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新しい本との出会いと書店の役割

By: GarrettCC BY 2.0


倉下忠憲

前回は、「新しい本」との出会い方について書いてみました。

  • 「定点購入」
  • 「分野探索」
  • 「新規開拓」

の3つでしたね。

今回は、この中の「新規開拓」における書店の役割について考えてみましょう。

書店の5つの役割

残念ながら、必要な本が分かっているとき、リアル書店はネット書店に対してほぼ優位性を持ちません。圧倒的な在庫量・柔軟な検索・関連する書籍の提示は、本を買う上での強力なサポートです。

しかし、リアル書店がまったく用済みかというと、もちろんそんなことはありません。特に「新規開拓」については、書店の役割は非常に大きいものです。たとえば以下のような「機能」が考えられるでしょう。

  • 表紙をザッピングできる
  • 中身をチラ見できる
  • セレンディピティーのシャワーを浴びる
  • 企画によるボーリング
  • 書店員によるキュレーション

表紙をザッピングできる

本を「カバー買い」する人が結構いるようです。カバーだけで買うのか、カバーで興味を持って中身を確認してから買うのかはわかりませんが、本選びの重要な要素であることは間違いないでしょう。

書店では、そのカバーをザッピングすることができます。ようするにカバーだけを見ながら歩き回ることができるわけです。ネット書店だと案外これが難しいのです。一覧形式だと画像が小さく、個別表示だと一覧性が失われてしまいます。書店と同じようにはいきません。

中身をチラ見できる

「新規開拓」の本を買う場合、博打的要素を減らすためにも中身を確認しておきたいところ。

ネット書店だとそれが少々難しいのです。もちろん中身を確認できる機能はありますが、紙の本のように「パラパラ」と瞬間的には行えません。

ザッピングとこのチラ見の存在によって、リアル書店ではかなりの速度で「新しい本」の感触を確かめていけます。新規開拓作業にはぴったりです。

ネット書店では、そういう要素が少なく、むしろ「レビュー」的なものの存在感がアップしてしまいます。しかし『ハイブリッド読書術』でも触れましたが、レビューはあくまで「参考情報の一つ」でしかなく、それだけで本の判断をしてしまうのは危険です。

セレンディピティーのシャワーを浴びる

ネット書店は「探している本を探す」ことは得意ですが、「思いも寄らなかった本」との遭遇には向いていません。

しかしながら、アイデアというのは「既存の要素の新しい組み合わせ」です。それはつまり「予想外の出会い」の中にアイデアの種が潜んでいるということです。

そういう意味で、何かしら問題意識を持って書店内をぶらぶら歩き回るという行為自体が、一種の発想法と言えるでしょう。特に、自分の専門分野とは関係ない書棚を歩き回るのがコツです。これはネット書店では__今のところ__決して体験できないものでしょう。

企画によるボーリング

書店によっては、ときどき企画として関連書籍を集めた棚を作っています。

ネット書店でも一冊の本に対する「関連する書籍」が提示される機能はありますが、それは「関連性が高いもの」が選ばれているでしょう。ある本から「やや遠い位置」にある本は表示されにくいのです。

書店の企画展開棚では、最新の本だけではなく「あっ、こんな本もあったんだ」という本も並べられます。もしかしたらネットの「関連する書籍」では弾かれているかもしれない本です。

そういう本と出会えるのも、リアル書店の面白さの一つです。

書店員によるキュレーション

書店によって、何が「イチオシ」に選ばれているかはわかりませんが、書店員さん自らがオススメしている本は、ある種のキュレーションと呼べるでしょう。

本を扱うことを仕事にしている人からのオススメというのは、面白い本である可能性がぐっと高くなります。そういうオススメに出会えるのは、もちろん本を扱うことを仕事にしている人の職場ならではです。

書評家というのは、それが仕事になっているので、「紹介するために紹介している」感がたまに出てきますが、本を売る人の場合、「これを知って欲しいから紹介する」という熱量がそこはかとなく出てきます。そういう熱量に触れられるのもリアル書店での心地よい体験です。

逆に言えば、営業からプッシュされたからとか、今話題になっているからという理由の「オススメ」は、ネット書店のランキングとさほど差別化できないとも言えます。

さいごに

『ハイブリッド読書術』の中で、書店の機能を「本と出会える場所を提供すること」と定義しました。

単に「買う」という機能だけならば、圧倒的にネット書店が有利なのは間違いありません。しかし、リアル書店が淘汰されてなくなってしまったら、読者(というか本を買う人)は目に見えないリスクを負うことも考えられます。

そうしたことは後から気がついても手遅れなので、あらかじめ私たちがそこから得ているもの、代用できないものについて考えておくのは大切なことでしょう。単一の基準(この場合は利便性)だけで全てを判定してしまうのは、なかなか危険なことです。

※ちなみに今回の記事は、以下のツイートに触発されて書きました。リアクションありがとうございます。



▼参考文献:


宣伝感ハンパないですが、今回のお話は上の本でもいくつか紹介しました。本を日常的に買っている人にとっては当たり前の行為に思えますが、「本を買う」というのは実はなかなか難しいのです。

▼関連エントリー:

「新しい本」との出会い方 

▼今週の一冊:

知人のブロガーさんが出版された本です。一体何冊目になるのかわかりませんが、Evernote本。わりと分厚めの一冊です。

Evernoteの基本的な操作方法と、応用的な使い方が紹介されています。リマインダーなど最新の情報もフォローしているのがポイントでしょう。ともかくEvernoteはアップデートが多い&早いので、機能紹介については新しい本を参照するのがベストです。


▼編集後記:
倉下忠憲



最近気がついたんですが、「自分が書いていて楽しい文章」と「(自分が書いて)読んで面白い文章」が一致しない場合があります。で、ジャッジメントの基準はやっぱり後者です。作業そのものが楽しいだけでは、実のある成果につながるかどうかはわからない。そんな気がします。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。