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アイデアに至る道は一つだけではありません。
アイデア作りには、さまざまな手法が存在しています。
たとえば、外山滋比古氏の『アイディアのレッスン』では、アイデア作りの手法が10個紹介されています。
- ブレイン・ストーミング
- 延長線上・慣性の法則
- セレンディピティ
- 発酵させる
- ”カクテル”にする
- たとえる
- 結合させる
- 類推する
- ヴァリエーションをつくる
- 入れかえる
本連載で紹介したものもいくつかありますね。この10個はどれも有用な手法であると思います。
今回はこの10のアイデア手法の中から、3つだけ選りすぐって紹介してみましょう。
”カクテル”にする
アイデアをゼロから生み出す行程が、お酒をつくる醸造に似ているとした上で、他の人が作ったお酒を混ぜ合わせて新しいお酒にする、つまり他の人の成果を集めて自分の成果を作り上げるという手法を外山氏は「”カクテル”にする」と呼んでいます。
諸家の考えはみなそれぞれを酒であるとする。それをそのまま使えば、引用、借用であるが、これを全部まぜてよく攪拌すると、新しい酒、カクテル酒ができる。そしてこれもりっぱな酒である。
論文のことが念頭に置かれていますが、もちろんそれ以外でも有用な考え方です。大企業が生み出す製品が、中小企業の尖った技術を集めて作られている、というのもこのカテゴリーに分類できるでしょう。
当然、なんでもかんでも集めればOK、というわけでないことは説明するまでもありません。お酒の種類、分量、混ぜ方がカクテルの出来映えを左右します。アイデアも同様です。
類推する
外山氏が発見のもっとも有力な方法の一つとして紹介しているのが、この「類推する」です。
類推の方法論について紹介するのはとても長くなりそうなので、簡単に実例を出しておきましょう。
- アイデア作りが”カクテル”を作るようなものだとする。
- ならば、カクテルの作り方がアイデア作りの手法を考える上でも役立つのではないか?
- カクテルの作り方には、「シェイク」「ステア」「ビルド」「ブレンド」の4つがある。
- これを、アイデア作りに置き換えるとどうなるか?
という感じです。
Aで成り立つことがあるのならば、Aと似たBでも似たようなことが成り立つのではないか、と考える方法ですね。
実用的かつ応用力のある考え方なので覚えておいて損はありません。
入れかえる
「入れかえる」は概念としてはシンプルなものですが、なかなか強力な手法です。
これまでは背景におかれていたものを、前面に持ってくることで、全体が新しい作品になる。これまで注目されていない部分であった考えを、全面に押し出すことによって、新しいアイディアを作りだすことができるのである。
たとえば、脇役だったキャラを主人公にした「スピンオフ」が良い例かもしれません。サブだったものをメインに、あるいはメインだったものをサブに持ってくることで、新しいものが生まれてくる可能性があります。
他にもいろいろなパターンが考えられるでしょう。
さらに、この「入れかえる」をより広く捉えると、発想での有用性が大きくなります。
書き手が読み手の立場に立って考えてみる、というのもその一つです。もちろんその逆も有用でしょう。提供者と利用者の立場を入れかえてみることで、発見できることはいろいろあります。
平凡なものを特殊に、特殊なものを平凡に、というのも物語作りではよく使われる手法です。始めを後に、後を始めに。男を女に、女を男に。価値ある物を無価値な物に、無価値な物を至上命題に…と数え上げれば切りがありません。
こうした「入れかえ」によるアイデアの発見はいたるところで見ることができます。
さいごに
今回紹介したのは3つだけですが、その他の7個も大変有用です。さらに言えば、「考え方」の方法はこの10個に限られるわけではありません。
私たちは、簡単に「考える」という言葉を使いますが、その内側で進行しているプロセスはとても複雑で多岐にわたっています。ざっくりと分かったつもりになるよりは、一つ一つ実際に自分で試してみて、脳内にインストールするのがよいでしょう。
こうしたことは「アイデアが必要になったとき」に急に持ち出すのではなく、日頃から目に付くもので”トレーニング”しておくのがよいかと思います。
▼参考文献:
そもそもアイディアとは何か、というところから話が始まり、後半では上で紹介した「アイディア作りの手法」が10個紹介されています。
平易な文章なので読みやすいかと思います。
▼関連エントリー:
▼今週の一冊:
しっかり骨太の本でした。
物流の世界に「コンテナ」が導入されていくなかで、どのような変化が起きたのかが紹介されている一冊です。
いくつも読み解ける点はあるのですが、たとえば「コンテナ」の能力を最大限発揮させるためには、船だけではなく、港や陸上運送もそれに最適化させる必要がある、という話は大変示唆に富んでいます。
仕事の進め方でも、わりと似たようなところがあって、何かのツール(コンテナの箱)を導入しただけでは「あぁ、そうなの」ぐらいの感覚しかないことがあります。しかし、そのツールを中心とした「システム」を作り上げたとき、大きな変化がやってくる。こういうことです。
そのほかにも面白い点はいろいろありますので、気になる方はR-styleの書評でもご覧ください。
Follow @rashita2
回数を重ねると慣れて上達し手早くこなせるようになる、とよく言われますが、すでに6冊本を書いているのにいっこうに本を書く速度があがりません。不思議です。と書いてみましたが、全然不思議でもなんでもありません。今までを振り返ってみると、全て「本の書き方」が少しずつでも違うんですね。企画のまとめ方から、原稿を書き進める環境まで、何かしらの変化があります。「同じことを繰り返している」わけではないので、当然上達するはずもありません。
あるいは、「本を書く」というのは一冊一冊が新しい作業なので、一生かかっても「上達し手早くこなせるように」なることはないのかもしれません。
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。