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ブロガーのための「読むだけで文章がうまくなる」新書2冊

By: Ryk NeethlingCC BY 2.0


佐々木正悟 一般的に、「スキルアップ」や「ビジネス書」は、「読むだけではダメ、実践しないと効果が上がらない」ものですが、「知識」がかなりのウェイトを占める分野に関しては、この限りではありません。「文章力」がそんな分野の一つで、ある程度ならば、「書き方を知る」ことで力が向上します。

もちろん、「文章力」も、「文章の書き方」を読むだけで終わるよりは、実際に書くことによって上達するものですが、「基本的に書き方のことなどあまり考えたことがない」のであれば、知識を得るだけで力がつきます。文章とは「考えて書く」ものですが、よい文章読本は、「文について自然に考えさせてくれる」からです。

今回は、時間があまりないものの、何らかの理由から「手っ取り早く文章がうまくなりたい」という人向けに、薄手の、読みやすい新書を二冊紹介します。一冊は、日本語を外側から研究した、フランス人言語学者による本。もう一冊は、「日本語の達人」とも言われる小説家、志賀直哉の「文章のうまさ」を研究した本です。

日本語の森を歩いて (講談社現代新書)
日本語の森を歩いて (講談社現代新書) F. ドルヌ

講談社 2005-08-21
売り上げランキング : 270903

おすすめ平均 star
star残念。
star日本語の森の「奥」まで「行ってきました」
starフランス語の勉強にも役立つ

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志賀直哉はなぜ名文か―あじわいたい美しい日本語 (祥伝社新書)
志賀直哉はなぜ名文か―あじわいたい美しい日本語 (祥伝社新書) 山口 翼

祥伝社 2006-04
売り上げランキング : 308781

おすすめ平均 star
star志賀直哉の文はやはり名文
star『志賀直哉名文集』
star名文と悪文は紙一重

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自分の文章をちょっと考え直してみる

最初に紹介するのは、フランス人による『日本語の森を歩いて』(講談社現代新書)。実は、タイトルからして凝っています。といっても、タイトルに凝らない人というのは、あまりいませんが。

この本のタイトルは「て」で終わっています。しかし、フランス人にとって、「て」という助詞は、大変なくせもので、意味が読み取りにくいようです。たとえば、どうしてある種の「命令」は、「て」で終わっているのか?

「助けて!」
「帰って!」
「起きて!」
「食べて!」

やや女性言葉のようでもありますが、問題は男女どちらかが使うかということよりも、いわゆる「命令形」になっていないこと。とくに、最初の「助けて!」が難しいようで、なぜ、「助けろ!」でも「助けよ!」でもないのか? 「とりあえずそこへ行って、・・・」のように、「て」はよく「中止法」として使う単語ですが、これが文末に来て、意味は命令になるというのが、外国人には何とも理解に苦しむようです。

あなたなら、たとえばアメリカ人にそう尋ねられたとき、どう説明し、納得してもらいますか?

私はかつてアメリカ人と「行ってきます」について話をしたことがあります。欧米人に言わせると、「行くか来るか、どちらかにしてください」と言いたくなる表現らしいのです。この表現であれば、「まず行く。それから帰る」という時間的な順序がある、と言い抜けることができるのですが、

「走って逃げた」

日本語には、こういう表現もあります。この場合、「まず走り、次に逃げたのだ」という言い方は成り立ちません。走ることと逃げることは、ほぼ同時の行為です。だからといって、これを逆にするとおかしくなります。「逃げて走った」ではおかしいでしょう。

『日本語の森を歩いて』にはこのように、日本人でも簡単には説明できないような、ごく基本的な疑問が次々に登場します。それらについて、一つ一つ「正解」を考え抜く必要はないのです。それらについて、一つ一つ改めて考え直すことが、文章力を底上げしてくれます。基本的な語法について、自然と気をつけるようになるからです。

可能な表現を参考にする

『日本語の森を歩いて』が基本編だとすれば、『志賀直哉はなぜ名文か』は応用編です。こちらも最初の本と同じように、タイトルがそれらしくなっています。「志賀直哉はなぜ名文か」。本当はこの文章は、おかしいでしょう。

志賀直哉の文章は、テンポがよく、短く、読みやすいので有名ですが、よく読むと「てにをは」も文法もおかしいものがいくらかあります。こういうのは、いわゆる「名人芸」で、まねしてうまくいくものではありませんが、「より簡潔にまとめるために可能な表現」を知りたいとき、参考にすることができます。

・電車を降り、線路について片側人家のだらだら坂を下りきると、直角に、それが富雄川だ。[直也・『日曜日』1933]

この文中の「直角に」は位置が変ですし、さらにおかしいのは「それが」の受けているものが文中にないところです。しかし決しておかしな文章ではなく、とても読みやすい。つまり、こういう書き方もあるのかという、ちょっとした「アハ!体験」を得ることができる。

だからといって翌日にも「企画書の書き方」に役立つかというと、なかなかそうはいかないでしょうが、とりあえず理解している「文法」の枠をはみ出した方が、結果がよくなるということを、知るだけで意味があります。そこには、新しい法則の予感がありますが、それが分からずとも可能性を感じさせます。その可能性は、自分が書く文章の可能性をも広げてくれるはずです。

以上のことが、2冊の新書を読むだけで、わかります。読み終わった頃には、自分で文章を書くたびに、何か新しい「気づき」を、思いださせられることになるでしょう。

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