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「まずは一冊作ってみる」ことで得られるもの

倉下忠憲
先月発売になった新刊では、セルフパブリッシングをテーマにしました。


そして、この本では

「まずは一冊作るところから始めてみよう」

というお話になっています。

準備を万全に整えてから出陣するのではなく、お試し感覚でまずは一冊作ってみる。たぶん、これが一番通りやすい道です。

なぜかというと、作ってみないとわからないことが、たくさんあるからです。


引き出しが空っぽ

少し前、PDFで小冊子を作りました。

普段はテキストファイルで完結しているので、なかなか珍しい仕事です。テキスト部分を入力して、PDFとして出力しようとしたとき、ふと疑問が湧いてきました。

PDFの上部(ヘッダー部分)にタイトルを入れた方が良いのか。あるいはページ番号は真ん中がいいのか。そもそもページ番号は必要か。表紙ページはどうデザインしたらいいのか。

これまで数多くのPDFを読んできたにもかかわらず、そうした情報は私の頭の中にまったく入っていませんでした。なので判断がつきません。仕方がないので、毎週購読しているメルマガに付いていたPDFファイルを引っ張り出してきて、それを参考に自分のPDFを作成しました。

ようするに、これまでは「目にしていたけれども、見ていなかった」のです。だから私のPDF制作に関する知識の引き出しは空っぽでした。実際に自分が作成する段になって、ようやく「何をどのように見ればいいのか」がわかったわけです。

サイド・チェンジ

菅谷明子さんが書かれた『メディア・リテラシー』という本があります。イギリスやカナダ、アメリカのメディア教育についてのレポートです。

その本の中に、実際にニュース番組を制作する、というメディアの授業を体験した生徒の感想が紹介されています。

「これまでは、テレビの画面に出ている人だけで、番組が作られていると思っていたけど、実は出てこない人の方がメインなんですね。これからテレビの見方も変わってくると思います。
※(太字倉下)

制作する側に回ってみることで、目の付けどころが変わってくる。よくあるお話です。

コンビニで働き出したら、他のコンビニに行ったときに、陳列やスタッフの動き、カウンターの整理状態が気になったりします。ブログを運営し始めると、他のブログの記事や、タイトルの付け方、デザイン上の配慮に注意を払うようになります。

問題や課題に直接ぶつかることで、自分の関心のアンテナが開くようになるのです。

書籍で言えば

「困ったこと」にぶつかっていない状態では、私たちは目にするものをボロボロとこぼしていきます。大量の情報に触れていても、ほとんどスルーするのです。

もし、自分で表紙デザインをして、「あれ? フォントって明朝体の方がいいのかな。それとも…」みたいなことで悩めば、次から書店に訪れたとき、それぞれの本の表紙カバーがすごく気になるはずです。タイトルの付け方や企画の切り取り方も同様です。

一度、いろいろなことで「困っておく」と、インプットの幅がぐっと増えるようになります。おそらく、知識だけを先に放り込んでおくよりも、学びの効能はあがるでしょう。

だからこそ、準備を万全に整える前に、とりあえず一冊作ってみるのです。

さいごに

こうした「とりあえず戦略」が取れるのも、KDPを使ったセルフパブリッシングがローコストだからです。一冊作るのに、100万円単位も必要な自費出版では、こんな戦略は到底とれません。

原稿を書くこと、書籍としてまとめること、データを作成すること、販売すること。

いろいろ課題は多いですが、課題を全てクリアできるだけの力を付けてからチャレンジする、というのではなく、徐々にクリアしながらレベルアップを目指すのがよいかと思います。

▼参考文献:

「メディア教育」というと、単にメディアについての知識を得るためのもののように思えますが、それほど簡単な話ではありません。本書は2000年が初版ですが、そこから14年経ち、現代では市民がメディアを持てるようになっています。

メディアについて知るだけでなく、メディアを使えるようになる。というのが、現代のメディア・リテラシーでは求められるようになるでしょう。

おそらく日本でも少しずつ、こうした教育が行われるようになってきている・・・といいのですが。


▼編集後記:
倉下忠憲



と書いていますが、今のところ私のKDP本は一冊だけ。すでに発売直前までできあがっている原稿データはあるんですが、最終推敲がなかなか終わりません。もう一押しなんですけれども・・・。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。