Scrapbox入門(当連載)では、基本的な操作方法についてのみ紹介し、具体的にScrapboxをどう使うのか、という話はしませんでした。
というのも、どう使うのかはまったく自由だからです。
もともと何かを記録できるツールは、よほど専門性に特化されていないかぎり、多くの役割をこなすことができます。そして、その使い方のバリエーションは、使う人の想像力の分だけ広がっています。
あまり早期に「このツールは、こう使うものだ」と知ってしまうと、それが先入観となって使い方が広がっていかないかもしれません。なので、入門ではその手の話を避けました。
今回は、一通り機能を紹介したことですし、いくつか「私の」使い方を紹介してみましょう。もちろん、「一例」として捉えてもらえれば幸いです。
オブジェクト・コレクション
基本的には、本の情報を集めるためのプロジェクトです。
ブクログなどのサービスは、買った本・買おうとしている本を管理しますが、このプロジェクトは「たまたま見かけた」「気になった」という本の情報も保存してあります。
で、たとえば、以下のようなページを作っておくと、同じ著者や出版社、同月に発売された本の情報が関連ページに表示されます。これは単純に楽しいですし、便利でもあります。
また本の内容を記述し、そこにリンクを加えておくと、同じ内容を持つ別の本も関連ページに表示されます。リンクの設定自体は、自分で行えますので、キーワードだらけでノイズになることもありません。なかなか有用です。
さらに、このプロジェクトでは本以外の「趣味」の情報も保存してあります。で、たとえば、カードゲームなどでも、カード名を入力するときにブラケットの中にいくつか語句を入れるだけで、カード名が候補として出てきます(そういうページやリンクを作っていたら、ですが)。
だいたいにおいて、カード名のフルネームをしっかり覚えていることは稀なので、こうしてうろ覚えでもリンクから引っ張ってこれるのは大変ありがたいです。「たまたま見かけた本」の情報を保存しているのも、これと同じです。そういう本は、ものすごく曖昧にしか思い出せないので、曖昧に引っ張ってこられるとたいへんありがたいのです。
ワーキング・スペース
- 倉下忠憲’s project
こちらはプライベートなプロジェクトです。タスク管理+原稿執筆に使っています。
タスク管理は、
- デイリータスクリスト/スプリント
- プロジェクトノート
- リマインダー
の3つの要素から構成されています。
デイリータスクリストとスプリント(≒一週間ノート)は、テンプレートを準備して、それを機械的にコピーすることで作成しています。
プロジェクトノートは、大きめの企画案の進行情報を管理しています。
リマインダーは、このプロジェクトにアクセスするたびに、アラートが表示される仕組みをUserScriptという拡張機能で実装しています。
このプロジェクトのポイントは、デイリータスクリストでタスクを管理したら、そのままそれをリンクにして、いきなり原稿執筆に移れる点です。私の主要なタスクはほぼ原稿執筆なので、それがスムーズにつながる点がありがたいところです。
また、連載記事などは同一のタグをつけるか、「連載」用のプロジェクトノートからリンクをはっておけば、以前書いた原稿に即座にアクセスできる便利さもあります。
アイデア・インキュベーター
私が使っている中で一番面白いというか、一番「Scrapbox的」なのが、この使い方です。
使い方は単純で、日々の「着想」を書き留めるためのプロジェクトです。近しいものを持ち出せば、梅棹忠夫さんなどが提唱されていた情報カードを使ったカード・システムあたりでしょうか。
なるべく短い単位で着想を書き留め、キーワードをリンクにし、別のページへのリンクを貼りつけていきます。ここでもブラケット内の候補提示が力を発揮します。
一つには、自分が書き留めたものであっても、その記憶については曖昧(うろ覚え)であること。完全な形で思い出せることは稀で、しかし何かしら一部分だけは思い出せることが大半なので、曖昧な入力を許容してくれるScrapboxは強力です。
もう一つは、そのようにリンクを作っていると、「思い出そうとはしていなかったが、過去の自分が作っていたページ」が候補に出てくることです。これが存外に面白い出会いになることがあります。
前者の候補提示は必然的出会いでしたが、後者の候補提示は、偶然的邂逅です。この二つの作用によって、自分が過去に書き留めた着想が活用されやすくなります。
また、このような書き留め・リンク処理はあまり「かっちり」やらないのもポイントです。一度「かっちり」やってしまって、あとはもう手を付けないでも大丈夫なようにしておく、というのではなく、できるところだけ、気になったところだけを書いておく/変えておく、というくらいの心持ちがよいのです。
なぜなら、まず「かっちり」やろうとすると心理的な敷居が高くなり、行動が生まれにくくなりますし、また時間が経てば、一つの着想に対する自分の反応も変わってくるので、「二度と触らなくて良い」というのではなく「何度でも触っていく」方が、アイデアを育てる効果があります。
よって、「中度半端でOK」の気構えが、アイデア・インキュベーションのコツです。
さいごに
今回は、私の主要なScrapboxの使い方を3つ紹介してみました。他にもたくさん所有/所属しているプロジェクトはあるのですが、個人だけの使い方となるとこの3つがメインとなってきます。
1つめの使い方は、WordpressなどのCMSである程度代替できるでしょうし、2つめの使い方は、Evernoteなどでもある程度代替できます。しかし3つめの使い方だけは、いまのところScrapboxでしか実現できません。個人的に期待している使い方でもあります。
ちなみに、その他の活用事例については以下のプロジェクトでまとめられているので、ご興味がある方はそちらもご覧ください。
▼参考文献:
Scrapboxに関する基本的な操作方法と概念を紹介しました。
▼今週の一冊:
この社会の中で、「見えなくなっている人たち」に関する論考です。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。メルマガ毎週月曜配信中。