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『すぐやる人に変わる 心理学フレームワーク』で創造的な人について学ぶ

倉下忠憲

佐々木正悟さんの『すぐやる人に変わる 心理学フレームワーク』では、さまざまな方面の心理学の知見が紹介されています。で、その中に「クリエイティブなアイデアを育む深層心理学」なる章がありました。第四章です。

» すぐやる人に変わる 心理学フレームワーク

項目は8つあって、各タイトルは以下の通り。

  • 創造的なチェックリスト
  • 意識の深層にあったアイデアを見つけ出す
  • 書き出して整理するとアイデアが得られるのか?
  • どうすれば創造的な人になれるのか?
  • アナロジーで問題を解決する
  • 思考パターンを切り替える
  • セレンディピティに遭遇する
  • 逆さまの発想力

どれも面白そうですが、中でも気になるのが「どうすれば創造的な人になれるのか?」です。

今回は、この中身を覗いてみましょう。

二つの思考

「創造的な人」について考えるためには、まず「創造性」とは何かを考えなければいけません。

『心理学フレームワーク』では、そのヒントとしてジョイ・ギルフォード氏が提唱した思考に関する概念が紹介されています。

収束的思考と拡散的思考の二つです。

収束的思考は、既知の情報を用い、それらを展開させて、唯一の正解にたどりつくためのもの。一般的なテストで測定されるのは、こちらの思考力です。

対して拡散的思考は、既知の情報から考えを拡散させ、新しいものを生み出していくものです。こちらには唯一の正解なるものはありません。たとえば、「本棚に効率的に本を収納する方法」であれば、アイデア次第でいくらでも思いつくでしょう。

両者を見比べてみると、拡散的思考の方が創造性の担保になっていると予想できます。

創造性に関する6つの能力

さらにギルフォードは、創造性と関係する6つの能力を挙げています。

  • 問題を発見する能力
  • 円滑な思考力
  • 思考の柔軟性
  • 思考の独自性
  • 再構成する能力
  • 工夫する能力

このうちの3つ(円滑な思考力、思考の柔軟性、思考の独自性)が、拡散的思考に該当するとギルフォードは述べているようですが、本当にそうでしょうか。

たとえば、「問題を発見する能力」は、これまで問題と思われていない状況から問題を見出す力(あたらしい問題を作り出す)なわけで、拡散的思考と言えるでしょう。

ただし、そうして作り出した問題を精緻に定義していく力は、収束的思考と言えそうです。

おそらく再構成する能力にも、工夫する能力にも拡散的思考の貢献はありそうです。アイデアは遍在するわけです。

いかにしてそれを得るか

さて、仮に創造性において拡散的思考が欠かせないとすると、次に問題になるのが「いかにすればそれが身につけられるか」です。

たとえば、先ほどの6つの能力を変形すれば、

  • 問題を発見しましょう
  • 円滑に思考しましょう
  • 思考に柔軟性を持たせましょう
  • 独自に思考しましょう
  • 要素を再構成しましょう
  • もう一工夫しましょう

とアイデア創造のチェックリストが作れます。

しかし、「思考に柔軟性を持たせましょう」と言われて、柔軟に思考できるくらいなら苦労はありません。

脳は体の一部なわけですから、「考え方」とは言わば「体の動かし方」です。自転車の漕ぎ方をテキストで説明されたところで、自転車に乗れるわけではないのと同じように、思考方法について説明されたところで、その思考ができるようになるわけではありません。
※不思議とできるようになる気がするのが面白いところです。

では、どうすればよいのか。

自転車のアナロジーを続ければ、「実践あるのみ」となるでしょう。たとえ最初はうまくできなくても、「柔軟に」考え続けるようにしたり、「独自に」思考したりしてみるのです。もちろん、失敗するでしょう。

しかし、そうしないと上達はしないものです。

手助けする存在

そうした実践の際、サポート役がいた方がスムーズに進みます。

それは、「失敗」を失敗と認識しないと上達が進まない__独自性のないものを独自性があると誤認してしまうと、方法が改善されない__という理由があるのですが、それと共にアドバイスしてくれる人がいた方が上達が早い、という点もあります。

これまた自転車のアナロジーを続ければ、後ろで自転車を持ってくれていたり、あるいは補助輪を付けたりといったことがこれにあたります。

ですので、創造性の高い人と一緒にブレストするのは大変効果的です。あたらしいアイデアが生まれてくる「現場」にいることは、自らの創造性の助けになります。

あるいは、少し遠回りしてもよければ、創造性の高い仕事をしている人たちの書いた本を読んだり、講演を聴いてみることも有用でしょう。

ただし、「功績」や「結果」についてではなく、思考のプロセスがどう進んでいったのか、どういう状況からどういう情報を引き出したのか、そこからどう思考を発展させていったのかが解説されているものでないと(自分の創造性アップに関する)効果はありません。

補助輪的なもので言えば、「考えるための道具」を使ってみるのも有用でしょう。

『心理学フレームワーク』の中でも、オズボーンのチェックリストが紹介されていますし、それと元にした『智慧カード』という商品もあります。

こうしたツールを使っていると、いかにもトレーニングじみた感じがするものですが、実際トレーニングなのだから仕方ありません。回数を重ねていけば、徐々にチェックリストを使わなくても、それに応じた思考が動き出してくるようになるでしょう。

» 智慧カード3


さいごに

思考法というのは、「知識として知っていること」と「実際にそれができること」の乖離が見えにくい対象です。

創造的な思考とはどのようなものかの感触が掴めたら、あとはその方向に向けてただ実践を続けるしかありません。

脳には可塑性がありますが、そんなに一気には変化しません。できれば、ゲーム感覚で上のような思考の実践ができると続けられるかと思います。

そのためには、アイデアが必要となる本番だけではなく、日常のあちこちで実践の場面を持っておくのが良いでしょう。

» すぐやる人に変わる 心理学フレームワーク


▼編集後記:
倉下忠憲



最近本の新規購入を避けて、できるだけ積ん読を解消しようとしているんですが、なぜだか電子書籍が後回しになってしまいます。特に避けているつもりはないのに、不思議です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。