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アイデアに関するアドバイスとの付き合い方

By: blair_25


倉下忠憲次の記事を読みました。

» ひらめきタスクが事態を打開する 

事態を大きく変容させた行動というのものは、概して「企図されてなかった」ものです。私自身の例を挙げますと、私の人生を一変させたのはこのシゴタノ!の大橋さんです。

「企図されてなかった」行為によってもたらされたものを、企図して再現できるか。

とても面白い問題です。

佐々木さんは「相手のあるセレンディピティは、意図的に発せられない」とおっしゃっていますが、それについては保留しておきましょう。

今回取り上げたいのは、自分自身の活動に関するセレンディピティです。

言い換えれば、「アイデアをいかに生み出すか」についてになります。

再現性のあるアドバイス

「企図されてなかった」行為によってもたらされたもの__と聞いて思い出すのは<アイデア>です。

たとえば、私が電車にのっているとしましょう。

その時、車内の吊り広告を目にして、何か原稿のネタを思いついたとします。「おっ、これは使えるな」という発見をしたこと、つまり__小さいながらも__それはアイデアと呼べます。

ここで大切なのは、私はその原稿のネタを求めて吊り広告を眺めたわけではない、という点です。企図されていない、いわば偶然の出会いによってアイデアが生まれたわけです。

歴史上、同じように偶然によってアイデアが見出された例は枚挙にいとまがありません。

だからこそ、「メモ帳をいつでも持ち歩け」というアドバイスが役立つのです。アイデアとの出会いが企図されないものだとすれば、いつアイデアと遭遇しても良いように、遭遇したらがっしりキャッチできるようにメモ帳を持ち歩くのです。

「メモ帳をいつでも持ち歩け」

については、再現性のあるアドバイスと言えるでしょう。

広告を見よ

では、

「電車に乗ったら吊り広告を見よ__さらばアイデアは生まれん」

はどうでしょうか。再現性のあるアドバイスと言えるでしょうか。

一般的に考えれば、いささか難しい気がします。

「アイデアが生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない。たぶん、生まれないほうが圧倒的に多い」

が正確なところで、これがアドバイスとして成立するのかも難しいところです。

そもそも、私がもう一度吊り広告を見たとしても、アイデアが生まれるとは限りません。私自身の中ですら再現性がないのです。他の人については推して知るべし、と言ってよいでしょう。

具体と抽象

しかしながら、私はこうして毎週のように原稿を書いています。日々アイデアと遭遇しているのです。吊り広告アドバイスに再現性がなくても、アイデアを掴まえることができるのです。

それはなぜか。

きっと、「電車に乗ったら吊り広告を見よ」は具体的すぎるアドバイスなのでしょう。具体的すぎるものは、一回性を帯びがちです。

もしこのアドバイスが、

「日々、新しい情報に触れるようにする」

であれば、広がりはぐっと増します。

普段電車を使わない私にとって、吊り広告は新しい情報なので、先ほどのアドバイスもここに含められます。もちろん、その他の見慣れない情報との接触全ても含まれます。私が何かしらのアイデアを思いつくのは、まさにそういう行為ですので、アドバイスとしては問題ありません。

抽象の問題

すると、このアドバイスで良さそうな気もしますが、別なる課題も登場します。

「新しい情報とは何なのか?」
「情報に触れるとはどのようなことなのか?」

ここに解釈の余地が残ってしまいます。

「新しい情報」は一見わかりやすそうですが、人によって違う点を見逃してはいけないでしょう。私にとって吊り広告は見慣れない情報でも、毎日電車に乗っている人にとっては、ありふれた情報です。その場合、電車に乗っているときは、別の情報に触れた方がアイデアが生まれやすいかもしれません。

また、「触れる」という言葉も、感覚的ではありますが実際にどうすればいいのかまではわかりません。

抽象度を上げることで適用できる範囲は広がったものの、実際に行動に移す際に、考えなければならないことが増えてしまっています。

どうしても制御できないこと

さらに、アイデアについてはもう一つ問題があります。

それは「アイデアを生み出しやすい状態・環境」の作り方がわかったとしても、そこからどんなアイデアが生まれてくるのかは予想できない、ということです。成果を制御できないのです。

つまり、今日の原稿のネタを求めているのに、来月から書き始める原稿のネタが思いつくことがある、ということです。こればかりはどうしようもありません。無意識を完全に操作することなど不可能です。

これについては、アドバイスが入り込む余地は皆無と言ってよいでしょう。狙いのものが出てくるまでガチャガチャを回し続けるように、求めるアイデアが出てくるまでさまざまな(その時役に立たない)アイデアを出し続ける必要があります。

さいごに

アイデアは、思いもよらない場面で、思いもよらないものが出てきます。

ほんとうに困ったものです。

でも、だからこそアイデアには価値があります。「こうすれば、こういうアイデアが出ます」という方程式が見出されるなら、アイデアの価値など激減するでしょう。難しいですが、これと付き合っていくしかありません。

その際、他の人のアドバイスは確かに役立ちます。ただ、実行してみる前に、自分で一度考えてみる必要はあるでしょう。具体的すぎるものは、抽象度を上げてみる。抽象的すぎるものは、実際の例を考えてみる。

ちょっと面倒かもしれませんが、その一手間でずいぶん有用度が違ってくると思います。

▼今週の一冊:

「いまさらLINEの本かよ」

という感じがしないでもありませんが、私自身まったく使ったことがなかったので面白く読めました。
※2012年11月発売の本です。

クローズド具合や、ハイコンテキストで短いメッセージのやりとりなど、ある意味でとても日本的なツールだと感じます。本書を読んで、このツールが広がっている理由がなんとなく掴めました。

» LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか? (マイナビ新書)


▼編集後記:
倉下忠憲せっせと改稿作業


を進めていた『アリスの物語』が、ついに予約開始になりました。つまり、脱稿です。発売は5月15日からですが、すでに予約可能になっております。ちなみに199円はセール価格ですので、ご購入を検討されているならば、早めに購入していただければと存じます。

» アリスの物語 (impress QuickBooks)[Kindle版]



▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。