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アウトライン・プロセッシングの三要素


By: Νick PerroneCC BY 2.0

倉下忠憲以下の本では、アウトライナーを用いた「アウトライン・プロセッシング」の手法が解説されています。

» アウトライン・プロセッシング入門: アウトライナーで文章を書き、考える技術[Kindle版]


この手法は、アウトプットを__特に大きな構造を持つアウトプットを__作り出す上で有用です。知的生産を行う際には、ぜひとも参考にしたいところ。

さて、本書の中心的なテーマは「シェイク」となっていて、これはたいへん重要な概念なのですが、私はこれにあと二つの要素を補足的に付け加えてみたいと思います。合計三つとなる要素は以下の通り。

  • シェイク
  • ズーム
  • チェンジ

それぞれについて見ていきましょう。

シェイク

「シェイク」とは何でしょうか。『アウトライン・プロセッシング入門』より引用してみます。

実践的なアウトライン・プロセッシングは、トップダウンとボトムアップを相互に行き来する形で行われます。トップダウンでの成果とボトムアップでの成果を相互にフィードバックすることで、ランダムに浮かんでくるアイデアや思考の断片を全体の中に位置づけ、結合していきます。

「トップダウンだけ」でもなく「ボトムアップだけ」でもなく、それらを両方活用すること。それがシェイクです。

シェイクとは、一つのプロセスです。全体像の組み立て方、そのアプローチの名称です。

このシェイクの有用性__というよりも脳にとっての自然さ__は、私の本でもたびたび紹介しています。トップダウンだけでは構造に無理が生まれますし、ボトムアップだけではMECEに不安定感が出てきます。陰陽模様のように、両方の力を利用すること。その考え方(及びプロセス)がシェイクです。

シェイクの効用

シェイクのメリットは、作業を分離することにあります。

そう考えると、「シェイク」は全体の流れを考えることとフレーズを考えることを意図的に分離して、頭の負荷を減らしているとも言えるのです。

全体の流れを整えることと、フレーズを吟味することはとるべき視点が異なり、必要な脳の働きもかわってきます。しかし、ノーマルに文章を書いていると、この作業が混在してしまうのです。そして、脳に負荷がかかってしまう。

シェイクのアプローチは、全体の流れを整えるときはそれだけを、フレーズを吟味するときもそれだけを行うことにより、そうした過負荷を避ける効能があります。

ズーム

このシェイクの補佐的な要素としてあげたいのがズームです。ズームインとズームアウト。

アウトライナーの場合、下位要素を全て折りたためば、全体の構造の骨組みだけを表示することができます。書籍で言うところの、目次だけを眺めるような視点です。

逆にすべての要素を展開すれば、最底辺の要素も眺めることができ、書籍で言えば本文を読むような視点となりえます。

トップダウンと、ボトムアップです。

しかし、この二つの視点の切り替えだけでは、特定の箇所をピックアップすることができません。

たとえば、「今日の作業では第三章を集中的に取り組む」という場合、第三章の項目だけを展開し、その他の項目を折りたためば、擬似的に第三章の要素だけを表示することはできます。しかし、実際はその他の項目も完全には消えておらず、部分的に「目に入って」しまいます。それが微妙な脳の負荷になってしまうことは、ありそうな話です。

その点WorkFlowyというクラウド・アウトライナーでは、特定の項目にズームすることが可能です。必要な要素以外をすべてシャットアウトできるのです。

この機能は、大きな構造物を生み出していく際に有用です。なにせ、すべてを一気に作り上げることなどできないのですから。

すべてのプロセスにおいて、すべての項目を視野におさめる必要はありません。「全体のことはともかく、今は第三章のことだけを考えたい」という思考欲求はたびたび登場します。つまり、思考ツールにはそうした欲求をうまくフォローしてくれる機能が望まれます。

チェンジ

もう一つ補佐的にあげたいのが、チェンジです。もう少し踏み込んで言えば、パターン・チェンジ、ビュー・チェンジとなります。

アウトライナーは項目の自由な組み替えが可能ですが、もう一点、デジタルならではの機能として「簡単に複製ができる」という特徴もあります。デジタルツール慣れした人にとってはもはや当たり前の機能でしょう。

しかし、アウトプットの作成においてどう使うのかは、また別のお話です。

たとえば要素を組み替えて構造を作っているときに、二つのパターンを思いついたとしましょう。その段階では、どちらが魅力的なのかはわかりません。

であれば、要素全体を複製し、二つのパターンを作ってしまうのです。そして、それらを見比べ、比較してみる。

こうした手法は、情報カードなどのアナログツールの場合、たいへんな手間がかかります。二つのパターンを同時に見比べるなら、カードの複写が必要です。もし200枚も300枚もカードがあるなら現実的ではありません。

一組のカードで行うのであれば、一つ目のパターンを作り、二つ目のパターンを作った後、「あ、一つ目のパターンの方が良かった」となった場合、元の状態に戻すのが非常に困難となります。デジタルカメラで配置を記録しておくことは可能ですが、カードを並び替える手間自体は変わりません。もしパターンが3つも4つもあったら地獄絵図です。

アウトライナーを用いると、「いろいろなプロトタイプ」が簡単に作れます。容易にチェンジできるのです。

複製の容易さ+移動の容易さの合わせ技がここにあります。パターンBでは単に章の順番を入れ換える、パターンCでは章の数を増やす、パターンDでは逆に章の数を減らす。それぞれを作り、それぞれを展開させることができます。

アウトプットの着地点が、スタート時点では明確でない場合、道中は常に手探りの状態で進んでいきます。単一の答えをめがけてまっしぐら、という進み方ではないのです。そうした道のりでは、思いついたいくつかのルートを「とりあえず試す」ことができれば、大いに助かることは間違いありません。

おわりに

アウトライン・プロセッシングは、アウトライナーを用いたアウトプットの作成工程ではありますが、もう少し丁寧に掘り下げれば、「思考の進め方」とも言えます。

  • 「個別と全体を行き来する」
  • 「ズームイン・ズームアウトする」
  • 「とりあえずプロトタイプを作る」

こうしたプロセスを理解(及び習得)することは、限りなく大ざっぱに使われている「考える」という言葉の解像度を上げることにもつながります。よりよく考えるための技法なのです。

アウトライナーを使えば「頭が良くなる」なんてことはありません。単に負荷を減らし、作業がスムーズに行えるようになるだけです。また、そもそもとして「やること」が増える可能性もあります。アナログでは、手間がかかり検討さえされていなかったことが、現実的な手間の許容量に収まったために、アウトプットのプロセスに組み込めるようになったためです。

ある部分では楽になり、ある部分では作業が増えた。そう考えると収支自体はそんなに大きくプラスになっていないかもしれません。しかし、脳の負荷を減らし、やるべきことをやる方が、良いアウトプットが生まれてくる可能性は高いでしょう。

» アウトライン・プロセッシング入門: アウトライナーで文章を書き、考える技術[Kindle版]


▼編集後記:
倉下忠憲



あたらしいと言えるかどうかはぎりぎり微妙なところなんですが、「編集の仕事」を始めました。といっても、非常に限定的ではありますが。その辺のアウトプットもちょこちょこブログに書いていく予定です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。