Scrapboxは時間を超越する



倉下忠憲Scrapboxは時間を超越します。

それは、「一年前に保存した情報が今日役に立つ」、といったことではなく──それは記録全般に言える話です──、自分の中にある情報構造が死滅しても情報が利用可能だ、ということです。

どういうことでしょうか。

そのことを考えるためには、まず非Scrapbox的な情報整理ツールを覗いてみる必要があります。

入れ子状の情報整理ツール

非Scrapbox的な情報整理ツールと言えば、たとえばEvernoteが思い浮かびます。情報の大分類ごとにノートブックを作成し、その中にノートを分類していく。そういう使い方です。

長期的に情報を保存していくことが、情報活用においては必須ですが、使っている期間が長くなればなるほど、保存する情報の種類・属性も増えていき、それに合わせてノートブックの数も増えていくのが常態です。

あまりに数が増えると手に負えなくなってくるので、ノートブックをとりまとめる「ノートブック・スタック」が用いられます。ノートブックはノートを入れるための「箱」ですが、ノートブック・スタックはそのノートブックを入れるための「箱」です。箱の箱。つまり、入れ子状の関係です。

Evernoteでは、この入れ子は一段階しか作れませんが(つまり、ノートブック・スタックをまとめるための箱は存在しません)、他の情報整理ツールではいくらでも入れ子状にすることができたりもします。

このようにして、いくつもの「整理するための箱」を作り、その箱を「整理するための箱」を作り、さらにその箱を「整理するための箱」……とやっていけば、いつかはびしっと綺麗な整理体系が築かれます。綺麗好きな人にとっては、望ましい状況でしょう。

そして、そこに問題が潜んでいます。

一ヶ月の自分が覚える違和感

では、時を進めてみましょう。

あなたは突然炎上プロジェクトに巻き込まれ、自分の情報整理ツールに一ヶ月以上触ることができませんでした。綺麗に整頓されたあのツールではなく、押し付けられた使いづらいツールでなんとかやるしかなかったのです。

さて、そのプロジェクトから開放されて、ようやく自分の情報整理ツールに戻ってくることができました。懐かしい我が家です。

しかし、あなたが家の扉を開けた瞬間に、大きな違和感が発生します。どこに何が置いてあるのか、わからないのです。

入れ子状になった「整理するための箱」たちは、その最上位構造において、理路整然と情報たちを整列させています。しかし、あなたにはその「理路」がわからないのです。あまりにも精緻に「箱」を整理しすぎてしまったがゆえに、細かい部分を覚えておくのが苦手なあなたの脳は、どんな理路において箱を整理していったのかを思い出せません。

仕方なく、あたなは今の自分がわかる範囲で、それらの箱から情報を取り出し、また箱にしまう動作を行います。当然、以前の理路と新しく用いられる理路には食い違いがあるので、情報の整理体系は全体として機能不全に陥ります。

そして、その情報整理ツールは、ゴミ箱とほとんど見分けがつかないものに変質するのです。

Scrapboxの場合は

どうでしょうか。上の話は、情報整理「あるある」話ではないでしょうか。私はこれをよく体験してきましたが、きっと私だけの話ではないと思います。

上記では「一ヶ月の空白」と設定しましたが、実は一週間くらい空いただけでも似たようなことが起こります。そして、その忘却は、整理のための構造が巨大で階層が深いほど発生しやすくなります。そんな複雑なものをぱぱっと覚えておけるほど人間の脳は優れていないのです(だから司書になるのはたいへん難しいわけです)。

では、Scrapboxではどうでしょうか。

Scrapboxでは、そもそも「整理のための構造」を作れないようになっています。いわゆる「ノートブック/フォルダ」的なものが存在しないのです。

きっとこれまでの情報整理ツールに親しんできた人ならば、このことに不満を感じるでしょう。入れ子状の「箱を入れるための箱」を作り、すべてを一覧しておきたい。そういう気持ちがあるはずです。そうしなければ、整理した気持ちになれない、すっきりしない、不安を感じる、そういうこともあるでしょう。

しかし、整理の構造を作る目的が、整理した気持ちになりたいのではなく、情報を後から利用するためであれば、入れ子状の「箱を入れるための箱」は別に必要ないのです。それが必要なのは、アナログな物質であって、電子的な情報ではありません。

検索すればいいのです。
リンクをたどればいいのです。

実際そうやって、私たちはGoogleから情報を探しています。であれば、自分の情報だって同じようにできるでしょう。

Scrapboxは時間を超越する

Scrapboxで情報を探す上では、「整理のための構造」を記憶しておく必要がありません。単にその「タイトル」か「内容に含まれるキーワード」か「それとつながっていそうなページ」を思い出せればいいのです。

というか、何かを思い出したくなるときは、そのどれかを思い出した場合ではないでしょうか。つまり「あっ、あれ」という感覚があり、その周辺の情報は思い出せるけどもそれ以外は思い出せない、という状況です。であれば、その思い出せた部分を手がかりに目的の情報を探せばいいのです。

つまり、Scrapboxでは「整理のための構造」を記憶しなくても情報が探せます(そもそもそれを作れないので記憶することすら不可能ですが)。

「整理のための構造」を忘れてしまうような年月が経っても、つまり一ヶ月経っても一年経ってもScrapboxは同じように使えるのです。これは予言ではなく、実際の私の経験から言えることです。

複数のプロジェクトに所属していると、ほとんどまったく触らないプロジェクトが出てきますが、そういうプロジェクトであっても、新しく情報を追加したり、既存の情報を探したりする上で迷いはほとんどありません。

つまり、Scrapboxは時間を超越するのです。

さいごに

今回は整理の構造に限って話を進めましたが、それ以外の要素でもScrapboxは時間を超越してくれます。「昨日の自分」と「今日の自分」が別人であっても、問題なく使い続けていけるのです。

でもってそれは「私」と「私以外の人間」が共に情報を集めるチーム・コラボレーションにおいても重要な要素だと言えるでしょう。

▼参考文献:

「参考文献」というほどでもありませんが、Scrapboxについていろいろ知りたい場合は役立つ拙著です。



▼今週の一冊:

買いましょう、読みましょう。1を読んでいないなら、1から読みましょう。ともかく面白いSF作品です。



▼編集後記:
倉下忠憲



ず〜〜〜と『僕らの生存戦略』を進めているので、心の中に「この本も書きたい、あの本も書きたい」という小粒な本作りの欲求が溜まってきました。『僕らの生存戦略』が一段落したら、そういう本作りも進めていきます。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中

PR