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『本はどう読むか?』のノート術 〜ノート術の探求(3)〜

By: Ricardo


倉下忠憲「世にある知的生産系の本から、ノート術をピックアップする」

という企画の第三弾。

今回取り上げるのは清水幾太郎さんの『本はどう読むか』。

» 本はどう読むか (講談社現代新書)


読書に関する本なので、紹介するノート術も読書ノートに関するものになります。

客観によるノート

本書の中で、著者はノートを取るときの二つの態度を紹介しています。

一つは、「客観主義的ノート法」。これを著者は「書物に忠実な態度」と表現しています。

何分にも、私の側に自信や見識がまったくないので、温和しく書物について行くほかはなかった。比喩的に言えば、書物で大きく取扱われている事柄は、ノートでも大きく取扱う。書物で小さく書かれている論点は、ノートでも小さく書く。

つまり、書物の視点通りにノートを書くわけです。

よくよく考えてみると、その書物だって書き手の視点で書かれているわけですから、十分な「客観」とは言えないかもしれませんが、ノートの書き手による主観が入っていない、という意味での客観主義、ということなのでしょう。

が、こうしたノートは「思ったほど役に立たない」と著者は述べます。大切なことはノートに記録されているけども、自分の頭の中にはほとんど何も残っていない。そんな状況に陥ってしまうそうです。

主観によるノート

もう一つの態度は、「主観主義的ノート法」。これは書物ではなく、テーマに忠実なノートの取り方です。

いろいろな書物の或る部分をノートに写したり、それに関する自分の意見を書きとめたり、コントの生活の起伏や当時の諸事件を書き込んだ自家用の年表を作ったり、大いにノートを利用した。

「客観主義的ノート法」が原本のミニコピーを目指していたのに対して、「主観主義的ノート法」は自分が求めるテーマのためにノートを活用しています。アウトプットに役立つのは、もちろんこちらの方でしょう。

であれば、「今日から主観主義的ノート法を始めましょう!」という結論に飛びつきたくなります。でも、それで大丈夫なのでしょうか。

どちらが、ではなく

著者は二つのノート法について以下のように述べています。

いろいろな本を読み、それらの本の内容を保存しようと考えて、書物中心の客観主義でノートを作っているうち、或るテーマに特別な関心を持つようになり、そこから、自己中心の主観主義でノートを作る道へ入り込んでいく。これは、読書の成長、ノートの成長、読者の成長である。

いきなり主観主義でノートを取ろうとしても、書き足せるような自分の考えもなければ、情報の重要度に関するジャッジメントもできません。そのテーマに関する全体的な知識が不足しているのです。そんな状況では、主観主義でノートをとっても、貧相なノートにしかならないでしょう。

なので、一度は客観主義でノートを作り、そのテーマに関する素地を育てる中で、浮かんできたテーマを元にして、もう一度ノートを作っていくわけです。

わかりやすく切り分ければ、「前半戦」「後半戦」のノートの取り方と言えるでしょう。それぞれで、ノートを作るときの態度は変わってきます。

ノート術のバージョンアップ

本書から学べるのは、「ノート術の移行」です。

一つのノート術にずっとこだわる必要はありません。自分の変化や成長にあわせてノート術をバージョンアップさせてもよいのです。むしろ、そうすべきでしょう。

これを念頭に置くと、既存のノート術に潜む問題も見えてきます。著名人によって紹介されているノート術は、ある意味で「後半戦」のノート術なのです。なにせ、業績を残して、自分のノウハウをを紹介できる立場になっている人のノート術なのですから。

しかし、それがこれからノートをとりはじめる初心者向けの、つまり「前半戦」のノート術にふさわしいかどうかはわかりません。そこは慎重に判断する必要があるでしょう。いきなり主観主義的ノート法をとりはじめても、うまくいかないのですから。

デジタル・アレンジ

デジタルでノートを取った場合、ノートの移行は比較的容易になります。手書きと違ってコピーができるからです。

つまり、客観主義的ノート法でとったノートを素材にして、主観主義的ノートを作成できるのです。二度手間感は、かなり減るでしょう。

たとえばテキストファイルやEvernoteのノートに、一冊の本ごとの読書メモ(引用や大意)を作成しておき、それがある程度進んできて自分なりのテーマが見つかったら、新しいテキストファイル(やEvernoteのノート)を作り、これまでの蓄積を活かして、情報を再構築していくわけです。

こうしてみると、デジタル向きな作業と言えるかもしれません。

おそらく今後は電子書籍が普及していくので、読書ノートの取り方もデジタルシフトしていくでしょう。それでも、客観と主観という二つの態度の切り分けは適用できそうです。あるいはReading2.0なるもので、これが拡張していくことすら考えられます。

さいごに

今回は「読書ノート」についてのお話でしたが、これはその他のノートにも敷衍できそうです。

レベルに応じてノート術を使い分ける。つまり、何を・どのように記録していくのかを変える。

そうした態度はノートと長く付き合っていく上で大切です。

» 本はどう読むか (講談社現代新書)


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▼編集後記:
倉下忠憲



8月に入りました。ちなみに、7月の新作電子書籍も無事発売になりました。「月刊くらした」計画も第四弾なので、EPUBファイル作りは相当になれてきた印象があります。このあたりを簡略化して、コンテンツ作りに使える時間をもっと増やしたいというのが、今のところの目標。長めのエッセイ集ですので、ご興味あればぜひ。

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▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。