そもそもユーザーの任意の順番に項目を並べられないものも多くありますが、アウトライナーはそのあたりが柔軟です。

その柔軟性は、多少の手間をもたらすのですが、それに見合うだけの価値があります。たとえば、私は「▶︎ツールについての話」や「▼知的生産ベーシック」を、おそらくシゴタノ!で書くだろうとは思っていますが、絶対にシゴタノ!で書くとまでは考えていません。言い換えれば、「シゴタノ!」というトピックの支配下にはないのです。

もし私が、この二つをシゴタノ!で書くと考えていたら、親項目は「シゴタノ!で書きたいこと」として、その下に要素を並べていたでしょう。しかし、私の頭の中はそうはなっていません。だから、その操作をしてしまうと、使用感に違和が生じます。

別の見方をすれば、「近いものを、近くにおいておく」という操作は、同一項目下に配置したり、タグで接続するよりも、つなぎ方が緩いのです。「もしかしたら、近いかもしれない」という、「かも」性を表現するための手段として使えるのです。

もちろん、「かも」性は絶対に必要というわけではありません。あくまで、アウトライナーを使う上での配置の一つのパターン(outlining pattern)であり、必要に応じて配置すればよいでしょう。

さいごに

というわけで、今回は記事を書き出す前の準備運動と、記事を書き終えた後の整理運動について書いてみました。

準備運動については注意を向ける人も多いでしょうが、存外に整理運動(後始末)も大きな意義を持っています。それは単に、「せっかく考えたんだから、捨てないでおこう」というもったいない精神以上に、「自分が考えたことについて、考える」という意義を持っています。

でもって、そうした後始末ほど、デジタルツールが得意なのです。

▼今週の一冊:

考えてみると、私たちは当たり前のように資本主義社会に生きていますが、資本主義とはどのようなものかをきちんと理解しているかというと、結構微妙なところです。むしろそれは当たり前すぎて、まったく認識できなくなっているかもしれません。本書はマルクスの『資本論』を読み解きながら、現代における「資本主義」との付き合い方を考え直すきっかけを提供してくれます。



▼編集後記:
倉下忠憲



今回の記事を書いていても思いましたが、やはり「デジタルベース」の知的生産の技術は新たに論じられる必要がありそうです。単にツールを置き換えたら済む、というものではありませんので。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中