以下の本を読みながら、新しい本と読書について思いを巡らせました。
» 本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」
電子書籍の登場によって、紙の本が駆逐される。
そう考えると悲しいものがありますが、別の見方もできるかもしれません。
徐々に読まれなくなってきている本を、電子書籍が救う、という視点です。
もしKindleの登場で、これまでよりも本を買うようになったり、あるいは読書時間が増えた、という方がいらっしゃるならその視点に同感してくださるでしょう。
そして電子書籍の普及は、新しい読書の形をも生み出す可能性があります。
今回は、この新しい読書について考えてみましょう。
マイペース・情報摂取
本の長所は自分のペースで楽しむことができる点だろう。急がず自分のペースで読み進め、最初から最後まで順番に読む必要はないので、章を飛ばしたりすることもできる。
読書の最大のメリットはここでしょう。
じっくりと読んでいくことも、飛ばし飛ばしに読むこともできます。わからないところは繰り返し読んでもいいし、辞書などの別の本を参照して読み進めることも可能です。
一対一で行う対話であれば、わからないところを質問できますが、何度も同じことを聞き返すのは難しいものがあります。一週間後、一ヶ月後にもう一度聞き返すのも無理があるでしょう。読書は完全に自分のペースに合わせて、情報摂取を進めていくことができます。
オリジナルな「読み」
それはとりもなおさず、読書が個人的な作業であることも意味しています。個人的な作業であるからこそ、自分だけのペースで進めていけるのです。
また、それぞれの読者は、著者が提示した情報から自分なりの世界を立ち上げていきます。その世界は、必ずしも著者がイメージした世界と同一とは限りません。むしろ、著者を含めた全ての人が少しずつ違った世界を立ち上げる、というのが本当のところでしょう。
それは小説だけの話ではありません。「どう読むか」は個性的な要素なのです。
他の人の「読み方」に触れる
読書がそれぞれ独自の世界を立ち上げる(あるいは、独自の読み方をする)という読書の本質は、電子書籍であっても代わることはありません。それは紙の本が一冊もなくなり、すべて電子書籍に置き換わったとしてもそう言えます。
むしろ、世の中の情報摂取がすべて断片的なものになってしまったときこそが、「本が死んだ」ときです。逆に言えば、まとまった形の情報が摂取されている限り、そこに読書のエッセンスは保存されています。
しかし、電子書籍による読書は、この個人的な読み方にプラスアルファの要素をもたらすことが可能です。
たとえば、以下のページをご覧ください。
» 本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」 (Japanese Edition)
このページでは、『本は死なない』(Kindle版)の「Shared Notes & Highlights」がフィードのように流れています。つまり、他の人の読書メモとハイライトを確認できるのです。
また、「Popular Highlights」といって、人気のハイライト箇所を知ることもできます。紙の本の読書では、こうしたことは不可能ではないにせよ、簡単ではありませんでした。
電子書籍の出現によって、それは個々人が自分一人で楽しむという枠を越え、世界規模で他者とのつながりを構築できる文化へと変貌しつつあるのだ。
残念ながら日本語の本では、この「世界規模」の感覚はまだ得られないかもしれません。そのあたりは機械翻訳などの技術の進歩を待つしかないでしょう。しかし、たとえ日本に限定していても、他の人の共感ポイントや感想にアクセスできるのは、これまでの読書にはなかった体験です。
他の人の「読み方」に共感して思いを強めたり、面白さに気付かなかったものを発掘したり、感想に疑問を感じて、そこから問いを深めていったり、といった読み方ができるようになるのです。
また本書では、#burningthepage というツイッターのハッシュタグも準備されています。このハッシュタグを使うことで、他の読者や著者と交流することも可能です。
新しい読書
こうした体験を、著者のマーコスキーは「Reading 2.0」と読んでいます。私は、拙著で「ソーシャルリーディング」と呼びました。
「ソーシャルリーディング」という表現は、言葉だけ聞くと誤解を生むかもしれません。つまり「みんなで本を読む」行為に思えるのです。でも、それは実体ではありません。
「Reading 2.0」でも「ソーシャルリーディング」でも、ベースにあるのは「自分(ひとり)で本を読むことです。他の人の読み方に盲目に従ったり、多数決で本の価値を決めたりすることとは違うのです。
個々人がそれぞれ独自の読み方をし、それを重ね合わせることで、ひとり読み以上のものを生み出す。それが新しい読書の形となっていくでしょう。
さいごに
紙の本でも、こうしたことは__たとえば読書会のような形で__実現可能ですが、電子書籍ではそうした読み方が、ごく普通の「本を読む」という行為の一部に組み込まれるようになっていくでしょう。
そうした本の読み方が一般的になった世界での、(少々大げさな表現を使えば)知のあり方がどのようになっていくのか、というのが興味あるところです。
» 本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」
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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。